海外就職とは何か?働き方の種類と外国で日本人が必要な理由
この記事は約 12 分で読めます
私が海外就職をしてから 3 年経ちました。
ここ数年で感じることは海外就職というキーワードによるウェブ検索結果に変化があることです。私が日本国外に転職したときよりも多くの情報がウェブでも入手できるようになりました。一方で玉石混交のような状態にも感じます。
この記事では海外就職とはどういうもので、どういった就労方法があるかをまとめました。さらに海外就職するうえで知ってほしいことについても書きました。この記事をきっかけに海外就職について知って頂ければ幸いです。
海外就職の定義
海外就職とはその名の通り「日本国外の会社に就職/転職する」ことです。かつては英語を使った仕事と言えば、この 5 つを想像したことでしょう。
- 日本にある外資系企業に勤める
- 国際組織(国連または関連団体)で働く
- 日系大手企業で海外赴任(駐在)
- 海外の大学(主にアメリカ)を卒業して、そのまま現地の会社に就職
- 翻訳や通訳を仕事にする(フリーランスを含む)
海外の大学を卒業せずに現地の企業で働く方法もありましたが、情報の入手しづらい時代はとても敷居の高いことでした。現地で働くのであれば、国際結婚を通じて外国に引っ越すというイメージの方が強かったのではないでしょうか。
しかしグローバル化の波は止まりません。
インターネットやソーシャルネットワーキング(SNS)技術の発達により情報が格段に入手しやすくなりました。また応募書類(履歴書・職務経歴書)の電子化やSkypeなどを使った面接により、日本にいながらにして海外の仕事を探すことができる時代になりました。
なぜ海外就職なのか?
では、なぜ海外就職なのでしょうか?近年言われている「働き方改革」がキーワードになります。
首相官邸のウェブサイトにある「働く人の視点に立った働き方改革の意義(基本的な考え方)」より、課題の部分を引用させていただきます。
日本の労働制度と働き方にある課題
- 正規/非正規雇用の不合理な処遇の差
- 長時間労働
- 単線型の日本のキャリアパス
これらの課題に解決するため、例えばプレミアムフライデー導入によるライフワークバランスの提案、副業解禁、女性がキャリアと育児を両立できるような仕組みづくり、高齢者への就労促進、などの対策が実施/検討されています。
しかしこれだけではありません。上記のうち「単線型の日本のキャリアパス」については何も日本国内への転職だけにスポットを当てる必要はありません。
このシリーズで海外就職を実現する具体的な方法を紹介してきたのは、インターネットとグローバル化により「日本で働く/海外で働く」といった働き方の選択肢が増えていることを紹介したかったためです。
働き方改革への別の選択肢としての海外就職が存在するのです。
海外での就労タイプ
では実際にはどういった働き方があるのか、整理してみましょう。
当たり前の内容かもしれませんが、ここであえてまとめるのには理由があります。なぜならグローバル人材を扱った書籍のほとんどが「外国人と日本人の働き方の違い」や「海外での仕事術」、または「よく使われるビジネス英語フレーズ」を扱っていて、この部分が説明されていないからです。
どこの国でも日本人が外国で働くには「就労ビザ(労働許可)」が必要です。国によりルールは違いますが、おおむね「独立」か「被雇用(雇われて働く)」の2種類でビザが分かれます。
各タイプについて説明しましょう。イラストもご覧ください。
独立・フリーランス
まずは「独立型」です。起業家ビザを取得して現地で会社を興すか、フリーランスビザ(プロフェッショナルカード)を取得して個人事業主として働くタイプです。
ノマドワーカーの様にパソコン一つで国を転々として働く方法もあり、ここではフリーランスタイプとしました。国を転々とする場合は基本的に観光ビザで入国するため、本来就労はできません。そのため、ノマドワーカーとして働くにはその国のルールを事前に知っておく必要があります。
実際には現地の当局が就労しているかどうか見極めることは難しいため、実態としてはグレーゾーンでしょう。合法的な就労をするには、30歳未満であればワーキングホリデービザを取得する方法があります。しかし働ける国や年齢・就労条件が限られるので注意しましょう。
駐在員(日本が拠点)
もうひとつのカテゴリは「被雇用型」です。このタイプでまず挙げられるのは「駐在員」として働くケースです。
会社の規定により異なりますが、 3 年から 5 年を目安に現地に赴任します。あくまでも日本の従業員が外国に行くため、起業家やフリーランスとは異なるいわゆる「就労ビザ」が必要です。通常は会社によるビザ発行サポートがあります。
駐在員は期限付きではあるものの、社内異動で海外に行くチャンスがあります。また駐在員はダブルペイ(日本と現地で 2 つの給料をもらえる)や車の支給があるなど優遇される面もあります。ただしこのような優遇が実際にあるかどうかは会社により異なります(かつてほど優遇されていないという話も聞きます)。
また、会社の命令で赴任することになりますので、国や滞在期間を自分で決めることはできません。自分が駐在員に選ばれるかどうかも会社の判断であり、自分の希望が通るとは限りません。
青年海外協力隊(シニア海外ボランティア)はボランティアですので海外就職とは違いますが、海外で経験を積むという点で選択肢に入れました。独立行政法人国際協力機構 (JICA) が任期付きで外国に派遣するという採用方法なので駐在員と似ています。
駐在員と青年海外協力隊は「拠点はあくまでも日本」としているのが共通点です。
現地採用(日本国外が拠点)
最後は「現地採用」です。現地にある会社で日本と同じように従業員として就職する働き方です。またこのブログの「海外就職のトリセツ」シリーズで扱ってきたタイプです。
私はこのタイプでこれまでシンガポールとベルギーで働いています。どちらもその国の会社に直接応募して採用されるため、面接は原則的に現地でやるか Skype で実施します(例外的に日本で面接した経験もあります)。
雇用契約や税金の扱いもすべてその国の法律をベースとします。駐在員とは異なり、拠点は日本ではなく滞在先の国です。
上記のイラストは「現地のパートナーと一緒にその国で働く人」というイメージを描きました。実際には私のような独身や単身であっても現地採用として働くことはできます。
ワーキングホリデーは期限付きではありますが、その国のビザを事前に取得して現地でアルバイトができるため現地採用と似ています。また海外インターンシップも期限付きで現地の会社で働く契約をするため、現地採用タイプになります。
上記のイラストにはない働き方として国際機関(国連または関連団体)がまだ残っています。国際機関は採用される国が日本国内/外で変わるため、タイプ分けが難しいです。
かつては海外の会社で働く際「駐在員が偉くて現地採用は不遇」というイメージがありました。実際に海外就職に関するアンケートに協力した時、「現地採用のデメリットは何か?」という質問に対して「駐在員から嫌がらせを受ける」といった内容の選択肢がありました。その質問には「そういう選択肢を挙げること自体が的外れ」と回答しました。
私の海外就職の経験からすればそれは幻想です。もし不遇な扱いで現地採用を働かせる会社がまだあるとすれば、その会社のマネジメントに問題があります。日本国内の会社でも上下関係による摩擦があるのと同じです。「海外現地採用=不遇」は幻想です。
海外で働く機会は増えている
海外で現地採用として働く機会は年々増えています。なぜならば、海外に進出している日本企業が増えていることに伴い、日本人の労働力も必要とされているからです。参考までにデータで説明しましょう。
海外在留邦人数の増加
外務省は毎年「海外在留邦人数調査統計」を発表し、海外にいる日本人と会社の数を調査しています。まずは海外に在留している日本人のグラフを紹介します。
引用元(外部リンク):海外在留邦人数調査統計 統計表一覧 | 外務省
2005 年から 2016 年の 12 年間で約 33 万人増えています。長期滞在者は先に説明した「駐在員」と「現地採用」の両方を含みます。現地採用単体でどれだけ増えているかはわかりませんが、増えていることは事実でしょう。
見方を変えると、日本の少子高齢化による人口減少が進む一方、海外に在留している日本人は 134 万人と過去最高を記録しています。グラフによれば長期滞在者だけでなく永住者も過去最高を記録しています。
今後はどうなるかわかりませんが、外国に住み働く人は増えているのです。
同資料では前年比ではあるものの、職業別の増減についても説明があります。調査結果は「民間企業関係者、自由業関係者、留学生・研究者・教師、その他(無職)」は増加しているのに対して、減少しているのは「報道関係者」と「政府関係者」でした。民間の海外進出を示唆しています。
2021-12-18 補足:新型コロナウィルスのパンデミックの影響により、 2020 年に初めて減少に転じました。
日系企業の海外進出の増加
次に、日本企業の海外進出についてです。同じく外務省のデータから、海外進出企業のグラフを紹介します。
海外に拠点のある会社は 2006 年の約 3 万 2 千社から、 2016 年には約 7 万 2 千社に増えています。
国別の進出数はこのグラフでは省略しましたが、インドはこの 10 年で約 9 倍、メキシコはこの 10 年で約 4 倍となっています。近年は東南アジア諸国への進出が目覚ましいと言われていますが、インドやメキシコほど激増していません。
このグラフは以下の3種類の区分で集計されています。
- 現地法人化されている日系企業(現地法人)
- 現地法人化されていない日本の会社(支店・出張所など、本邦企業)
- その国のルールで上記どちらか判別できない日本の会社(区分不明)
現地法人・本邦企業の 2 つは主に大手企業や中小メーカーの海外生産拠点が当てはまりますので、これ以上の説明は不要でしょう。注目すべきは 3 番目の「判別できない日本の会社(区分不明)」です。少し怪しい雰囲気もありますが、冷静に考えてみましょう。
現地で日本人が起業・経営している会社は現地法人・本邦企業の 2 つのどちらにも当てはまらないのではないでしょうか。資料に詳しい解説はありませんが、外務省は「海外進出=大手企業」という目線でデータをまとめている可能性があります。
そのため、現地で起業・経営している会社はあくまでもその他扱いをされているのではないでしょうか。しかしグラフによれば、 2016 年の時点でも海外進出している日本企業全体の 4 割が「区分不明」です。区分不明とはいえ決して無視できる数字ではありません。
日本人が現地でビジネスパートナーを見つけて起業することはもはや珍しくないでしょう。しかし、日本型のグローバル企業ではローカルスタッフだけで構成するのではなく、日本人の社員や中間管理職を採用するのが普通です(詳細は、田口芳昭著 『なぜ日本企業は真のグローバル化ができないのか』 東洋経済新報社 (2015) に詳しいです)。
これは言い換えれば、日本人経営者にとって日本人の片腕が必要なのです。すべての日本の会社には当てはまらないかもしれません。しかし私自身が海外就職を経験して「日系会社の現地法人には日本人が必要」と認識しています。
以上の流れから、「海外進出している日本の会社が増えている → ローカルスタッフだけでの運営が難しい → 日本人の片腕が欲しい → 日本人を採用したい」という流れで、日本人の海外就職の機会は増えていると推測しています。
どの国で働くか?なぜその国で働くかを考えよう
ここまで海外就職の背景と日系企業の海外進出について説明してきました。では実際にどの国で働くべきでしょうか。海外就職でよく聞かれる質問のひとつに「どの国で働くのが良いですか?」というのがあります。日本以外の国といっても、選択肢が多すぎますね。
人それぞれどういう仕事がしたいかは異なるため、一般論で語ることは難しいです。しいて説明するならば、「自分が何をしたいか」を決めた上でその国で達成できるかを調べるのがおすすめです。
私のケースをお話ししましょう。私は「世界で勝負するエンジニアになりたい」という漠然とした目標がありました。そして自分なりに考えた結果、近年経済的に活発な東南アジアで転職活動をしました。そして結果的にシンガポールにある日系メーカーの R & D の職を得ることができました。
さらに、欧米の製造業で勝負したいという想いからアメリカかドイツで働くつもりで転職活動しました。そして結果的にはベルギーで働く機会をいただきました。シンガポール・ベルギーいずれの仕事も大変ですが、「世界で勝負するエンジニアになる」という当初の目的は達成させてもらえたと考えています。
欲を言えばやはり外資系でも働きたいですが、あとはご縁になってしまうので 100 % の希望は通らないと考えています。
関連記事:海外就職するにはどの国がいい?3か国就労で見た例と考え方
渡航先を決めるのによくあるケースが「旅行で滞在して良かったから住みたい」です。
しかしこの方法はおすすめしません。働かなくて良いのであれば話は別ですが、ほとんどの人は収入が必要です。そのためには日本との違いを受け入れるために、現地でサバイバルをする必要があります。簡単に思いつくだけでも以下の3つが日本とは違います。
- 気候が違う
- 食べ物が違う
- 労働環境が違う
その中でストレスを抱えながら業務もこなさないといけません。その国の言葉が通じなくても、現地の役所手続きや公共サービス(住居・電気・水道)の契約などは基本的に自分でやらなくてはいけません。それらを乗り越えるためには「なぜ外国で働くのか?」とういうモチベーションが必要です。
実際にあった話です。観光で来て好きだったシンガポールに仕事で移住したのですが、シンガポールの労働環境や競争社会になじめず、数か月で退職して日本に帰ってしまった人がいます。この例のように「海外就職=バラ色」ということではありません。
まとめ
海外就職を働き方の選択肢として提案していますが、あくまでも仕事をする以上楽しいことばかりではありません。厳しい言い方をしてしまいましたが、その点を承知の上で転職活動をしていただきたいです。仕事は人生に深くかかわることなので、あとで「こんなはずではなかった」では済まされないからです。
この記事の内容をまとめましょう。
- 働き方改革は日本国内での働き方だけでなく「海外で働く」ことも選択肢となっている。
- 海外に進出する日本の企業が増えている結果、日本人が海外で働く機会も増えている。
- なぜ海外で働くのか、明確な理由や目標を持とう。