Ultrahuman Ring Air対アップルウォッチ生体計測データ比較レビュー
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このシリーズではスマートウォッチやスマートリングの健康管理・生体データ計測機能をレビューしています。
この記事では Ultrahuman Ring Air とアップルウォッチを比較します。
結論はアップルウォッチの良さがわかるレビュー結果となりました。
特に心拍変動と血中酸素では Ultrahuman Ring Air の計測値の信頼性に疑問がありました。一方で Ultrahuman Ring Air の安静時心拍数と皮膚温は相対的な体調の変化を検出できそうです。
統計解析も含めた詳しい比較結果をすべて公開します。
結果を知りたい人はまとめをお読みください。
レビュー方法
デバイスの装着と計測時間
上図に示すイメージでレビューを行いました。
左腕に Apple Watch (Series 8) と Ultrahuman Ring Air (以下 URA と表記) を両方装着しました。左手は私にとって非利き手です。
日中、夜間を通して装着しデータを取り続けました。例外としてシャワー中のバッテリー充電 (18:00 – 20:00), 毎朝の体重計測時など一部非計測の時間帯があります。
約 1.5 か月間 (50 日間) データをとりました。
比較項目とデータ解析ツール
メーカーのアプリを使ってまずは基礎データを集計します。そして私の個人 PC にデータを手動でダウンロードしてさらに細かく分析します。
比較する項目は下記のとおりです。
- 歩数 (Steps)
- 安静時心拍数 (RHR: Resting Heart Rate)
- 心拍変動 (HRV: Heart Rate Variability)
- 呼吸数 (Respiratory Rate)
- 血中酸素 (Oxygen Saturation, SpO2)
- 皮膚温 (Skin Temperature)
- 最大酸素摂取量 (VO2 Max)
外部リンク:ヘルスサイエンス | Garmin (各計測項目の正常範囲などを参考)
URA は呼吸数と最大酸素摂取量 (VO2 Max) を計測することができません。そのため今回の比較の対象外です。
分析のメインは折れ線グラフによる日々の傾向比較です。両デバイスが同じ傾向で計測できているか確認します。
同じ傾向かどうか、統計的には正の相関があるかどうかで判断できそうです。そのため相関係数 R も計算します。
一部の項目は t 検定による平均値の比較も行います。
この記事は論文ではないので本格的な統計処理はやりません。しかし簡易分析でも「両デバイスに有意な(計測の)差があるか」、「日々の計測が安定しているかどうか」といったことが t 検定でわかります。
どちらの計測精度が良いか、といった評価ではなく製品ごとのクセを明確にしたいと思います。
計測精度の観点でいえば、アップルウォッチの精度は良いはずです。アップルウォッチは医療機器認証(心電図のみ)を取得しています。
データの扱い方や解析の補足説明についてはまとめページの項目を参照願います。
グラフによる傾向比較結果
歩数
上図は歩数の比較結果です。
アップルの点と URA の点にずれはあるものの、同じような計測結果になっています。
相関係数 R = 0.981 で正の相関があります。両デバイスともに同じ傾向で計測できています。
ただし他のデバイスよりも各点のずれは大きい気がします。
安静時心拍数
上図は安静時心拍数の比較結果です。
URA の方が明らかに低い値となっています。安静中で 40 台はかなり低いですね。
相関係数 R = 0.717 でかなり高い正の相関があります。
両デバイス間で計測値に差はあるものの、値の高い日と低い日の傾向を同じように計測していることを示しています。
統計解析でもう少し詳しく調べてみましょう。
心拍変動
上図は心拍変動の比較結果です。
URA の計測値はアップルウォッチより低く、かつ毎日同じような値が出ており変化が感じられません。
相関係数 R = 0.213 と低く、相関があるとは言えない結果でした。
他の製品もレビューしてきた経験によると、このようにアップルウォッチ以外の製品は心拍変動の値は低くかつ変化に乏しいです。
心拍変動はストレスレベルを知る指標のひとつです。値が低いほどストレスを抱えているとみなすことができます。
つまり他の製品ではストレスレベルが常に高めと計測されていることになります。これが本当だとすると他社製品は本当にスマートなのでしょうか?
いつも立てる仮説ですが、アップルウォッチに使われている心拍センサーは高精度のものなのでしょう。
血中酸素
上図は血中酸素の比較結果です。
URA の計測結果はほぼ 99 か 100 (%) しか出ませんでした。このレビューの時点にて URA の血中酸素機能はベータ版らしいです。
相関係数 R = 0.016 で相関はありません。 URA はアップルウォッチと同じように血中酸素を計測していないとほぼ断言できます。
血中酸素は睡眠時無呼吸症候群の判断に使う大切な指標です。 URA を日々使うには不安が残ります。
皮膚温
上図は皮膚温の比較結果です。
相関係数 R = 0.402 は弱い正の相関が認められます。これまでレビューしてきた製品の中では相関係数は高いほうです。
アップルウォッチは腕、 URA (スマートリング)は指に装着するので皮膚への密着度が違います。計測に差が出るのが普通だと思っていました。
しかしこのグラフをぱっと見た感じでも、他の製品よりも同じ感じで皮膚温を計測しているのがわかります。
通常、皮膚温は基準値プラスマイナス何度という表示をします。
しかし URA は皮膚温の計測値も表示してくれます。そのためアップルウォッチと比較することができました。
上図は皮膚温の計測値の日々の傾向比較結果です。こちらも似た傾向になっています。
相関係数 R = 0.630 は中程度の正の相関が認められます。
デバイスの装着位置が違うのに同じような計測ができているというのは評価できるのではないでしょうか。
統計処理の結果
難しい話になるので結果だけ知りたい人はここを飛ばして最後の「まとめ」をお読みください。
歩数
上図は歩数の t 検定の結果です。上図は箱ひげ図と呼ばれています。
アップルウォッチと URA で大きな違いはありません。
ただ URA は最大値と最小値がともにアップルウォッチの結果の内側に入り計測精度に何か違いがある感じがします。
安静時心拍数
上図は安静時心拍数の t 検定の結果です。
黒いダイアモンド型の点は外れ値と呼ばれます。平均から著しく外れている値です。
両デバイスともに上側に外れ値が出ています。安静時心拍数の値は高いほどストレスレベルが高いと解釈できます。つまり外れ値はストレスが高かった日だと解釈できます。
統計的に有意差があるという結果がハッキリでました。両デバイスの平均値には統計的な違いがあります。 p < 0.001 という結果は乱暴に言えば「この差が偶然起きた確率は 0.1 % 未満」です。
URA の安静時心拍数の値は明らかにアップルウォッチよりも低く出ました。しかし URA はアップルウォッチと同じように外れ値も出ました。両デバイスが同じ傾向で安静時心拍数を計測していることはすでに解説しました。
そういう意味では「ストレスレベルが高めの日と低めの日」を URA は日々計測してくれそうです。
計測値の正しさではなく、毎日の相対的なストレスレベルの差を URA は教えてくれそうです。
心拍変動
上図は心拍変動の t 検定の結果です。
統計的に有意差があるという結果がハッキリでました。両デバイスの平均値には統計的な違いがあります。 p < 0.001 という結果は乱暴に言えば「この差が偶然起きた確率は 0.1 % 未満」です。
アップルウォッチと URA のどちらも上側に外れ値を検出しています。しかし URA の外れ値はアップルウォッチでは通常範囲内であり異常値ではありません。
日々の傾向分析でも指摘したように、アップルウォッチ以外の製品は基本的に心拍変動の値にばらつきはなく変化の検出に乏しい感じがしています。
心拍変動についてはアップルウォッチの方が信頼できそうです。
血中酸素
上図は血中酸素の t 検定の結果です。
統計的な有意差が出ていますがそもそものデータがおかしいです。
URA の計測値はほぼ 99 (%) だけなので計測値に幅がなく箱ではなく線になっています。 100 (%) という望ましいはずの酸素濃度状態が外れ値(異常値)と判断されています。
URA の血中酸素計測はベータ版とはいえ信頼性に欠けていると言わざるを得ません。
皮膚温
上図は皮膚温の t 検定の結果です。計測結果 (Reading) の値を統計処理してみました。
統計的に有意差があるという結果がでました。 p < 0.05 という結果は乱暴に言えば「この差が偶然起きた確率は 5 % 未満」です。
日々の傾向の比較では両デバイスが似た値を計測していると判断しました。
一方この統計分析結果によると、 URA の計測値はアップルウォッチよりも統計的に優位に低いといえます。
皮膚への密着度が高いはずの指輪なのに体温は低めに計測したということです。腕時計型のアップルウォッチの方が皮膚とデバイス間の隙間ができやすく体温は低めに計測しそうですが、違うようです。
両デバイスともに上側に外れ値があります。皮膚温(体温)が高めということでこの日は身体の調子が悪かったかもしれません。自覚があります。
URA は外れ値が 2 個出ており、皮膚温(体温)が普段より高いことを教えてくれていそうです。言い換えると体温という観点では体調変化が気づきやすいかもしれません。
正直、どちらがより正確なのかはっきりわかりません。 URA にも使うメリットはありそうです。
まとめ
毎日使うのであればアップルウォッチでしょうか。かなり長期間データを取りましたが URA の良い点よりも改善点が目立ちました。
スマートリングはスタートアップ企業によるリリースが多いので仕方ありません。今後の改善を期待したいです。
この記事をまとめましょう。
- 歩数:日々の傾向比較において正の相関がみられ、両デバイスは同様の計測傾向を示していた。しかし URA の歩数計測範囲はアップルウォッチに比べて限られており、個別の計測点でのずれが大きかった。
- 安静時心拍数:日々の傾向比較では URA の計測値が顕著に低かった。その一方で正の相関が認められ、両デバイスは値の高低の傾向を似たように計測していた。 URA は相対的な日々のストレスレベルの違いを示していた。
- 心拍変動:日々の傾向比較では URA の計測値が低く、変化に乏しい結果となった。両デバイス間の相関は低くかつ t 検定の結果統計的な有意差があった。アップルウォッチの方が信頼できる心拍変動データを提供していた。
- 血中酸素: URA の計測値はほぼ 99 % に限定され、両デバイス間に相関はほぼ無かった。 URA の計測機能はベータ版であったものの信頼性に疑問が残った。
- 皮膚温:日々の傾向比較では、両デバイス間に中程度の正の相関が見られ似た傾向の計測をしていた。ただし t 検定の結果 URA の計測値がアップルウォッチよりも統計的に低かった。 URA は上側の外れ値が検出され、高い体温、体調不良の早期発見ができそうな可能性も秘めていた。
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※このレビューは 2023 年 9 月から 10 月にかけて行いました。最新ソフトではこの記事で書かれた内容と相違があるかもしれません。
※このレビューではアプリは iPhone 版を主に使用しました。 Android 版でも大きな違いはないと想定してレビューしました。
※レビュー時点での Ultrahuman Ring Air Firmware Version: 1.00.04.16 – 1.00.04.32
※この記事のデータ測定結果は診断結果ではありません。データを過信せず不調を感じた際にはかかりつけ医に相談してください。