先端かつ横断的な技術の融合で新しい社会へ『IoTとは何か』

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今回の書評は『IoTとは何か 技術革新から社会革新へ (角川新書)』です。

IoTとは何か成分

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業界第一人者の視点で解説

どこでもドアならぬ、どこにでもコンピュータ。

IoT (Internet of Things) は「アイオーティー」と読み「モノのインターネット」と呼ばれています。

IoTって何?と聞かれると私も返答が難しいです。さっそくですが著者の言葉を借りて定義させていただきます。

IoTはむしろ「インターネットのように」会社や組織やビルや住宅や所有者の枠を超えてモノが繋がれる、まさにオープンなインフラを目指す言葉と捉えるべきだ。

坂村健 『IoTとは何か 技術革新から社会革新へ』 角川新書 (2016) kindle 版位置 No. 97 付近

かつてはインターネットにつながるものといえばコンピュータやスマートフォンでした。しかし技術の進歩でハードウェアが小型化・低価格化し、全てのものがインターネットにつながるようになります。

この新しいインフラにより今よりも便利なサービスが受けられるようになります。

著者の坂村健先生は IoT という言葉が浸透するはるか昔から「ユビキタスコンピューティング (ubiquitous computing) 」という形で、このような将来が来ることを予想していました。アメリカで評価されている数少ない日本人研究者のひとりです。

私にとって坂村先生といえば、 IT 技術の入門書である「痛快!コンピュータ学(集英社文庫)」や「 TRON プロジェクト(今やIoTに欠かせないリアルタイム OS )」といった、日本のコンピュータ科学の大先生です。学生の頃先生の本にはお世話になりました。

本書は先生による IoT の入門書です。先生がかつて発案したユビキタスコンピュータの歴史から、他国の IoT の取り組み、具体的な開発事例、法律とガバナンス、プログラミング教育の話まで広く扱っています。

ユビキタスコンピューティングという言葉はもう聞かなくなりました。いつしか IoT と名前を変えて浸透していき、基本的な考え方はそのまま受け継がれています。

便利を超えて世の中が変わる可能性を秘めている

IoTは新しい社会のインフラ

リアルタイム処理で情報がすぐ手に入る

世の中を変える可能性を秘めている。少しオーバーな表現かもしれません。

IoT という言葉自体は非常に概念的でつかみどころがありません。そのため本書では具体例をいくつも挙げて解説しています。逆にそれが読む人にとっては「これと IoT はどう関係があるの?」と思ってしまうこともあるでしょう。

私が考える IoT は「リアルタイム化」と「透明化」でしょうか。

リアルタイム化(リアルタイム処理)とは、問い合わせに対してすぐ結果が得られる仕組みです。道路の渋滞や鉄道の運行状況などがその場でわかる。災害時にどこが安全でどこが危険かもスマホでチェックできるようになる。これがリアルタイム処理です。

これが実現できるのは、センサー(物の状態や人間の行動を電気信号に変換するものの総称)があるからです。小型化と低価格化により、いたるところに設置できるようになりました。またインターネットとつながっているため、今まで以上にデータがすぐ集計できるようになりました。

例として、 GE が航空機のエンジンに大量のセンサーを取り付けました。これにより飛行状況だけでなくエンジンの使われ方がその場でわかるようになりました。その結果「どういう飛行ルートであれば燃費を節約できるか」や「故障する前にいつメンテナンスすべきか」というアドバイスができるようになりました。

事故のリスクを抑えてコストも下がれば、利用者はより安心して飛行機に乗れますね。

GE はエジソンが電球の販売を始めた家電メーカーでした。しかし近年はこの技術をベースに「ソフトウェアの会社になる」と宣言したほどです。それくらい IoT による恩恵は大きくなると想定しています。

透明化で情報入手も流出も容易に?

この例以外にも、スーパーで買うものが「どこの農場で飼育されたミルク」で「どういう経路で加工・流通したか」が明確になります。「透明化」ですね。

今までも品物によっては、どの農家さんが作ったかという紙がスーパーの店頭では張られていました。しかし今後はスマホのカメラで売り物を撮影すれば、その場で全ての情報が得られるようになります。

スーパーは何もしなくても、陳列されている品物から販売店、工場だけでなく原材料までを追跡できるようになります。また生産する農場や製品加工工場でも大量のセンサーが設置され、少ない作業量で追跡データを収集できるようになります。

このように私たちの生活そのものがもっと変わる可能性があります。本書ではこういう事例を技術的に細かく解説しています (kindle 版位置 No. 323 付近)。

便利になることで代償もあります。プライバシーの問題です。今まで以上にたくさんの情報が流通する以上、個人情報の流出も避けられません。その点についても著者はガバナンスという観点からどうすべきかを提案しています。

技術者は幅広い知識が求められる

生活面の変化として IoT は大きな可能性を秘めていることを説明しました。技術という側面から IoT を説明するとどうでしょうか。

IoT は総合力です。ハードウェア(センサーとエレクトロニクス)とソフトウェアの知識、データ解析、セキュリティ、省エネ無線通信の規格など横断的で幅広い知識が求められます。

1 つのことだけ深く知っていればよいということではありません。また新しい技術の登場で今までの知識が使えなくなってきています。

私も技術者として社会の変化に取り残されないか、危機感があります。そのため「IoT検定レベル1試験プロフェッショナル・コーディネータ」を受験してみました。

外部リンク:IoT検定制度委員会

この資格そのものの価値については私も未知数です。資格のために勉強したというよりも、資格を通じて先端知識を習得したいという考えでした。

この試験が始まったのは 2016 年、私はすでに海外で働いていました。電子書籍で知識を吸収しつつ、日本に一時帰国した 2017 年 2 月に東京・新宿で受験しました。

結果から言うと合格でした。出題分野と正答率はこのようになっていました。

IoT検定レベル1スコア表

試験は 4 択問題 70 問を 60 分で解きます。コンピュータベースなので、その場で採点して結果が出ました。

トータル 60 %以上で合格なので、本当に運が良かったです。得点が高かった分野は表の赤文字で示した正答率の「戦略とマネジメント」と「データ分析」でした。

データ分析は博士課程在籍時に係わっていた統計解析や人工知能関係の知識が役に立ちました。戦略とマネジメントは普段読んでいる経営関係の本の知識が役に立ったのでしょう。

それ以外の技術的な分野については合格ラインぎりぎりか、それ以下でした。技術者としてこの点数は正直恥ずべきことかもしれません。

本書で坂村先生が提唱しているように、 IoT で社会を変えるには法律の整備も必要です。実際に IoT 検定には法務という出題項目もあります。

今後は技術者にも法律知識や経営知識も必要になるでしょう。従来の勉強の仕方ではカバーできないくらい幅広い知識が求められます。

私が受験したとき問題集はありませんでした。しかし、この記事の執筆時点では公式問題集が発売されています。入手してさらに知識を深めたいです。

エンジニアの人手不足がさけばれて久しいですが、確かにそうかもしれません。 IoT に精通していることは技術者として先端にいる証といってもいいでしょう。

今回紹介した本

坂村 健, KADOKAWA/角川学芸出版, 2016
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