エンジニア不足の企業とある技術者の転職ミスマッチのおはなし
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スマートフォン向けサービス、人工知能 (AI) やモノのインターネット (IoT), 仮想現実 (VR) など技術の進歩が目覚ましいです。そのためかエンジニアの人手不足が深刻になっているというニュースを目にします。
この記事では、技術者である私の転職経験から人手不足の原因の1つを書きます。結論から言うと、ただ人材が不足しているだけでなく、組織がうまく機能していないと考えています。
昨今のエンジニアは給料や待遇の悪さ、ブラック労働、 3K, 年齢制限(プログラマ 35 歳定年説)、社内教育不足などのイメージがあるからです。
本来であれば、データによる裏づけが必要かもしれません。ただこの記事では私の経験を語ることをメインにして、一般論的な議論は避けます。データを使った解説は他の人にお願いして、この記事では省略させていただきます。
私のようなエンジニアは求められてなかった
2016 年 12 月、私はシンガポールで転職活動をしていました。
このとき私は 36 歳。次はマネジメントかスペシャリストとして採用してもらえるように、履歴書と職務経歴書には以下の内容を盛り込みました。
- 電気系技術者として製造業全般の知識があり、経験も 9 年ある
- 英語でチームマネジメントも経験(シンガポール就労の成果の 1 つ)
- ハードウェアだけでなく、ソフトウェアの素養もある
- 今後必要とされる人工知能の知識もある(大学院生時代に少し研究していた)
- 先端知識を吸収するなど向上心を持っている(転職活動をしながら IoT 検定を受験して合格)
書類は日本語と英語の両方で作成しました。また転職系 SNS である LinkedIn にも同じ内容を公開しました。
関連記事:和文職務経歴書の書き方と海外就職できた実例(当時の職務経歴書を個人情報や会社名を削除した上で公開)
転職エージェントは 3 社登録しました。 1 社目はヨーロッパのエージェント、 2 社目は日本国内のエージェント、 3 社目は日本国内のエグゼクティブ系転職サービスでした。
さらに、自分でも面白そうな会社があれば直接応募しました。実際に、外資系企業や日本国内のベンチャー企業に応募をしました。
転職エージェント経由を含めてトータルで 10 社応募しました。応募した結果はこのような反応でした。
- 私が係わった製品と、応募した会社の製品で分野が違うから採用できない(製品は違っても技術的な動作原理には共通点があるはずなのに)
- スペシャリストを必要としており、ジェネラリストは求めていない
- どこに配属すれば良いのかわからない(たらい回しにされた結果)
- 即戦力ではない
- オーバースペックな人材なので扱えない
さんざんな言われようでした。この転職活動時、某面接では「有休を使って面接に来る奴は信用できない」とまで言われたことは別の記事でもおはなししました。
関連記事:転職活動で不採用が続くときのアドバイス(1/2)採用側の事情(私が実際に海外就職面接で言われたことあれこれ)
私も 2 度目の転職なので、すぐに決まらないことは理解していました。ただ、ある会社には即戦力ではないと言われ、他の会社ではオーバースペックと言われる矛盾。悔しい気持ちでいっぱいでした。
例えて言うならば、カジノのルーレットの球が回転盤に何度もはじかれて、どこの穴にも入れない感じでした。
そして、 11 社目に直接応募したベルギーの会社では、 1 回の Skype 面接であっさりと採用が決まりました。 AI や IoT に係わる業務内容でこそないものの、私のスキルとマッチングはしましたし、応募先の会社からも「山口さん(筆者)のような人材が欲しかった」と言っていただけました。
忘れた頃に一気に3件も応募の打診が
1年半後にようやくスポットライトを浴びた?
この転職活動から 1 年 7 か月経過し、 2018 年 7 月になりました。ベルギーの仕事も勤続 1 年になりました。
この 1 年間は普通に働いていたため、転職活動は全くしていません。ところがこの 1 か月の間に、なんと3社から応募の打診がありました。 1 社目はアメリカの会社、 2 社目はドイツにある日系企業、 3 社目は日系大手メーカーの管理職の仕事でした。
前回の転職活動時から LinkedIn の情報は更新していません。つまり、 2016 年 12 月時点での履歴書と職務経歴書の内容を見て打診してきたことになります。 1 年半以上もの時を経て、私の経歴にスポットライトが当たった感じでした。
3 社目の日系大手メーカーについては、 LinkedIn 経由でこのようなメールをいただきました。イメージとして紹介します。
山口様のマネジメントのご経験、データ解析やAIの知識、さらにシンガポールでのご経験を通じたスキルの高さに非常に可能性を感じております。
ここまで言っていただけたのは素直に嬉しいです。その反面、あの悔しさが甦りました。
どうしてあの時に(ベルギーの仕事が決まる前に)打診をくれなかったのか?すれ違いを感じました。
今は SNS 経由による個人同士のつながりも大切です。打診していただいた担当者様には丁寧に返信しました。 LinkedIn の情報を更新していないこと、現在ベルギーで働いていて転職するタイミングではないことを説明したところ、納得していただけました。
不誠実な対応をされたことも
今後もいつ・どこで・誰と関係ができるかはわかりません。いただいたお話には極力丁寧に返信を心がけているつもりです。
ところが、 2 社目のドイツ企業の話は同じようにできませんでした。
実は、 2 社目の打診は LinkedIn 経由ではなく転職エージェント経由でした。ただベルギーの仕事が決まった後は履歴書を更新していないため、やはり 2016 年 12 月時点の私の経歴から判断して連絡がきたことになります。
この連絡にも同じように丁重にお断りの返信をしました。
ところが問題が起きました。何度返信してもエラーメッセージとなって戻ってきたのです。実際に戻ってきたメールを紹介します。
このメールの一番下の赤線部分をご覧ください。私のメールアドレスはブラックリスト入りしていたのです。エージェント側が私のメールアドレスをブロックしていたのです。
このメールアドレスは Gmail などの無料メールではなく、プロバイダのメールアドレスです。このメールアドレスに問題がないか確認したところ、やはり他社とのやり取りでは問題ありませんでした。
しかもこのときが最初ではありません。数ヶ月前にも近況報告のメールが来たため返信しました。その時もブロックされたので、別のメールアドレスから送信し、ブロックされたこともきちんと伝えました。
別のメールアドレスで送信してもエラーメッセージは来なかったため、エージェント側には届いていたはずです。ところがそのメールには返事はありませんでした。
そして今回の応募のお誘いのメールにも、ブロックの件については一切触れておらず応募の話を一方的にされました。
転職エージェントの闇を見た感じです。いくらセキュリティとはいえ、登録している人材に対してこの扱いです。自分たちの都合の悪いことには一切触れず、利益になりそうな場合にのみ連絡をしてくる。あまりにも不誠実です。
転職エージェントの売り上げは人材と会社をマッチングさせることによる成功報酬です。私のことを金のなる木と思われていたかもしれません。
不誠実な対応には毅然と立ち向かいます。ブロックされていないメールアドレスから、もうこのエージェントとは取引したくないことを送信しました。
そして今のところ何も返事はありません。
人材不足は単純に人数が足りないだけなのか?
ある調査では、 AI 人材が不足していると回答した企業が 90.9 % にもなると指摘しています。また経済産業省も 2020 年までに 48,000 人の「 AI や IoT などを担う先端 IT 人材」が不足するという見通しを公表しているようです。
外部リンク:出遅れたニッポンAI、3タイプの人材確保を急げ | 日経 xTECH(クロステック)
この記事は 2018 年 2 月に公開されました。その約 5 か月後、応募の誘いが私に 3 件もあったことを考えると、確かに人材不足なのかもしれません。
私のような人材でも欲しいほど、企業は人材不足なのかもしれません。
ただ、申し訳ございませんが、対応が遅すぎませんか?
2016 年の時点でもすでに人材が不足していると言われていました。私もそれに気づいたので、あえて AI や IoT といったキーワードを戦略的に入れた履歴書や職務経歴書で応募しました。 IoT については独学で知識は学び、検定にも合格しました。
私の実績は本当にたいしたことないのかもしれません。それでも 2016 年の時点では、その書類で応募しても採用されませんでした。一方、同じ書類で 1 年 7 か月後に AI 人材としての応募のお誘いを受けたことも説明したとおりです。
この流れから、人材が数として不足しているだけでなく、このような原因も考えられないでしょうか?
- 大企業ならではのフットワークの重さ
- 採用側が応募者を過大評価もしくは過小評価
- 適切な人材の採用、適材適所の配置ができているのか
採用側の面接での評価については既に説明しました。能力評価は建前で、好き嫌いで人事評価している感じは否定できません。すでに別の記事にて、シンガポール人で明らかにプログラミングスキルがないのに、うまくアピールしてシニアソフトウェアエンジニアとして転職した人の話もしました。
関連記事:和文職務経歴書の書き方と海外就職できた実例(経歴にウソを書いてはいけないが、どこまでハッタリを言うべきか)
私は日系大手企業の海外法人で 2 社就労経験があります。大企業ならではの判断の遅さについては自分の目で見ています。自分の意見を通すために、時に政治的に動き上司をうまく説得しようとしたこともあります。それでも私のように権限のない人には無力でした。
別の観点からも書きましょう。
設計と実装(ハードなら製造、ソフトならコーディング)は異なります。実装は人海戦術的なところもあり、ある程度の人数が必要なことは同意します。ただし、よく理解していない人にやらせると、想定通りの物ができず後戻りするなど、かえって時間とお金が無駄になる可能性もあります。
人数とパフォーマンスが比例するとは限りません。その点をマネジメントがきちんと見極めているでしょか?
また、たとえ優秀な人材がいても、その人材をうまく使えていない可能性もあります。できる人から会社を辞めていくと言いますが、私もその通りだと思います。
現在の組織の状態を正しく把握して、それでも追加採用が本当に必要なのでしょうか。
このように、人が足りないから採用するのではなく、現在の労働環境や組織的な改善を行い、きちんとやっている人が正当な評価がされればパフォーマンスは上がるはず。
私自身が技術者として働いて一番痛感するのはここです。
まとめ
私は技術者の一人にすぎません。製品の不具合や技術的な問題は解決できても、組織の問題は直せません。実際に私は声も上げましたがやはり無力で、やはりマネジメントの責任は重大です。
あと私にできることは情報発信くらいです。少しでもこの現状が改善されることを願うばかりです。
この記事をまとめましょう。
- 自分の感覚と企業側には時間的なズレがあった。用意した履歴書が1年半以上経過してから注目された。
- エージェントや企業側が必ずしも誠実な対応をしてくれたとは限らなかった。
- 人数不足だけでなく、現状の組織で人材がきちんとパフォーマンスを出せるか振り返ってみてほしい。