自分探しよりも大切な、目の前のことに全力で打ち込むキャリア形成
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「自分探し」や「人生設計」をやるように勧められたことはありますか?私は大学 3 年生の頃に大学主催の就職活動セミナーでやった記憶があります。何歳で結婚して、何歳で家を買って…全くその通りの人生になっていません。
このシリーズでは海外就職というキャリアの選択肢を紹介してきました。この記事では、これから先の働き方について考えてるあなたへ、私にできるキャリア全体アドバイスをまとめました。
大切なことは、目の前のことに全力で打ち込むと先が開かれるということです。私の経験も包み隠さずおはなしします。
スティーブ・ジョブズ伝説のスピーチより
まずは昨今知らない人はいないであろう伝説の人、アップルの創業者故スティーブ・ジョブズ氏から取り上げましょう。 2005 年に行われたスタンフォード大学での伝説のスピーチにて、心に響くメッセージがいくつもあります。そのうちの一つを紹介しましょう。
外部リンク:Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address(スタンフォード大学公式Youtubeチャンネルより、原文英語・日本語字幕あり)
ジョブズ氏は大学を半年で中退してしまいます。中退することが決まり必修科目の授業に行く必要がなくなったので、純粋に興味を持ったカリグラフィー(文字を美しく見せるための手法)の授業に行きます。そこでアルファベットを文字として美しく見せる方法を学びます。
その時はただ興味本位で受けた授業ですが、その後初代マッキントッシュを開発する際のフォント設計に当時の授業が役に立ったとスピーチで説明しているのです。
ジョブズ氏はそのふたつの出来事を点に例えて、 “connecting the dots” (点と点を結ぶ)と表現しました。現在から未来の点をつなぐことはできない(先のことはわからない)。現在から過去の点だけを結ぶことができると伝えています。
このスピーチでは「将来いつ・どこで・何が役に立つか分からないので、自分を信じて今できることに集中しよう」というメッセージを卒業生に贈ったのです。
心理学的なキャリア論を発表してきた人たち
そうは言っても、ジョブズ氏は天才なので私たちのような一般の人々には当てはまらないのでは?と思われるかもしれません。そこで次は、キャリアについて考えてきた人々について、私の経験と共に紹介しましょう。
私が海外就職をしようと決めたとき、あるキャリアアドバイザーから教えていただきました。それは「キャリアの 8 割は予期しない出来事や偶然の出会いによって決定される」というものです。
その時はあまり気にしていませんでしたが、数年後ふと自分のキャリアを振り返ってみたところ当てはまる気がしました。そこで改めて調べてみたところ、スタンフォード大学の教授で心理学者のクランボルツ氏 (John D. Krumboltz) の「計画的偶発性理論」というキャリア論であることを思い出しました。
外部リンク:計画的偶発性理論 – Wikipedia
クランボルツ氏は著書も出しており、その日本語版を読んでみました。まず、目次の内容からしてビジネス書のようでした。目次からの抜粋で章のタイトルを引用させていただきます。
- 第 1 章 想定外の出来事を最大限に活用する
- 第 4 章 結果が見えなくてもやってみる
- 第 5 章 どんどん間違えよう
- 第 6 章 行動を起こして自分の運をつくりだす
- 第 7 章 まず仕事に就いてそれからスキルを学ぶ
どうでしょうか。大学教授が書いた難しい感じの本、という感じではなさそうですね。実際、この本には難しい理論的な説明はなく、たくさんの人の経験談がまとめられています。
中でも「どんな仕事でも学びの経験になる(同書 p.186 )」というマリアの話が、私の経験と似ていて共感しています。
マリアは学校の先生になるために教員資格を取ろうとしました。教員資格は取れたにもかかわらず、人員教員削減により正規の先生として採用されませんでした。しかし、教員資格を取るための一時的なパートとして続けていた不動産査定の仕事で結果的には副社長まで昇進していく、というキャリアお話しです。
クランボルツ氏のほかにもキャリアについて持論を展開されている人たちはいます。例えば、アメリカの心理学者ドナルド・E・スーパー (Donald E. Super) の理論(キャリアは一生涯を通じて発達していくもの)や、ボストン大学教授のダグラス・T・ホール (Douglas T. Hall) の提唱した「プロティアン・キャリア」などです。
キャリアはその人の人生に大きく影響することなので、研究している方も多いのでしょう。
経験談:がむしゃらにやったら遠回りしたけどなりたい自分になれた
私が目の前のことに打ち込んでキャリアが開かれた経験についてお話ししましょう。
私は大学院を出て大学教員を目指していた時期がありました。大学院を無事修了して博士号は取れましたし、実績となる論文も発表していました。しかし、日本国内と台湾で教員の仕事を探したにもかかわらずポストは見つかりませんでした。
当時 27 歳で職務経験が無かったことに負い目を感じていた私は決断して台湾を去り、日本で電気技術者の仕事を始めました。
自分が望んでいなかったトラックの運転や、ヘルメットをかぶって工事現場や変電所に入りホコリまみれの仕事でした。なにも大学院を出てまでやる仕事ではありません。博士号を取得したことを当時は後悔しました。それでも当時はがむしゃらにやり、仕事を覚えました。就職直後は目の前の生活で精一杯でした。
ところが、就職した一か月後にリーマンショックが起きました。もしあの時決断して台湾から帰ってこなければ、この先どうなっていたのだろうとぞっとします。事実、仕送りをしてくれた両親が「あの時これ以上支援はできなかった」と言っていました。どのみち台湾にはいられなかったのでした。
さらに続きがあります。当時の会社員経験で習得した電気技術者の専門知識と大学院生時代から続けていた英語学習が5年後に活きたのです。最初の転職でシンガポールの日系大手メーカー、二度目の転職でベルギーにある日程大手メーカーの仕事につながったのです。
ものすごい遠回りをしましたが、結果的にはなりたい自分になれたのでした。
これをクランボルツ氏のように言うならば「結果オーライを想定(計画)して実行しよう」となるでしょう。それこそ、日本にあることわざで言えば「犬も歩けば棒に当たる」でしょうか。大学院生だった当時の自分では全く想像できなかったキャリアを積んでいると言えるでしょう。
私も含めて、多くの人は思い通りに生きられるとは限りません。そういう意味でも、クランボルツ氏のアドバイスは私たちのような一般人の目線で研究していたのです。
自己啓発書の古典でも言われていた
昨今の日本はビジネス書や自己啓発書があふれており、情報過多と言えます。
私はビジネス書を読まない方ですが、ある時古典についてもう少し読んでみようと思ったことがあります。そんな中、D.カーネギー著『道は開ける 文庫版(創元社、 2016, 初版 1948 年)』を読む機会がありました。
同書は「悩み」を解決するのが目的として書かれ、「今日、一日の区切りで生きよ」という内容からスタートします。この中で、医者として活躍したオスラー博士がエール大学の学生に向けて講演した内容を、カーネギー氏はこう振り返ります。同書から引用させていただきます。
博士はあの講演の中で、明日の準備をする最良の手段は、諸君の全知全能を傾け、あらゆる情熱を注ぎ、今日の仕事を今日中に仕上げることであると説いたのだ。これこそ未来に対して準備を整える唯一の方法と言えるだろう。
とても難しい文ですが、言いたいことは「目の前のことに全力で打ち込むと未来が開ける」ということです。そしてこれが同書の冒頭で解説されている「悩みに関する基本」を解決するためのアドバイスなのです。
同書は古い本で難しく読みにくいかもしれません。最近はマンガによる解説本が複数の出版社から出ていますので、カーネギーのアドバイスを詳しく知りたければ『マンガで読み解く 道は開ける』創元社 (2016) といったマンガから入ることもできます。
ちなみに、この記事冒頭で紹介した伝説のスピーチでもスティーブ・ジョブズ氏は「 33 年間毎朝、今日で死ぬとしたら今日は本当にすべきことをするか?」と自分に言い聞かせていたのです。数十年の時を経て著名な二人が同じことを言っているということは、悔いの残らないキャリアを積んでいくための大切な真理かもしれません。
もっと古いことを言ってしまうと、この考え方は仏教でお釈迦様が本来教えたかった内容になります。このブログでは宗教的な話はできるだけ避けたいのでここでは触れません。しかし「目の前のことをやる、今日一日を精一杯にやる」という考え方は決して新しいことではないのです。
まとめ
人生設計はあくまでも、高度成長期という戦後の日本のほんの数十年でしか通用しなかった特殊な考え方だと言えるでしょう。
私自身も 5 年先のことはわかりませんし、自分自身の今後のキャリアについて今も悩みます。ただ 20 代のころと比べると深刻には考えなくなりました。なぜならば、本記事で紹介してくれた先人たちがアドバイスしてくれたからです。
この記事をまとめましょう。
- 時を越えて偉人たちは「目の前のことに打ち込む大切さ」を教えている
- キャリアの専門家も「計画だけでは見えない偶然性」を教えている
- キャリアは生涯をかけて築くものなので、途中で変更しても構わない