工業英語の考え方と工業英検対策

[この記事は約 12 分で読めます]

ペーパーバックを読めるようになってから、英語に対する自信はかなりつきました。ただ同時に「実用英検とTOEICだけ勉強していればいいのか?」という頭がよぎるようになりました。

英語系の資格はたくさんありますが、資格をなんでも取れば良いものではないだろうし…資格を取ってただの英語の上手い人というのはダメです。英語の話せる人は世界中にたくさんいます。

今後の仕事にも役立てるためには目的意識が必要でした。

私は学生の頃からすでに理系で生きていくことに決めていたので、だったら理系の英語資格はどうか?と思いました。それで「工業英検」を受験することにしました。あくまでも基礎の英語は勉強を続けつつ、です。

この記事では工業英語についての考え方と、実際に工業英検を受験した私の経験についてシェアします。

基礎英語の次には専門英語がある

工業英検、そもそも工業英語とは何でしょうか?工業英語は英語で"Technical English"とか"Technical Writing"と言います。一言でいえば「技術系の英語文書の書き方」です。

技術系の英語と一口に言っても、科学技術論文、機器の取り扱い説明書、仕様書、設計図面など、普段多くの人にとってあまり見慣れないものですね。しかしこれらの文章にも共通の決まりごとがあるのです。

仕事で使う英語というと、以下の4つのカテゴリーに分けることができます(私の独断と偏見です)。

  1. メール、契約書、見積書、新聞や広告など、いわゆるビジネス英語(実用英検やTOEICでカバーされている)
  2. 同時通訳および通訳案内士(ただTOEICのスコアが高いだけではできないプロの仕事)
  3. 映画のセリフや小説などの翻訳(産業翻訳と言われている)
  4. 技術系の文書の翻訳や書き方(これが工業英語)

英語の基礎という意味では今まで書いてきた「英語学習物語」ように実用英検やTOEICが必須です。ただ英検とTOEICですべての英語ジャンルをカバーすることはできません。

基礎ができた上で、さらに仕事で活かす専門的な英語を習得するには実際に少なくとも上に挙げた2~4のカテゴリーがあると私は考えてます。

英語ができれば技術文書なんて簡単じゃないの?と言われるかもしれません。でもそれでは不十分です。日本人ならだれでも日本語で技術文書を作れるのか?というのと同じで、英語のネイティブスピーカーでも実は技術文書のルールというのは教わらないとわからないものなのです。

実際に、アメリカ人の英語の先生に技術論文の英文要約をチェックしてもらった時、ネイティブでも技術的な英語に精通していないことを経験しました。そのエピソードは第8話にて紹介しました。

関連記事:英語習得物語 第8話:英会話教室に半年だけ通った大学院生時代

欧米系の大学ではこのような"Technical Writing"の授業があって、ネイティブスピーカーもそれを受講しているという話を聞いたことがあります。とすると、私が大学で受講していた「専門英語」はなんだったのか?何も教えてくれていないに等しかったです。

工業英語とは?

工業英語の特徴は何か?というと「必要な情報を誤解を与えないように伝える英文」です。例えば映画や小説は、文章やセリフからそのお話のイメージを膨らませることで読み手を楽しませる工夫があります。

しかし、工業英語では読み手の想像力を働かせてはいけません。

マニュアルを読んで機械の操作を誤って事故が起きたら大変です。また猫を電子レンジに入れてしまうようなことを防がなければなりません。マニュアルに書いてなくても「常識的に考えれば」という甘い考えは通用しません。技術文書には機能や安全性などの必要な情報を間違いなく(誤解なく)提供する必要があります。

私自身は日本でよく使われる真実"truth"という表現は好きではありません。技術に必要なことは真実ではなく事実"fact"の積み重ねだからです。

民生用・産業用にかかわらず、機器が正しく動くのには設計という根拠があり、壊れたことに対しても物理法則に基づく理由が必ずあります。それらの機器を混乱なく安全に使えるように技術者は日々努力しています。

このように、工業英語では書き手(設計開発側)の情報を正しく伝えることが必要です。それを象徴するように、工業英語では3Cというのが出てきます。

  1. Clear: 明確に
  2. Correct: 正確に
  3. Concise: 簡潔に

Clearは曖昧な表現を避けることです。例えばThoseやItなどを使うと、何を表しているのか読み手に「想像させる」ことになります。技術文書はクイズではないので、文章の流れから明らかでも何を指すのかは省略しないほうがよいのです。

同じく、受動態(主語の省略)は遠回しな表現になるので、できるだけ能動態で書くことが望まれます。命令形も有効です。

Correctは本当のことを書かないといけません。この3Cの中で一番重要なことです。

Conciseは冗長な表現を避けることです。同じ意味の表現であれば、単語数は1語でも減らすべき、というのが工業英語の考え方です。例えばcome out(~という結果を生じる)はresultやcauseを動詞として使えば単語数を減らして、さらに「誤った操作により怪我や故障を招くかもしれない」ことを強く伝えることができます。

他には、1文を18単語以内に抑えるなどのテクニックもあります。小説ではないので短い文章が続いても問題無い、というのが工業英語の考え方です。

私がまとめた工業英語のポイント
私がまとめた工業英語のポイント

もっと細かいルールはありますが、これが基本的な考え方です。では実際にどういう試験だったのか、私の経験をもとにご紹介します。

工業英検の各級の実際と対策

工業英検は公益社団法人日本工業英語協会が実施してます。試験の概要については公式ホームページをご覧ください。

外部リンク:公益社団法人日本工業英語協会

各級とTOEICの関係

私が工業英検を受けたときは並行して英語力のチェックとしてTOEICも受験していました。当時のスコアをまとめると下の表のようになります。あくまでも私の経験をベースにした表なので、ご参考程度とお考え下さい。

工業英検の級受検年受検時のTOEICスコア結果
1級2009年700(L340/R360)不合格
2級2009年690(L315/R375)合格
準2級未受検(当時はまだ無かった)
3級2007年640 (L290/R350)合格
4級未受検

2017年度より、1級と2級の試験問題が改訂されました。試験内容は少し変わっても共通していることはあります。この中で実際に受験した3級、2級、1級の内容について私の経験をお話しします。

3級:過去問を繰り返しやる

私が3級を受けたのは2007年で、当時26歳でした。恐らくこの級はもっと若い時に取得すべきものでしょう。そのため、3級受検時のTOEICスコアもすでに640点ありますが、ここまで到達していなくても合格は可能です。実用英検であれば準2級または2級レベルです。

3級は「科学・技術に関する基本的な文章を読むことができる」レベルです。

この級では文章の読み書きよりも単語力が問われます。したがって、対策は公式の過去問題集を解くだけです。工業英検対策というよりもむしろ、基礎的な英語力が大切です。

下記の公式ページから過去問のサンプルが無料で入手できます。出題形式も過去問で覚えることができます。

外部リンク:過去問題・資料 – 公益社団法人日本工業英語協会

サンプルの問題数だけで不安であれば、問題集を購入されるのもいいでしょう。大切なのは繰り返しやって知識を習得することです。

3級には和訳や英作文問題もありますが、回答は選択式なので消去法が使えます。また、正答率60%以上で合格なので、わからない問題は大胆に捨てることもできます。

2級:翻訳の正解がわからないので添削付き通信講座を利用

2級は2009年、当時のTOEICスコアが690点で受験しました。2級は「工業英語全般の知識を有しているレベル」のため、難易度は高いです。実際には文章の翻訳(和英・英和両方)が試験の中心になります。

工業英検は紙の辞書であれば2冊まで持ち込みが可能です。ただし、わからない単語を片っ端から引いていると時間は足りません。科学技術といっても私の専攻である電気・電子・ITだけでなく機械や自然科学、化学系も入り広範囲の専門単語が要求されます。やはりちゃんとした地力が求められます。

またレトリックという、二つの文を一つにつなぐ問題があります。無駄な単語を落として意味をそのままにする、文章を簡略化することで誤解を招かないようにすることです。

試験対策としては、3級と同じで公式問題を解くのが基本です。ただし2級は問題集が市場に流通していないため、「過去問題・資料 – 公益社団法人日本工業英語協会」の無料過去問サンプルが貴重な情報元となります。

2級は3級と違って原則的に記述式問題で構成されているため注意が必要です。和訳・英訳には模範解答はありますが、解説がありません。つまり、何をもって正解か?という判断基準が明確ではありません。また、制限時間内に解くためには翻訳問題を何分で解くべきか?というペースを掴むためにも模擬試験をやりたいところです。

先ほど説明した翻訳やレトリックを全て独学で判断しながら問題を解くのが不安だったため、工業英語協会が扱っている通信講座「英文テクニカルライティングスキルアップ」を申し込みました。他団体による通信講座もあったのですが、工業英語について一番理解できそうなこと、また自分の書いた文を添削してくれるサービスがあり利用しました。

外部リンク:【添削つき】英文テクニカルライティングスキルアップ – 公益社団法人日本工業英語協会

※2018.05.20追記:この通信講座は終了し、現在新しいオンライン講座を開発中とのことです。そのためリンクは削除しました。

通信講座修了証
通信講座修了証(この講座は現在受講できません)

実際は3か月のコースですが、記録をみると11日で終わりました。核となる考え方はシンプルなので、テキストの厚みのほとんどは実際のところ練習問題です。下記は文章簡略化の問題で私が実際に間違えたものです。

  • 問: In the case of the factory, 40 people are employed.
  • 私の答え: In the factory, 40 people are employed.
  • 正答: The factory employs 40 people.

このように、問にあるような文章(10単語)は実際に海外業務でも目にします。そしてこの文は正答にあるように5単語にまで減らすことができます。これが頭ではわかっていても、指摘されないとなかなか気づけません。

この通信講座の受講後、2級に合格することができました。独学でテキストを勉強してもわからない感覚が、添削をしてもらうことで気づきを教えてくれました。

1級:翻訳者や指導者を想定した専門教育が必要

その後1級も受けましたが、まるで歯が立ちませんでした。不合格Bで「ある程度工業英語は理解しているが、総復習が必要」と通知には記載されていました。2級に合格した勢いで同じ年に受験したのですが、やはり早すぎました。

私が受験したときは、出題された英文・和文は読んで理解できても、それを自然な日本語(英語)に翻訳する能力が足りなくて直訳になりました。また文法知識も中途半端だったので、レトリックも上手く処理できませんでした。それが不合格Bとなった理由でしょう。

1級は「工業英語の専門家としての実務能力を有しているレベルで、実務上、工業英語を指導できる」レベルです。2次試験の面接は2017年度の改訂で廃止になりました。

出題の中心はやはり英訳・和訳です。2017年度の改定で要約とレトリックは無くなりましたが、リライトと用語問題が新たに設置されました。新しい設問には翻訳する能力だけでなく、工業英語の3Cの目線で「どういった誤解を招くか」や「英文をどう改善できるか」が求められるようになりました。

この難関をクリアするには、ただ翻訳能力を高めるだけでは不十分です。工業英語という「思想」を十分理解してすぐに解答できるまでの瞬発力が求められます。したがって、TOEIC900点/実用英検1級があるだけで合格が保証できるほど簡単な試験ではありません。私の無知については恥ずかしい限りです。

※2018.05.20追記:新しく添削講座ができたようです。私が受験したときには無かったので詳細はわかりません。ただ添削してもらうと、自分の訳のどこがおかしくてどう直せば良いかを理解できます。こういったフィードバックはスキルアップにつながります。

外部リンク:添削講座 – 公益社団法人日本工業英語協会

私は合格していないので対策の解説はできませんが、1級を合格するにはバイリンガルエンジニアとしての実務能力以上のものが求められることは確かです。

まとめ:実務よりも難しい試験

工業英検2級・1級に出題される問題はどれも専門性が高く、私がバイリンガルエンジニアとして実務で求められているレベルよりも高いです。それだけ高い工業英語の質を評価してくれるのが工業英検1級です。

実際には2級でも実務レベルなので、シンガポールやベルギーの会社の実務で支障はありません。履歴書上も2級取得であれば堂々と書いて問題ないでしょう。何といっても、技術文書の考え方を知るうえで工業英検は受けて良かったです。

この試験でやったような「極限まで文章を短くする」ということは実務ではそんなにありません。工業英語や”Technical Writing”という考え方が私の勤めている会社で浸透しているとは思えませんでした。アメリカではおそらくもっと浸透しているでしょうが、シンガポールやベルギーで勤務して普段意識することはあまりありません。

無駄のない英文作成や読解を訓練するのにも工業英語の考え方は文系の方にも役に立つでしょう。

相互リンク:資格のコンシェルジュがあなたをサポート:資格ジャパン

参考文献