国際将棋マガジン2で英語を学ぼう—藤井聡太、普及活動、急戦

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国際将棋マガジン第2号
国際将棋マガジン第2号

前回の国際将棋マガジン創刊号と、将棋の基本用語を英語で紹介したのは私にとっても面白い試みでした。生きた英語を紹介する題材の1つとして、将棋の国際化のお役にも立ててうれしいです。

この記事では同誌第2号をレビューします。そのなかで特に興味深い英語表現を解説してみましょう。

目玉記事は藤井聡太氏へのインタビュー

紹介文の概要、英文と和訳

前号と同じく、まずは編集長であるカロリーナ・ステチェンスカ女流からの言葉を紹介しましょう。

本号の目玉はなんといっても藤井聡太七段(出版時)のインタビュー記事です。引用させていただきます。

In this issue, thanks to special permission of Shogi Sekai magazine, you will be able to read an amazing translation of interview with the newest shogi star, Fujii Sota! Reading top quality shogi articles in English – I believe it is a big step toward shogi promotion abroad.

【訳例】

本号(第2号)では、雑誌・将棋世界の特別な承諾の下、将棋界の新星・藤井聡太七段のインタビューをお届けします。最高の将棋記事を英語で読むことができるのは、将棋の魅力を世界に伝える大きな一歩だと信じています。

K. Styczynska, “A Word from the Editor,” International Shogi Magazine, vol.2, p.4 (2018) より引用

前半部分の解説

順に解説しましょう。まずは最初の文のおさらいです。

In this issue, thanks to special permission of Shogi Sekai magazine, you will be able to read an amazing translation of interview with the newest shogi star, Fujii Sota!

issueは発行する (publish, release) という意味と「号」という意味があります。 “In this issue,” は「本号(第2号)では」となります。

また issue という単語には「問題」という意味もあります。技術者の私が英語で仕事をしていて issue という単語がでれば不具合のことで、 problem とほぼ同じ意味です。

次の permission は「許可、承諾」という意味です。このインタビュー記事は将棋世界の出版元であるマイナビ出版の著作物です。雑誌のコンテンツを英語に翻訳して情報発信したいことを、カロリーナ女流が出版社にお願いして実現したことになります。

著作権上このインタビュー記事を翻訳することはできません。ただ国際将棋マガジンはフリーペーパーですので英語版はダウンロードして読むことができます。是非チャレンジしてみてください。

外部リンク:ISM Magazine – Shogi Harbor(国際将棋マガジンダウンロードページ)

thanks to は「~のおかげで」という意味です。先ほどの permission と合わせて本文は「将棋世界の特別な承諾のおかげで」となります。ただし書き言葉として「おかげで」はカジュアルすぎるので「承諾の下(もと)」と訳しました。

次に、藤井聡太氏のことを “newest shogi star” と呼んでいます。 newest は「最新の」という意味ですが、「最新のスター棋士」では変なので「新たなスター棋士」と訳しました。

後半部分の解説

次の文です。おさらいしましょう。

Reading top quality shogi articles in English – I believe it is a big step toward shogi promotion abroad.

世界に将棋を広めるためには将棋について書かれた良い記事が必要である、とカロリーナ女流は言います。今回のインタビュー記事を含めた “top quality shogi articles” のことです。

top quality は「最高の」です。 quality は品質という意味ですが、わざわざ品質という単語を入れる必要はないでしょう。最高の記事で品質の意味が含まれるからです。

articles は「(雑誌や新聞の)記事、論文」のことです。最高の将棋に関する記事はひとつだけでなくたくさん読みたいので複数形のsが付いています。ブログ記事のことも article と言いますし、 entry と言うこともあります。関連した単語も覚えられたらベターです。

最後に “I believe it is a big step toward shogi promotion abroad.” の部分です。

日本語訳では “I believe” をわざわざ「私は信じています」と主語を入れて訳しません。発信者はカロリーナ女流であることが分かっているので、日本語では省略しても通じます。しかし英語では文法上どうしても主語のIが必要になります。

日本語から英語に訳す場合に難しいのがこれです。

日本語の資料は主語を省略しているケースが多く翻訳者を困らせます。翻訳元の日本語資料を作った人にとっては主語が無くても通じるのですが、事情を知らない翻訳者が英語に訳そうとすると「誰が?何が?」と混乱します。

日常会話ならまだいいのですが、社内外文書や公式文書だと困ります。翻訳を外部に依頼する際にはこの点に気を付けてください。主語をできるだけ省かないようにお願いします。

stepはそのまま「ステップ」です。 big step なので「大きな一歩」となります。

最後は promotion abroad です。

promotion は将棋用語で「駒が成る」でした。しかしここでは将棋の普及・促進という意味です。特売のことをプロモーションというのと同じことです。

abroad は「海外、国外」の意味です。例えば「海外留学」のことを study abroad と英語で表現します。本文の訳は自然な日本語になるように「将棋の魅力を世界に伝える」としました。

カロリーナ女流の想いが世界に伝わるといいですね。

マレーシアの将棋ワークショップレポート

紹介文の概要、英文と和訳

将棋の普及活動は世界的に行われています。

本誌ではマレーシアで開催された将棋ワークショップのレポートがあります。どのような形で行われたのでしょうか?引用させていただきます。

The workshop took around five hours which consisted of two sessions for the participants to learn and practice shogi. Some of the participants were very first time to get to know about shogi and get to play their very first match in their life. During the workshop, the participants were practicing with “tsumeshogi” and the solutions for each variation were discussed together with the instructor to make sure everyone master the basic concept of the shogi before the practice session begin.

【訳例】

このワークショップは参加者が将棋を学習し実戦ができるように2つのセッションで構成され、およそ5時間にも及びました。参加者のうち何人かは将棋について知るのもプレーするのも人生で全く初めてでした。ワークショップの間、参加者は詰将棋を通じて練習しました。実戦セッションに入る前に参加者全員が将棋の基本をマスターするため、各詰将棋の答えを講師と議論しました。

T.S. Ng, “Shogi Workshop,” International Shogi Magazine, vol.2, pp.24-27 (2018) より引用

前半部分の解説

やや文章が長めなので、無駄な部分をカットして訳しました。みていきましょう。

The workshop took around five hours which consisted of two sessions for the participants to learn and practice shogi. Some of the participants were very first time to get to know about shogi and get to play their very first match in their life.

最初の文の consisted of は「~からなった、~で構成された」という意味です。本文では学習 (learn) と実戦 (practice) の2つのセッションがあります。

practice はここでは実践という意味と、練習するという意味の2通りの使い方がされています。 practice は study や learn とは異なり、机上ではなく実際に手を動かして学ぶという意味で使われます。

似た意味の単語に exercise があります。エクササイズはよくダイエットの運動という風に使われますが、問題を解く練習にも exercise が使われます。

次の文に行きましょう。 “Some of the participants were very first time to get to know about shogi and get to play their very first match in their life.” です。

participants は参加者です。何名参加されたか記事には書かれていませんが、写真から15名以上参加していることが分かりました。ひとりではなかったので複数形のsがついています。

first time は「初めて、初回」です。その前にveryが付いているのは「全く初めてである」、「本当に初めてなんですよ」ということを強調しています。

後半部分の解説

最後の文です。おさらいしましょう。

During the workshop, the participants were practicing with “tsumeshogi” and the solutions for each variation were discussed together with the instructor to make sure everyone master the basic concept of the shogi before the practice session begin.

これは少し長すぎます。本来なら2文に分割すべきです。また最後の begin は厳密には begins が正しいのですが、原文のままとしました。

文法的に間違っていても意味は通じます。あまり神経質にならないでくださいね。これが国際共通語としての英語の実際です。間違いを恐れてはいけません。

この文にある solution は「答え」という意味です。ここでは詰将棋の答えのことです。同じ答えという意味で answer もありますが、 solution の方がより硬い表現です。

variation はカタカナの「バリエーション」と同じです。ここでは詰将棋の各問題のことを指しますが、このような使い方はあまり見ません。英文上は each tsumeshogi でも良いはずですが、カンマの前にも tsumeshogi が出てきているので重複を避けたと思われます。

上記の英文はもう少し短い文で表現できるでしょう。例えばですが、私ならこう書きます。

During the workshop, the participants were practicing with “tsumeshogi”. The participants discussed with the instructor for their solution. Before the practice session begins, everyone wanted to get used to the basic shogi concept.

この記事には写真が多数あり、マレーシアの人が将棋を熱心に覚えようとしていることが伝わりました。

しかし残念ながら参加者がワークショップを通じて何を得たのか、将棋をやってみてどう感じたのか、詳細が書かれていませんでした。もったいないです。

将棋の魅力を伝えるチャンスなので、より詳しいレポートを期待しています。

ヨーロッパの将棋大会でも急戦がある

紹介文の概要、英文と和訳

将棋では急戦といって、対局の早い段階から勝負しにいく激戦があります。持久戦とは違い短手数で対局が終わる傾向にあります。

本誌によると、ヨーロッパの将棋でもこのような対局があるようです。ヨーロッパ将棋大会2018のレポートより、 Dawid Paradowski 氏対 Patryk Korcyl 氏の対局を取り上げています。

両者の対局では、直前までソフトの評価が+600(先手有利)でした。しかしそこから一気に終局に向かいます。引用させていただきます。

ヨーロッパ将棋大会の急戦33手目

In this position, Patryk played △S*33, which is a huge blunder. Dawid immediately answered ▲Bx33+, and it is +2500 for sente; the game is over. Gote can recapture with his knight, but sente has ▲Rx21+ with check, later taking the lance. Sente has a huge advantage, both in material and tempo.

The (not really) funny fact is that after ▲Bx33 both players still had 19 minutes and 30 seconds of basic time. Out of 20 minutes. Yeah, Patryk lost the game in 30 seconds (in comparison, this is the amount of time which I give the computer to analyze 1 move).

【訳例】

この局面で Patryk は△3三銀打とし、これがうっかりだった。 Dawid はすぐに▲3三同角成と応じ、評価値は+2500(先手勝勢)となった。後手は同桂で成った角をとれるが、先手は▲2一飛成で王手ができてさらに香車がとれる。先手は駒得かつ進行でも大きく有利である。

興味深い(そこまででもないが)のは、▲3三同角成の時点で両者ともまだ19分30秒を残していた。持ち時間20分で、である。そう、 Patryk は30秒で負けてしまったのだ(一方、同じ時間で筆者はソフトに1手を解析させた)。

K.S. Sieja, “Against ‘blitzing’ in ranked games,” International Shogi Magazine, vol.2, pp.10-11 (2018) より引用

外部リンク:European Youth Shogi Championship 2018 part 4 – YouTube(この記事の筆者による当該対局の解説)

この記事の筆者は急戦のことを blitz と言っています。この単語は軍事用語で「電撃的襲撃、急襲」という意味です。日常会話ではあまり使いません。ライブハウスの赤坂ブリッツのブリッツはこの単語です。

第1パラグラフの解説

最初のパラグラフをみていきましょう。おさらいします。

In this position, Patryk played △S*33, which is a huge blunder. Dawid immediately answered ▲Bx33+, and it is +2500 for sente; the game is over. Gote can recapture with his knight, but sente has ▲Rx21+ with check, later taking the lance. Sente has a huge advantage, both in material and tempo.

played は「指す」です。対局することに対して使うべき単語ですが、他に良い表現が浮かばなかったのかもしれません。打ち駒なので moved は使えませんが、 dropped は使えたはずです。

次の blunder は「しくじり、うっかりミス」です。日常英会話ではあまり見かけません。でも将棋では緩い手や疑問手というのがあるので、そういう表現に使えますね。

immediately は「すぐに」です。将棋の中継ではノータイムと言いますね。5秒も待たずに Dawid 氏は角を成ったことがイメージできます。

recapture は「奪い返す、取り戻す」という意味です。頭の re は反復という意味です。ここでは取られた駒(銀)をとり返すのではなく、同じマスにあった銀の代わりに角を桂で取り返したことを表現しています。

capture はコンピュータに映像データを取り込むという意味でよく使われます。日常英会話では忙しい人をつかまえるのに capture という表現を使います。 TOEIC でも出た記憶があります。

先手はこの1手で優位 (advantage) になります。具体的にどう優位かというと “both in materials and tempo” です。

material はカタカナのマテリアルと同じで「原料、素材」という意味ですが、ここでは駒のことを指しているのでしょう。なので駒得です。

tempo はテンポ(速さ)のことで、先に優位に立ったというイメージでしょうか。そのためここでは「進行」と訳しました。他にもいい表現があると思います。

第2パラグラフの解説

次のパラグラフをみていきましょう。おさらいします。

The (not really) funny fact is that after ▲Bx33 both players still had 19 minutes and 30 seconds of basic time. Out of 20 minutes. Yeah, Patryk lost the game in 30 seconds (in comparison, this is the amount of time which I give the computer to analyze 1 move).

funny は「おかしい、面白い、うける」という意味です。開始からわずか1分足らずで勝敗がほぼ決まってしまったことを面白いと筆者は言っています。ただしプレーヤーへの配慮として not really (そうでもないが)と一応フォローしています。

fact は「事実」です。真実 (truth) ではないことに注意してください。日本のメディアでは真実という単語をよく見ますが、ここで大事なのは「何が実際に起きたのか」です。このことを表現するベストな単語はfactでありtruthではありません。

“Out of 20 minutes.” は「全20分」という意味です。 Out of は「~のうち」です。ここでは持ち時間20分のうち、まだ19分30秒の残りで決着がついてしまったと言っています。

この表現は日常英会話で出てきます。例えば “selected 4 out of 5 people” は「5人中4人が選ばれた」となります。覚えておいた方がいい表現です。

最後の文のカッコ内をみていきましょう。

in comparison は「比較して」です。ここでは後手の消費時間が30秒で不利になったことと、将棋ソフトが30秒で1手を予測していたことを比較しています。

ただ訳としては「一方で (on the other hand) 」の方が自然だと判断しました。似た表現で in contrast (対照的に)とすることもできます。

この記事はかなり過激な書き方をしていますが、急戦というテーマである以上仕方ありません。筆者の「あ~あ、後手やっちゃったよ…」みたいな感じはよく伝わってきました。

まとめ

前号とはできるだけ異なる内容を取り扱ってみました。難しかったでしょうか?

英文としてはどれも決して難しいものではありません。将棋独特の表現さえ克服できれば、指す将も観る将(私はこちら)もどちらも楽しめるしっかりしたコンテンツです。是非チャレンジしてみてください。

次号もお楽しみに。

このレビューで解説した英単語一覧

  • abroad: 海外、国外
  • article: (雑誌、新聞、ブログの)記事、論文
  • blitz: 電撃的襲撃、急襲
  • blunder: しくじり、うっかりミス
  • comparison: 比較
  • consist of: ~からなる、~で構成される
  • fact: 事実
  • funny: おかしい、面白い、うける
  • immediately: すぐに
  • issue: 発行する、(雑誌の)号、問題
  • material: 原料、素材
  • out of: (全体数)~のうち
  • participant: 参加者
  • permission: 許可、承諾
  • practice: 練習、実践
  • promotion: 普及、販促(駒が成る以外の意味として)
  • quality: 品質
  • recapture: 奪い返す、取り戻す
  • solution: 答え
  • step: ステップ、一歩
  • tempo: 速さ
  • thanks to: ~のおかげで
  • variation: バリエーション

国際将棋マガジン第2号の目次(日本語訳)

  • 編集長のことば by Karolina Styczynska
  • 故・升田幸三氏のイラスト by Eric De Las Casas
  • 将棋愛についての詩 by Marcel Keitsch
  • 順位戦で急戦に対抗するには by Krzysztof Stoigniew Sieja
  • 藤井聡太氏へのインタビュー―将棋世界より by Shinta Kitano (Richard Sams訳)
  • ベン・ハーを救出せよ(パート2)by Jim Tan
  • アジア圏外の人にどうやって将棋を教えるか(ミニゲームを通じて)?パート2 by Grzesiek Adaszewski
  • 将棋ワークショップ、マレーシアからレポート by Ng Teck Sen
  • 将棋の駒と旅するのはいかが? by Yuji Noguchi
  • 将棋と神経科学 by Ng Teck Sen
  • 段位/級位のしくみ by Ishikawa Takayuki

外部リンク:Shogi Harbor – a safe place for every shogi player (カロリーナ女流が立ち上げた英語による将棋情報発信サイト、国際将棋マガジンの発行元)

※本記事の目的は英語表現を学ぶことです。将棋のルールや駒の動かし方、局面の解説については取り扱いません。