令和の英語訳はBeautiful Harmonyで正しい?調べたら間違ってなかった

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令和を英訳すると複数の候補が出る

2019年4月1日、日本政府は新しい元号、令和 (Reiwa) を発表しました。この発表は世界で報道されたものの、令和の英訳について外務省が趣旨を説明する状態になりました。

外務省は令和の英訳を Beautiful Harmony としています。この訳は正しいのでしょうか?この記事では直訳と意訳の2つのアプローチで解説します。

結論を先に書くと、令和は Beautiful Harmony で直訳・意訳ともに間違っていません。その理由を詳しく解説しましょう。

外部リンク:令和は「Beautiful Harmony」外務省が英語の趣旨説明 – 毎日新聞(この記事の元ネタ)

混乱が生じるのは漢字2文字だけで訳そうとするから

外務省が提唱した Beautiful Harmony のほかにどのような英訳が出てきたのでしょうか?海外メディアではこのように紹介されました(順不同、代表的なものを抜粋)。

  • Order and Harmony (BBC)
  • Pursuing Harmony (AP)
  • Order and Peace (New York Times)
  • Auspicious Harmony (New York Times)
  • Joyful Harmony (New York Times)
  • Ordering Harmony (Washington Post)
  • Auspicious Harmony (Straits Times)

BBC, New York Times, Washington Post は「令 = order (指令)」を使いました。日本でも一部からは「令には命令の意味があり政治的な思惑がある」という指摘もありました。

ただ order には「秩序」という意味もあるので、一概に「命令、指令」という解釈をすることはできません。

このように複数の解釈が出てくるのには理由があります。

「令和」という漢字2文字、少ない情報量の単語を訳そうとするからです。

今回の元号のうち「和」については Harmony でほぼ一致しているので、解説を省略します。複数の解釈が出ているのは間違いなく「令」の方です。

少ない文字数や単語数は連想が容易

令という字、1字だけであれば「命令、指令、号令、律令、訓令、令嬢、令名、令史」といった連想ができます。これが複数の解釈を生む原因です。

しかし英単語にも似たようなことが当てはまります。 take という英単語を辞書で調べると、簡単に挙げてこれだけの連想ができます(いずれの意味も研究社新英和大辞典第6版より)。

  • take note (注意する)
  • take care (面倒をみる)
  • take away (持ち帰る)
  • take effect (実施する)

どれも意味が違いますね。このように、少ない字や少ない単語ほど意味は複数あります。そのため意味を絞り込むには文字数(単語数)を増やす必要があるのです。

少なくとも令和は万葉集の歌から来ているという政府の発表を支持すべきです。「命令、指令」の令であると主張するのは勝手な拡大解釈です。

万葉集の歌から意訳するなら Joyful Harmony

令和の情景とヴィヴァルディ『春』の表現を比較

翻訳には直訳と意訳の2種類があります。ここまでの解説は直訳でした。直訳ではなく意訳をしてみるとどうなるのでしょうか?

先ほどまで紹介した複数の解釈は置いておいて、政府が根拠としている原文から意訳してみましょう。まずは原文を引用させていただきます。

初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして、気(き)淑(よ)く風和(やわら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす

万葉集』 巻五、梅花の歌三十二首 并せて序 より

令の採用元となっているのは「令月」。これは旧暦の2月のことです。旧暦による春が到来し、梅は咲き誇り蘭の花の香りが漂っている。つまり春が来た喜びを表していると考えられます。

この情景を海外の人に説明するにはどうすればよいでしょうか?

私が思いついたのは、クラシック音楽『四季(ヴィヴァルディ作曲)』の『春』でした。

この曲の解説に適切な英語表現があるかもしれません。そこでネットで検索して調べてみました。

複数のサイトの解説を見ましたが、共通しているのは「長い冬が終わり、雪が解け春の訪れにより鳥のさえずりが讃美歌のような音に聞こえる」という情景でした。

外部リンク(ヴィヴァルディの『春』の英語による解説)

万葉集の一節とヴィヴァルディの曲の説明に共通するのはやはり「春が来た喜び」でした。

以上のことから、私がこの情景を令和として意訳するならば Joyful Harmony か Brilliant Harmony となるでしょう。春が来た喜びを joyful か brilliant に置き換えるということです。

New York Times の記事には Joyful Harmony がありました。 Order and Peace よりもJoyful Harmony を推すべきだったのかもしれません。

では Beautiful Harmony はどうでしょうか?春が来て色とりどりの花が咲き、鳥がさえずる状況は間違いなく美しいです。間違いではありません。

しかし、この状態で beautiful を選んでしまうのは少し安易かもしれません。

せっかく詳しく描かれた春の描写がぼやけてしまい、もったいないです。 beautiful は景色の美しさだけでなく、異性の美しさ、芸術作品の美しさなど他にも便利に(簡単に)使えてしまう単語だからです。

令と beautiful どちらにも「よい」という意味が辞書にあった

採用元となっている万葉集の歌から「令和」が意訳できることを解説してきました。もう一度直訳に戻ってみましょう。

令には「よい」という意味がある、というコメントをネット上で何回か見ました。令と beautiful のどちらにも「よい」という意味があれば、直訳でも筋が通ります。

調べてみましょう。

まずは「令」です。国語辞書にはこのように書かれていました。

令(れい)の4番目の意味「よい。りっぱな。」

外部リンク:「令」の部首・画数・読み方・意味 – goo漢字辞典(令の解説 – 小学館 大辞泉)

4番目の意味なので頻繁に使うものではないものの、確かに令には「よい」の意味があることがわかりました。

次です。英単語の beautiful を英英辞典の「メリアム・ウェブスター」で調べました。その結果、2番目の意味がこのように書かれていました。

2: generally pleasing : EXCELLENT

外部リンク:Beautiful | Definition of Beautiful by Merriam-Webster

エクセレントと出てきます。優秀な、素敵な、という意味ですね。こちらも2番目の意味なので頻繁には使われないものの「よい」という意味として使えます。

令も beautiful も「よい」という意味が辞書で出てきました。両単語は直訳が可能ということになります。

まとめ

以上、外務省の提唱する「令和= Beautiful Harmony」直訳でも意訳でもは筋は通ります。ストーリーをきちんと説明すれば問題ないでしょう。

問題ないというのは「正解ではあるが、唯一解ではない」という意味です。別の記事で解説したように、翻訳には数学のような明確な答えが無く(解なしも含めて)バランス感覚が求められます。

新元号「令和」の英訳を通じて翻訳の難しさを知っていただければ幸いです。

この記事をまとめましょう。

  • 令和の英訳に複数の候補が出てくるのは、令和という漢字2文字では情報量が少なすぎるから。
  • 文字の採用元となっている万葉集の歌から、令和は「春が来た喜び、花が咲き香る情景が美しい」と解釈できる。そのため意訳として Beautiful Harmony は間違っていない。しかし Joyful Harmony とする訳もある。
  • 令と beautiful にはどちらも「よい」という意味が辞書にある。したがって令和を直訳して Beautiful Harmony は間違っていない。

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