『多動力』を使って海外で働くには?

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今回の書評は『多動力 (NewsPicks Book) 』です。

多動力成分

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多動力は海外でも通用する働き方

かつて日本で働いていたとき、同調圧力のようなもので常にストレスを感じていました。しかし本書を読み「自分は間違ってなかった」と思えるようになりました。

本書は幻冬舎の敏腕編集者である箕輪厚介氏が、ホリエモンこと堀江貴文氏のマルチな活動がどうやって行われているのか、という疑問を解消するために書かれました。

私はいわゆる日本的な社会人スキルとは少し違うスキルを身につけたのでしょう。なぜなら博士号をとる為に独学でがむしゃらにやっていたため、いわゆる社会人マナーを植えつけられなかったからです。

だからこそ日本で働き始めてからはストレスだったのかもしれません。日本を飛び出してシンガポールやベルギーで働き始めてからは、特にカルチャーショックがなく普通に働けました。

そんな私が海外で働いた経験から、本書で特に共感できる部分を紹介しましょう。

寿司屋の修業なんて意味がない → オープンな環境にすべき

堀江氏は寿司の修業という閉鎖的な環境について批判しています。

批判の根本は「車輪の再発明」です。誰かが通った道をもう一度はじめからやらないといけない、という非効率的な環境にあります。

それに対してプログラマの世界にある「オープンイノベーション」を推奨しています。つまりソースコードやノウハウを共有することで、他の人とどんどん改良しあい相乗効果で良いものにしていく、という文化です。

この意見については同意します。私の事例を紹介しましょう。

日系大手メーカーではいまだに「自社専用のシステム」があり、また「ウチの会社のやり方」というのが幅を利かせています。図面の管理ひとつにしても、A社とB社では違うシステムを使っているので、そのつどその会社の文化に染まらないといけません。とても非効率です。

現在私が働いているベルギーの会社も日系企業です。やはりその会社のツールを覚えるところから仕事は始まりました。

その一方で、ローカルのメンバーは開発したコードや不具合情報を GitHub のようなオープンなツールでどんどん共有しています。万が一、外部のソフトウェア会社と連携で開発することになっても、アカウントとアクセス権限を作るだけで共有できます。

その間、日本側は図面の共有が会社ごとに独自のツールを使っていて共有ができず、どうすべきか延々と会議をしています。

このスピード感覚の違いが開発競争の優劣に響かないといいのですが。

電話をかけてくる人間とは仕事をするな→時間の浪費

海外の職場でよく電話をしているのは「日本人の駐在員さん」か「仕事のできないローカルスタッフ」のどちらかです。

私も電話を使うことはありますが、それは「緊急時」だけです。頻度で言えば、月に 1 回もないでしょう。通常の業務は社内・社外(取引先)の連絡どちらもメールで十分回せます。

また、現地の日常生活で電話する必要があるのは「レストランの予約」くらいです。レストランも今やオンラインで予約できます。日本ではいまだに電話しか受け付けないところがあるのが不思議なくらいです。

では、なぜ先に述べた 2 つのケースでは電話をしているのでしょうか。

日本人の駐在員さんは「国際電話で日本の事業所とすり合わせ」している場合が多く、自分の仕事をする時間がありません。せっかく赴任しているのに、国際電話で日本の仕事をしているのです。そして、赴任先での自分の仕事は「日本の会社の定時後」に始まります。

何のために赴任しているのでしょう?残念ながら、これが日本の駐在さんの現状です。

「仕事のできないローカルスタッフ」はほとんどの場合、しゃべることで仕事をしている気になっています。お客様と直接話す必要のある営業や接客業は別ですが、私のように技術者は製図や製造など「手を動かす」しかアウトプットはありません。しかし、それができないスタッフほど同僚との電話やミーティングが多いのです。

興味深いことに、日本人/外国人かどうかは関係ありません。できる人はできる、できない人はできません。実際にローカルスタッフでもできる人はいます。

これが平社員ではなくマネジメント職であればまだわかります。マネジメントは指示を出したり決済・承認を行うので、コミュニケーションが必要なこともあるでしょう。しかし実際には、承認も会社の共通システムでやる場合が多いので、基本的には顔を合わせなくてもできます。それを平社員クラスがやっていれば問題ではないでしょうか。

顔と顔を合わせないと仕事が回らないという方がいますが、それはそもそも「信頼関係」ができていません。電話といった「ツールの問題」ではありません。

私は電話やミーティング自体は否定しません。問題なのは、その回数が多すぎることです。実際にミーティングが必要でも、ビデオ会議があります。

時差を考慮してビデオ会議をすれば、赴任先や出張先にいても会う必要は基本的にないはずです。これも信頼関係ができていることが前提です。

電話がないと仕事にならないのであれば、根本的な仕事のやり方を改めてみてはいかがでしょうか。これは日本でも外国でも同じです。

99%の会議はいらない→取捨選択して作業時間を確保

シンガポールでは 2 年半働いていましたが、あまり会議に出席しませんでした。

その会社では製品の不具合が多発していたので、図面の修正、部品の注文、動作検証などで時間がいくらあっても足りませんでした。そのため会議に出ずに作業時間を確保しました。

これが日本であれば間違いなく怒られたことでしょう。ところがこの会社では何も言われませんでした。

結局、自分が出席しなくても業務は進むのでした。

もちろん全ての会議に出なかったではありません。

設計変更会議では私が出席して「どの図面をなぜ・どのように変えたのか?変えたことで他に影響は出ないか」という説明責任を果たしました。また自分のプロジェクトの報告や、通訳として借り出された場合は出席しました。

もう出席で点数をつけるのはやめませんか?もっとアウトプットベースでの評価をするべきです。

「専門(特殊)能力」×「語学力」だけでも海外で勝負できる

海外でマルチにできる人は少ない

ここからはもう少し深く掘り下げてみましょう。

堀江氏は「三つの肩書きをもてば、あなたの価値は一万倍になる(他動力目次より)」と主張されています。また、藤原和博氏も「 100 人に 1 人以上のレア人材になる(藤原和博の必ず食える 1 %の人になる方法、東洋経済新報社)」と主張されています。

そういう説明を見ると「難しそう」という感じがしますが、決して難しいことではありません。大切なポイントは「他の人にはない人材になること」です。これは日本で働くにしても、外国で働くにしても共通しています。

そして、私の経験で言えば「専門能力」×「語学力」の二つを掛け合わせることがポイントです。堀江氏の言う「三つの肩書」があれば良いですが、海外で働いている経験上まだ3つ無くても通用します。

特定の分野で他の人よりも得意であれば、 100 人に一人のレア人材です。そしてそれが二つあれば「 100 人 × 100 人 × 1 万人に一人」となります。現状であれば、この「 1 万人に一人」であっても海外で立派に働くことは可能です。

私のケースでは「技術者としてのスキル」×「英語力」となるでしょうか。語学力としては英語がまず挙げられますが、英語圏以外の国で勝負するには他の言葉に置き換えても問題ありません。

まずは「専門能力」×「語学力」の二つがあれば海外でも仕事をすることができます。 3 つあればさらに素晴らしいでしょう。

海外の仕事ではポジションに対して仕事内容が決まっています。そのためか日本と比べて仕事に幅を持たせることができません。その点日本は基本的に1つのことだけやることはないので、海外で働く際のアピールはしやすいでしょう。

「語学力」よりも「専門(特殊)能力」が大切

では、培ってきた「専門能力」と「語学力」はどちらが大切でしょうか?それは、「専門能力」です。なぜでしょうか?

日本人が世界で勝負できる仕事として「エンジニア」か「すし職人」がよく挙げられます。この二つは他の人には真似しにくく、かつ日本人にとって習得しやすいスキルだからです。

言葉はあくまでもコミュニケーションツールです。英会話はもちろんできた方がいいですが、英語が話せるだけの人は世の中にたくさんいます。厳しいですが、平均的な日本人の英語力ではネイティブスピーカーに絶対に勝てません。

しかし、専門スキルとなれば話は別です。例えば以前の記事で紹介した「さかなクン」のように「魚の知識がずば抜けている」といったスキルは、英語のネイティブスピーカーであれば身につくものではありません。また、メジャーリーグのイチロー選手のようなプレーも、英語のネイティブスピーカーが真似できるものではありません。

別の例でいえば、私が尊敬する Jazz ピアニストである上原ひろみさんは、世界で勝負するのは「英語力」ではなく「表現力」とインタビューで話しています。

外部リンク(ライブドアニュース):http://news.livedoor.com/article/detail/11913370/

上記の例で挙げた方々はずば抜けた特殊スキルの持ち主なので、みんなが(私も含めて)あのようにはなれません。しかし、参考になることも確かです。

私自身もシンガポールやベルギーで仕事ができているのは、「技術者としてのスキル(専門能力)」がまずあり、プラス「英語力」で現地スタッフとコミュニケーションができるからだといえます。その実績をベースに「バイリンガルエンジニア」と自称しています。

専門能力があれば、あとはどうやって英語でアプローチするか、という話になります。英語で履歴書を書く、英語で面接を受ける、英語でブログを書く、英語の歌を歌う、英語の Youtube ページを開設する、など手段はあります。

英語のつたなさを指摘されることを恐れていますでしょうか?それは心配不要です。なぜなら、英語は世界の共通語なので非ネイティブがほとんどです。

非ネイティブスピーカーも常に正しい英語を使っているのではありませんし、他人の英語の間違いを指摘しません。もし仮に指摘されるようなことがあれば、むしろタダで教えてもらっていることに感謝するくらいの気持ちが大切です。

私がかつてアメリカ人先生に教えてもらったように「英語はマスターできません(英語習得物語 第 8 話:英会話教室に半年だけ通った大学院生時代)」。この言葉を是非とも覚えていただきたいです。

まずは「他の人にはない特別なスキル」に磨きをかけられることをお勧めします。そして、その特別なスキルを身につけるためには「サルのようにハマる(多動力目次より)」必要があるのです。

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今回紹介した本

堀江 貴文, 幻冬舎, 2017
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