人と仕事のミスマッチを見える化するポートフォリオ風マッチング指標

[この記事は約 8 分で読めます]

前回の記事では、厚生労働省のマッチング指標のグラフに「求人倍率」を追加することで「売り手市場の職業と買い手市場の職業」を二分して見えるグラフを作図しました。このグラフによって職業により「人と仕事の数(労働需給)に偏りがある」ことはわかりました。

前回記事:マッチング指標を「就職率・充足率・求人倍率」の三位一体グラフにする

しかし、まだ「マッチングできている/できていない」を判断するには情報がまだ足りなさそうです。今回の記事ではこのグラフをもう一歩進めて「ポートフォリオ風グラフ」で分析できないかを検討します。

職業計(職業平均)を基点としてポートフォリオ風のグラフにする

2分割グラフのおさらい

前回のグラフをおさらいして、今回のポイントを紹介します。横軸「充足率」、縦軸「就職率」のグラフに「求人倍率=1.0のライン」を引くことで「売り手市場と買い手市場」を分割しました。そして、どちらのエリアも「人と仕事の数に偏りがある」ということを説明しました。

マッチング指標のグラフ
就職率・充足率・求人倍率の三位一体を考慮したマッチング指標のグラフ(グラフの引用元は前回の記事)

「職業計」を基点にすると4分割できる

今回は、グラフを分割する「基点」を変えます。

各職業の点が全体的に左側に寄っていますが、その中心あたりに「職業平均」という点があります。これは各職業の充足率・就職率の平均値をプロットした点(全項目の重心のようなもの)です。これを基点とします。

注意:通常、厚生労働省発表の資料には「職業計」という名前が使われています。しかし、このシリーズで使用した大元の資料「マッチング指標を用いたマッチング状況の分析(労働市場分析レポート第43号)」には「職業計」という値がなかったため、筆者が平均値を割り出し「職業平均」としました。最新データの分析では「職業計」を基点とします。

まずはイメージとして、このようなグラフになるということをご理解ください。

ポートフォリオ風マッチング指標グラフ
ポートフォリオ風マッチング指標のグラフ

前回はグラフの斜め線の上下に「売り手市場」と「買い手市場」というエリアを定義しました。今回は4分割するので、さらに「マッチ」「ミスマッチ」というエリアを追加しました。

右上の「マッチ」というのは、充足率・就職率が共に高いエリアです。グラフの軸を一つずつ見ていくとこうなります。

充足率が高い⇒就職件数と新規求人数のギャップが小さい⇒採用できている

就職率が高い⇒就職件数と新規求職者数のギャップが小さい⇒仕事に就けている

この両方の値が高ければ(両方ともギャップが小さければ)マッチングはできている、というひとつの説明ができそうです(就いた仕事に満足しているかどうかは別問題です)。

そして、反対に両方ともギャップが大きいと「ミスマッチ」になります。

詳細は次の実例で解説しますので、このグラフからミスマッチの状況を分析してみましょう。

ポートフォリオ風マッチング指標によるミスマッチの分析

実際にポートフォリオ風に作図するとこうなる

先ほど示した説明で、厚生労働省のデータ(労働市場分析レポート第43号)からグラフを作るとこのようになります。

ポートフォリオ風マッチング指標のグラフ
ポートフォリオ風マッチング指標のグラフ(厚生労働省の資料を元に作図は筆者による)

データ引用元URL: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000066759.pdf

分割された4つのエリアにひとつ以上の職種がありますね。ひとつずつ見ていきましょう。

  • 「農業漁業の職業」は、就職率・充足率ともに高い傾向にあるため、(職業平均と比べて)マッチングできていると考えられる。そのため、緑の「マッチ」エリアとなった。
  • 「生産工程の職業」「運搬・清掃・包装等の職業」「事務的職業」は、充足率に比べて就職率が低い傾向にあり、求人倍率も(職業平均と比べて)低い傾向にある。したがって、オレンジのエリアとして採用企業側に有利な「買い手市場」となった。
  • 「専門的・技術的職業」「販売の職業」「管理的職業」は、就職率・充足率がともに低い傾向にあるため、(職業平均と比べて)マッチングができていない。そのため、赤の「ミスマッチ」エリアとなった。
  • 残りの職業は、就職率に比べて充足率が低く、かつ求人倍率は(職業平均と比べて)高い傾向にある。このような状況は就職できる人は多いが企業側が十分な人材数を確保できていないことを表している。したがって、青のエリアとして求職者側に有利な「売り手市場」となった。

上記の4つのエリアのうち、「マッチ」エリア以外は実際にはミスマッチが他職業よりも起きているエリアです。ただし、ミスマッチの起き方が「就職側に偏っているか、求人側に偏っているか、それとも両方とも関係している(充足率・就職率が共に低い)か」という風に分類ができます。

「相対的」な比較であることに注意

この比較はあくまでも「相対的」である点に注意してください。あくまでも各点がバラバラに散っていてかつ「職業平均」が各点の中心に寄っている(重心にいる)ために比較ができています。

職業別で気になった項目を見ていきましょう。

「保安の職業」は「売り手市場」エリアの中でも左上にポツンとあります。この仕事に就職できる人は多いが、それ以上に求人が多く人が足りていないことを示しています。

管理的職業、すなわちマネジメント職がミスマッチにあることがこの図からわかります。経営の軸であるマネジメントにミスマッチが起きている状況では、あるべき会社経営ができているのか疑問に思わざるを得ません。しかし一方、管理職であればハローワークよりも「コネ」で就任するパターンも多いと思うので、マッチングが本当にできているのかはもっと詳細な分析が必要です。

そして残念なことに、私のような技術者の仕事も「ミスマッチ」エリアにいます。近年のAIの進歩、そしてその先にあるシンギュラリティに備えて開発が激化しているという見方があります。優秀なエンジニアの奪い合いになっているという点から、人が足りていない実情を表しているかもしれません。

この分析が実情とあっているかどうか、読者様のご意見もいただけると助かります。この辺をどう改善していくかが今後の課題となるでしょう。

求人倍率ラインについての補足

このグラフには補助線として「求人倍率=1.0のライン」も残しました。このラインにこだわると、前回紹介した定義「ラインより上は売り手市場、ラインより下は買い手市場」の厳密性は失われます。

しかし、グラフの左上の「売り手市場」と右下の「買い手市場」というエリアは前回から変わっていません。むしろ、前回のグラフからさらに一歩進めたつもりです。

実際のところ求人倍率1.0でも「ミスマッチ」は起きているのが実情です。前回のグラフに忠実にすべきか、多少定義を崩してもポートフォリオ風にすべきか、これは解釈の問題です。

私個人的な感想を言ってしまえば、ポートフォリオ風の方は情報量が多くて有益な気もします。どちらが良いかは読者様の判断にもゆだねたいと思います。そして、もっと良い作図があれば是非シェアしていただきたいです。

違う観点からも作図してみよう

月別・年別で分析すれば「推移」も表現できそう

上記のデータは2014年度と古いので、最新(2017年7月分)のデータでもグラフを作ってみましょう。

平成29年7月分の作図例
厚生労働省 一般職業紹介状況(平成29年7月分)の作図例

データ引用元URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000175101.html

2014年度のグラフと比較すると、「生産工程の職業」と「運送・機械運転の職業」も「マッチ」エリアに入っていますね。言い換えると、2014年度では別のエリアでしたが、2017年7月時点では「マッチ」エリアに推移しました。

これはどういうことでしょうか。2014年度の時点よりも「状況が改善されてマッチングができるようになった」ということでしょうか。

確かに、時々刻々と人は辞めて新しい仕事に就くでしょうし、会社の倒産や起業で人の流れが起きている以上、この「動き」にも着目した方がよさそうですね。

ではどうやって「動き」を捉えましょうか。毎月の各数値をプロットして点で結べば「その年度で各職業のマッチング状況がどう推移したか」もわかりそうですね。ここまでくると「人と仕事のマッチング状態」が動的に分かりそうですね。

都道府県別の分析もできそう

厚生労働省のデータは「全国計」のデータです。これを都道府県や地域別で分析してみると、もっと細かく「この県は◯◯の職業のマッチング率が高い」といった分析もできそうです。

そう考えて地域別のデータを探してみました。しかし、全職業計のデータは毎月公開されているのですが「職業別の数字」が見つかりませんでした。したがって、前項に示す「◯◯県の××月の全職業のデータ」は分析できそうですが、「具体的にどの仕事がマッチングできている/いない」かまでは分析できません。

このような分析も興味深いですが、本記事ではこれ以上の分析はできませんでした。

まとめ

以上、人と仕事のマッチング状況を知りたいと思って始めた分析ですが、まだまだ深く分析できそうです。

この記事をまとめるとこうなります。

  • 職業計の値を基点にマッチング指標のグラフを4分割して「売り手市場、買い手市場、マッチ、ミスマッチ」といった分析ができる
  • 各月のデータを残して年度末に分析すれば「各職業のマッチングの推移」といった動的な分析できそう
  • 都道府県別(地域別)のマッチング状況も同じように分析できそう