技術英語の考え方と技術英検対策(旧工業英検)

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旧工業英検ノート

ペーパーバックを読めるようになってから、英語に対する自信はかなりつきました。ただ同時に「実用英検と TOEIC だけ勉強していればいいのか?」という頭がよぎるようになりました。

英語系の資格はたくさんありますが、資格をなんでも取れば良いものではないだろうし…資格を取ってただの英語の上手い人というのはダメです。英語の話せる人は世界中にたくさんいます。

今後の仕事にも役立てるためには目的意識が必要でした。

私は学生の頃からすでに理系で生きていくことに決めていたので、だったら理系の英語資格はどうか?と思いました。それで「工業英検」を受験することにしました。あくまでも基礎の英語は勉強を続けつつ、です。

この記事では工業英語についての考え方と、実際に工業英検を受験した私の経験についてシェアします。

2020-03-08 追記: 2020 年度より工業英検は技術英検に名称を変え、かつ級構成も変わりました。この記事は旧工業英検をベースに新試験を解説します。

基礎英語の次には専門英語がある

そもそも技術英語(旧工業英語)とは何でしょうか?技術英語は英語で “Technical English” とか “Technical Writing” と言います。一言でいえば「技術系の英語文書の書き方」です。

技術系の英語と一口に言っても、科学技術論文、機器の取り扱い説明書、仕様書、設計図面など、普段多くの人にとってあまり見慣れないものですね。しかしこれらの文章にも共通の決まりごとがあるのです。

仕事で使う英語というと、以下の 4 つのカテゴリーに分けることができます(私の独断と偏見です)。

  1. メール、契約書、見積書、新聞や広告など、いわゆるビジネス英語(実用英検や TOEIC でカバーされている)
  2. 同時通訳および通訳案内士(ただ TOEIC のスコアが高いだけではできないプロの仕事)
  3. 映画のセリフや小説などの翻訳(産業翻訳と言われている)
  4. 技術系の文書の翻訳や書き方(これが工業英語)

英語の基礎という意味では、「英語習得物語」シリーズで書いてきたように実用英検や TOEIC が必須です。ただ英検と TOEIC ですべての英語ジャンルをカバーすることはできません。

基礎ができた上で、さらに仕事で活かす専門的な英語を習得するには実際に少なくとも上に挙げた 2 から 4 のカテゴリーがあると私は考えてます。

英語ができれば技術文書なんて簡単じゃないの?と言われるかもしれません。でもそれでは不十分です。日本人ならだれでも日本語で技術文書を作れるのか?というのと同じで、英語のネイティブスピーカーでも実は技術文書のルールというのは教わらないとわからないものなのです。

実際に、アメリカ人の英語の先生に技術論文の英文要約をチェックしてもらった時、ネイティブでも技術的な英語に精通していないことを経験しました。そのエピソードは第8話にて紹介しました。

関連記事:英語習得物語 第8話:英会話教室に半年だけ通った大学院生時代

欧米系の大学ではこのような “Technical Writing” の授業があって、ネイティブスピーカーもそれを受講しているという話を聞いたことがあります。とすると、私が大学で受講していた「専門英語」はなんだったのか?何も教えてくれていないに等しかったです。

技術英語(旧工業英語)とは?

技術英語(旧工業英語)のポイント
私がまとめた技術英語(当時工業英語)のポイント

技術英語の特徴は何か?というと「必要な情報を誤解を与えないように伝える英文」です。

例えば映画や小説は、文章やセリフからそのお話のイメージを膨らませることで読み手を楽しませる工夫があります。

しかし、技術英語では読み手の想像力を働かせてはいけません。

マニュアルを読んで機械の操作を誤って事故が起きたら大変です。また猫を電子レンジに入れてしまうようなことを防がなければなりません。

マニュアルに書いてなくても「常識的に考えれば」という甘い考えは通用しません。技術文書には機能や安全性などの必要な情報を間違いなく(誤解なく)提供する必要があります。

私自身は日本でよく使われる真実 (truth) という表現は好きではありません。技術に必要なことは真実ではなく事実 (fact) の積み重ねだからです。

民生用・産業用にかかわらず、機器が正しく動くのには設計という根拠があり、壊れたことに対しても物理法則に基づく理由が必ずあります。それらの機器を混乱なく安全に使えるように技術者は日々努力しています。

このように、技術英語では書き手(設計開発側)の情報を正しく伝えることが必要です。それを象徴するように、技術英語では 3 つの C があります。

  1. Clear: 明確に
  2. Correct: 正確に
  3. Concise: 簡潔に

Clear は曖昧な表現を避けることです。例えば Those や It などを使うと、何を表しているのか読み手に「想像させる」ことになります。技術文書はクイズではないので、文章の流れから明らかでも何を指すのかは省略しないほうがよいのです。

同じく、受動態(主語の省略)は遠回しな表現になるので、できるだけ能動態で書くことが望まれます。命令形も有効です。

Correct は本当のことを書かないといけません。この 3C の中で一番重要なことです。

Concise は冗長な表現を避けることです。同じ意味の表現であれば、単語数は 1 語でも減らすべき、というのが工業英語の考え方です。例えば come out (~という結果を生じる)は result や cause を動詞として使えば単語数を減らして、さらに「誤った操作により怪我や故障を招くかもしれない」ことを強く伝えることができます。

他には、 1 文を 18 単語以内に抑えるなどのテクニックもあります。小説ではないので短い文章が続いても問題無い、というのが技術英語の考え方です。

もっと細かいルールはありますが、これが基本的な考え方です。では実際にどういう試験だったのか、私の経験をもとにご紹介します。

技術英検(旧工業英検)の各級の実際と対策

技術英検は公益社団法人日本工業英語協会が実施してます。試験の概要については公式ホームページをご覧ください。

外部リンク:公益社団法人日本工業英語協会

各級とTOEICの関係

技術英検と旧工業英検の級と私が受験した当時のTOEICスコア

私が当時の工業英検を受けたときは並行して英語力のチェックとして TOEIC も受験していました。当時のスコアをまとめると上の表のようになります。あくまでも私の経験をベースにした表なので、ご参考程度とお考え下さい。

この中で実際に受験した級の内容について、私の経験をお話しします。

技術英検2級(旧工業英検3級):過去問を繰り返しやる

私がこの級を受けたのは 2007 年で、当時 26 歳でした。恐らくこの級はもっと若い時、例えば大学生時代で取得すべきものでしょう。

そのため受験当時の TOEIC スコアもすでに 640 点ありますが、ここまで到達していなくても合格は可能です。実用英検であれば準 2 級または 2 級レベルです。

技術英検2級(旧工業英検 3 級)は「科学・技術英語の語彙力があり、構文・文法を理解している」レベルです。

この級は工業英検対策というよりもむしろ、基礎的な英語力が求められます。文章の読み書きよりも単語力で突破できます。

和訳や英作文問題もありますが、回答は選択式なので消去法が使えます。正答率 60 % 以上で合格なので、わからない問題は大胆に捨てることもできます。

したがって、対策は公式の過去問題集を解くだけです。

下記の公式ページから過去問のサンプルが無料で入手できます。出題形式も過去問で覚えることができます。

外部リンク:過去問題・資料 – 公益社団法人日本工業英語協会

ただし無料サンプルは模試 1 回分のボリュームしかありません。

サンプルの問題数だけで不安であれば、問題集を購入されるのもいいでしょう。有料ですが直近 15 回分の過去問が 1 冊に収録されています。圧倒的なボリュームなので、この問題集を 1 冊くり返し解けば大丈夫でしょう。

公益社団法人日本技術英語協会, 日本能率協会マネジメントセンター, 2022
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準プロフェッショナル(旧工業英検2級):翻訳の正解がわからないので添削付き通信講座を利用

2009 年、当時の TOEIC スコアが 690 点で受験しました。

この級は「工業英語全般の知識を有しているレベル」のため、難易度は高いです。実際には文章の翻訳(和英・英和両方)が試験の中心になります。

工業英検 2 級は紙の辞書であれば 2 冊まで持ち込みが可能です。

【変更】紙の辞書 2 冊までの持ち込みはプロフェッショナル(旧工業英検 1 級)だけになりました。この級では持ち込み不可です。

科学技術といっても私の専攻である電気、電子、 IT だけでなく機械や自然科学、化学系も入り広範囲の専門単語が要求されます。やはりちゃんとした地力が求められます。

またレトリックという、ふたつの文をひとつにつなぐ問題があります。レトリックとは意味はそのままで無駄な単語を取り除き英文を簡略化することです。誤解を招かないようにする工業英語に欠かせないテクニックです。

試験対策は他の級と同じで公式問題を解くことです。ただしこの級は問題集が市場に流通していません。そのためすでに紹介した過去問題集の活用か、協会が独自で発行している対策資料が貴重な情報元になります。

この級は原則的に記述式問題で構成されているため注意が必要です。和訳・英訳には模範解答はありますが、解説がありません。つまり、何をもって正解か?という判断基準が明確ではありません。

また、制限時間内に解くためには翻訳問題を何分で解くべきか?というペースを掴むためにも模擬試験をやりたいところです。

先ほど説明した翻訳やレトリックを全て独学で判断しながら問題を解くのが不安でした。そのため工業英語協会が扱っている通信講座の受講をおすすめします。

外部リンク:添削講座一覧 – 公益社団法人日本工業英語協会

2021-12-13 追記:リンクを修正しました。

私が受験した当時の添削講座名は「英文テクニカルライティングスキルアップ」でした。

他団体による有料通信講座もありました。しかし本家の講座が工業英語について一番理解できそうなこと、また自分の書いた文を添削してくれるサービスがあったので利用しました。

通信講座修了証
通信講座修了証(この講座は現在受講できません)

実際は 3 か月のコースですが、記録をみると 11 日で終わりました。

核となる考え方はシンプルなので、テキストの厚みのほとんどは実際のところ練習問題です。下記は文章簡略化の問題で私が実際に間違えたものです。

  • 問: In the case of the factory, 40 people are employed.
  • 私の答え: In the factory, 40 people are employed.
  • 正答: The factory employs 40 people.

このように、問にあるような文章 (10 単語)は実際に海外業務でも目にします。そしてこの文は正答にあるように 5 単語にまで減らすことができます。これが頭ではわかっていても、指摘されないとなかなか気づけません。

この通信講座の受講後、旧工業英検 2 級に合格することができました。独学でテキストを勉強してもわからない感覚が、添削をしてもらうことで気づきを教えてくれました。

プロフェッショナル(旧工業英検1級):翻訳者や指導者を想定した専門教育が必要

その後旧工業英検 1 級も受けましたが、まるで歯が立ちませんでした。

不合格 B で「ある程度工業英語は理解しているが、総復習が必要」と通知には記載されていました。旧工業英検 2 級に合格した勢いで同じ年に受験したのですが、やはり早すぎました。

私が受験したときは、出題された英文・和文は読んで理解できても、それを自然な日本語(英語)に翻訳する能力が足りなくて直訳になりました。また文法知識も中途半端だったので、レトリックも上手く処理できませんでした。それが不合格 B となった理由でしょう。

1 級は「工業英語の専門家としての実務能力を有しているレベルで、実務上、工業英語を指導できる」レベルです。 2 次試験の面接は 2017 年度の改訂で廃止になりました。

変更:プロフェッショナル(旧工業英検 1 級)は「科学・技術分野の英語文書を読みこなし、かつ正しく、明確に、簡潔に書くことができる」となり「指導できる」という表現はなくなりました。

出題の中心はやはり英訳・和訳です。 2017 年度の改定で要約とレトリックは無くなりましたが、リライトと用語問題が新たに設置されました。

新しい設問には翻訳する能力だけでなく、工業英語の 3C の目線で「どういった誤解を招くか」や「英文をどう改善できるか」が求められるようになりました。

この難関をクリアするには、ただ翻訳能力を高めるだけでは不十分です。工業英語という「思想」を十分理解してすぐに解答できるまでの瞬発力が求められます。

したがって、 TOEIC 900 点/実用英検 1 級があるだけで合格が保証できるほど簡単な試験ではありません。私の無知については恥ずかしい限りです。

私は合格していないので対策について解説できません。確かなこと、それは、この級を合格するにはバイリンガルエンジニアとしての実務能力以上のものが求められるということです。

まとめ:実務よりも難しい試験

上位の級に出題される問題はどれも専門性が高く、私がバイリンガルエンジニアとして実務で求められているレベルよりも高いです。それだけ受験者の質を評価してくれるのが技術英検のプロフェッショナルや旧工業英検 1 級です。

実際には旧工業英検 2 級(準プロフェッショナル)でも実務レベルなので、私自身シンガポールやベルギーの会社の実務で支障はありません。何といっても、技術文書の考え方を知るうえで旧工業英検は受けて良かったです。

この試験でやったような「極限まで文章を短くする」ということは実務ではそんなにありません。工業英語や “Technical Writing” という考え方が私の勤めている会社で浸透しているとは思えませんでした。アメリカではおそらくもっと浸透しているでしょうが、シンガポールやベルギーで勤務して普段意識することはあまりありません。

無駄のない英文作成や読解を訓練するのにも工業英語の考え方は文系の方にも役に立つでしょう。

参考文献

Barry J. Rosenberg, Addison-Wesley Professional, 2005
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このブログを書いている人

ダイブツ
twitter: @habatakurikei
元々IT系だけど電気系技術者。20代で博士号を取得するも、全然社会の役に立てないのが不満でブログによる情報発信を開始。あなたに有益な知識やノウハウを理系目線かつ図解でわかりやすく解説するのがモットー。2018年心臓発作であわや過労死寸前。そこからガジェットレビューを通じた体調管理の情報発信も開始。ベルギー在住でシンガポール就労経験もあり、海外転職や海外生活のノウハウも公開中。

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