英文は手を動かして読む?理系目線の英文解析と文法学習法
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いまや日本の英語教育は「文法=悪」となっています。私も英語コンプレックスになった原因のひとつとして、この英文法教育にあるといってもいいでしょう。
ただ文法自体は悪ではありません。文法は文章の組み立て方を決めたルールです。ルールを無視した会話や文章では円滑なコミュニケーションができません。
ではどうやって文法を克服すれば良いでしょうか?
このシリーズではすでに、洋書の多読で楽しみながら英文法を覚える方法は提案しました。この記事ではもうひとつの方法「手を動かしながら英文法を覚える」方法を紹介します。
英文は単語に分解して関係を見える化できる
理屈よりも手を動かしながら覚える
英文法を使いながら習得するにはどうすればよいのでしょうか?
例えば野球やサッカー、将棋を覚えるにも、ルールブックを読むだけでは楽しくないですよね。多くの人はボールや駒をさわりながら経験的に覚えていくはずです。
ところが英文を直接手でさわることはできません。その代わりに、英文に書き込みをすることで、英文にさわるような感覚を体験することができます。
英文に書き込みをして、英文がどういう作りになっているのかを解析してみる。これがヒントです。
手を使って解析することを、理系の例で説明します。
メーカーは競合他社の製品を分解し、その製品の中身がどうなっているのか、どういう造りになっているのかを徹底的に分析します。するとその製品の良いところと悪いところが目に見えて理解でき、自社の製品開発に活かすことができます。
この活動をリバースエンジニアリングといいます。先ほど紹介した図の左は、車を分解してどこの部品を使っているか、中身はどうなっているのかを分析しています。最近の製品で言えば、 iPhone はどのスマートフォンメーカーも分解して中身を研究していることでしょう。
外部リンク:リバースエンジニアリング – Wikipedia
分解するのはルール違反ではないのか?というお声もあるでしょう。しかし競争の激しい昨今、そんなことを言っていたらあっという間にシェアを取られてしまいます。
このように、目に見えない部分を見える化し、徹底的に分析します。すると改善のヒントやきっかけをつかむことができます。
英文も工業製品のように分解できる
英文も同じように、単語同士がどうつながっているのかを分析すれば、理解のきっかけをつかむことができるはずです。
先ほどの図の右はその一例です。各単語があるルール(文法)に従って線でつながっていることがわかります。図中の各単語の上の noun, verb, article などの表記は無視して大丈夫です。
理系ではこのように、文章やプログラムのコードを解析することがあります(専門用語で構文解析と言います)。難しいので詳細説明は省略します。
言いたいことは、英文もリバースエンジニアリングできるのです。
ただし、図のように毎回英文に縦線を引いてつなぐのは無駄が多すぎます。そこで、洋書や英字新聞にそのまま書き込みをしながら分析する方法を紹介します。
英文をマークしながら読み、文法の使い方を身につけよう
黒川氏の方法なら14個のルールで解析できる
上の図は私のお勧めするマーキング法です。先ほどのように縦線がないので、洋書や英字新聞にそのまま書き込めそうですね。
この方法は、黒川裕一氏が考案しているスピードリーディング法です。
著作権の関係で詳しくは紹介できませんので、要点だけ解説します。実際にマーキングしている映像が Youtube にありますので、どういう方法か映像で知ることもできます。
外部リンク:『英語ネイティブスピードリーディング』文法マーキング映像 | Youtube
黒川氏は英文読解に必要な記号を 14 個提案しています。これらの記号を書き込みながら英文を読むことで、読解力の向上と英文速読ができることを主張しています。
黒川氏の主張を著書から引用する形でも紹介させていただきます。
マークは、全部合わせても、わずか 14 。何百ページもある分厚い文法書の内容を限界まで圧縮すれば、 14 のマークに行きつくのです。そして、これらを使いこなせるようになれば、複雑なセンテンスにも自在に対応できるようになります。
実践的なビジネス英語処理能力の向上に役立つ
私はこの本を購入し、何度も繰り返し実践してマーキングのルールを覚えました。その後しばらくの間、英字新聞の読解にこのマーキングを導入しました。
結果的に、 TOEIC スコアアップといった形での効果はありませんでした。しかしこの方法で、実践的な英語処理能力がつきました。
英文内のキーとなる重要な単語は何か、すばやく判断できるようになりました。
実際に私がシンガポールやベルギーで働いて、メールや会議などで出てくるビジネス英語の処理能力が向上したと思っています。相手が何を言いたいのか、相手が主張していることは何なのかをその場で見分けたり、聞き分けられるようになりました。
たとえ 100 % の理解はできなくても、要点をつかめるだけで業務に支障の出ないコミュニケーションができるようになった、と考えています。
悲しいことに、マーキングのルールは忘れてしまいました。しかし今でもマーキングの考え方は頭の中に残っています。今でも英文を見るときに、何が重要な単語なのかが無意識のうちに処理できています。
なぜビジネス英語処理能力の向上が期待できるのか?
黒川氏の方法は、英文の中で重要な文と単語を中心にマークします。言い換えると、英文内の重要な部分だけが浮き出るように書き込みを行います。
例として、シェイクスピアの名言を解析してみました。数年ぶりにやるので、本を読み返してルールを思い出しながら解析しました。
あくまでも例文の解析なので、ここでは 14 個の記号すべては出てきません。詳細はぜひ本を入手してみてください。ここではポイントだけ解説します。
まず、ひとつの文がふたつの小さい文に分割できます。この例文では but を基点に分割しています。
さらに、分割後の後ろの文には星マークが付いています。これは、ふたつの文のうち重要な意味を持つ方であることを示しています。この例文にてシェイクスピアは、 thinking の文(考え方によって良し悪しは変わる)をより主張したいのです。
実用的な英文は and, or, but, that, which, what, so などを使って、複数の文がつながった長い文となることが多いです。この方法を使うと小さい文に分割できるので読みやすくなったり、どの文が一番重要なのかが目で見てわかるようになります。
ただ同じ比較でも (7) の or では good と bad のどちらにも星マークはありません。 or でつなぐ単語や文は、どちらも等しいというルールがあるからです。詳細は書籍をお読みください。
文中の ◯ は主語、 □ は述語です。英語は重要なことから先に表現することになっています。したがって thinking や nothing にマークされます。 There という単語自体は重要な意味を持ちません。
線も記号も何も書かれていない単語は、最も重要度の低い単語です。意味がないとは言いませんが、英文の中で主張の低いものです。最悪聞き取れなかったりしても支障が出にくい部分です。
このように、黒川氏の方法は英文から重要な単語とそうでないもの、文章の中でキーとなる部分を見える化してくれます。これが実践的なビジネス英語の処理能力向上につながりました。
理系的にはとても強力なツールといえます。
どうやって訓練するか?
同書はマーキングを身につけるためのドリルとして、例題が多数掲載されています。また類似の本はないためこの一冊しかありません。
この本を購入して何度もやり(最低 3 回以上)、頭の中にマーキング回路を作りましょう。
習うより慣れろ、です。はじめに説明したように、ボールにさわりながら野球を覚えるのと同じです。とにかく訓練しましょう。
そろばんの習得度の高い人は、頭の中にそろばんができて暗算ができると言います。それと同じように、頭の中にマーキングの回路ができるようになります。そうすると英文を読むコツを習得できるようになります。
マーキング回路が頭の中にできたら、後は実践あるのみです。洋書や英字新聞など、自分の興味のある内容をどんどん読んで読解力を向上させたり、実践に活かしていきましょう。
メリットとデメリットまとめ
改めて、この方法のメリットとデメリットを整理しましょう。
まずはメリットです。
- 英文の構造を視覚的に理解できる:ただ目で読むだけよりも、中身が見えることで英文に対する不安や拒絶反応も低くなるはずです。理系で英語を学習している人にとっては、やみくもにやるよりもロジカルで受け入れられやすいはずです。訓練して慣れてくると結果的に読解力向上につながります。
- 重要な単語とそうでない単語の区別ができる:私個人が一番実感しているメリットはこれです。どんな長文でも重要な単語は一部で、その重要な単語はマーキングで浮かび上がってきます。結果的に、相手の言いたいことを理解しやすくなったり、キーとなる単語や表現を見つけやすくなります。黒川氏の言う速読能力の向上はこのことだと解釈しています。
- 英文を読みながら作業するのでインプット量大:私の提案する音読学習と重複しますが、書き込みをするトレーニングもある種のフィードバックです。音読では自分の出した声がフィードバックとして返ってくる。一方、マーキングは自分が手で動かした結果が目に入ることでフィードバックします。洋書多読と組み合わせても悪くないでしょう。
デメリットも 3 つ挙げました。ただどれも致命的だとは思えません。
- 英文を読む時間が長くなる:目で字を追うだけの読書よりも、書き込みをしながら読む方が時間はかかります。しかしメリットでも説明したように、手を動かすことで脳へのインプットが増えます。より負荷の多いトレーニングとして効果も期待できます。
- 自分のマークが正解かどうかわからない:ニュースや洋書の英文にマーキングした場合、そのマークで良かったか答えあわせができません。答えつきの本はすでに紹介した黒川氏の著書だけです。ただし、マーキングの目的は答えあわせではありません。英文をより効果的に読むためです。頭にマーキングの回路ができたら、気にせずどんどんマークして読みましょう。
- 文法用語を覚えることはできない:一部の英語の先生からは批判が来ることでしょう。ただし気にする必要はありません。私たちは普段から「◯◯法を使っている」なんて意識して日本語をしゃべりませんね。自分の言いたいこと・書きたいことが無意識に出てこないといけません。文法用語も SVOC も知らなくても大丈夫です。文法はこうやって使う、ということを身につけましょう。
このように、デメリットよりもメリットの方が大きいです。時間がかかることを理由にやらないのはもったいないです。
スラッシュリーディングとの違い
今回紹介した方法と似たものに、スラッシュリーディングがあります。ふたつの違いについて比較しましょう。
スラッシュリーディングは、英文を数単語のかたまりにスラッシュで分割して読む方法です。手を動かして読むという点ではこの方法もおすすめです。
しかし欠点もあります。英文を小さい単語のかたまりに分割できても、個々の単語の重要度や構造は見えないままです。
結局、単語同士のつながりや文法は頭の中で処理することに変わりはありません。
一方、黒川氏の方法は単語レベルでのマーキングをします。図で比較するとわかりますが、マーキングした際の情報量は黒川氏の方法の方が多く、かつ各マークに意味もあります。スラッシュで区切るだけよりも得られる情報量が違います。
英文の構造を把握する点では、今回紹介している黒川氏の方法をお勧めします。
まとめ
英語を習得する目的は、英語でコミュニケーションをとることです。文法用語を覚えるよりも使いこなせるほうが大切です。
結果的にコミュニケーションがとれれば OK です。どんどん使って身につけましょう。
この記事をまとめましょう。
- 書き込みをしながら(手を動かしながら)読むことで、スポーツのように文法を身につける。習うよりも慣れろ、理屈よりも実践。
- 文章構造が目に見えるようになることで、英文を読むことに対する不安や抵抗感を減らすことができる。
- どんな長文でも重要な単語が見えてくることで、相手の言いたいことや重要な部分が理解しやすくなる。
参考文献
私はこの本にもっと早く出会っていればと思っています。
小さい子たちは座学よりもこういったトレーニングの方が楽しく覚えられるはずです。学校の授業でこの方法を取り入れれば、英語嫌いを減らせるのではないかと思います。
名著です。