自律神経失調症の前兆をアップルウォッチのVO2Maxが検知した

この記事は約 12 分で読めます

アップルウォッチの文字盤

自律神経失調症が再発しないように Fitbit の活動量計を購入してから 5 年。

数々のデバイスのレビューを通じて機能や性能の評価はしたものの、本来の「心臓発作の再発防止」という目的はいつの間にか忘れ去られていました。

しかし 2023 年末、継続的な筋トレの疲労により心臓発作の前兆が再発。久しぶりに恐怖を感じました。

ただし前回とは異なりアップルウォッチで生体データをとっていました。後で振り返るときちんと兆候を示すデータがとれていました。

この記事では私が今回経験したこと、アップルウォッチの最大酸素摂取量が病気の前兆をつかんでいたこと、今後の対策などをまとめました。

私の経験が少しでも誰かの役に立てれば幸せです。こんな経験もうしたくありません。

筋トレで心臓発作の前兆が再発

筋トレ後に疲労で顔がうつむき体が動かなくなっている男性
Dall-E 3 で描いてみた

2023 年の春から筋トレ(ウェイトトレーニング)を始めました。

ケトジェニックダイエットとファスティング(断食)で体重は落ちたのですが、体重を維持するためには厳しい食事制限が必要でした。

この先何十年も食べたいものを我慢して生きるのはつらい。だったら筋肉をつけて食べても大丈夫な体にしたい。

もちろん暴飲暴食していいわけではなく炭水化物がおいしく食べられるようになりたいだけです。体質改善したくて筋トレを始めました。

信頼できそうな書籍や Youtube 動画を見ながら見よう見まねで家トレ。最初は 5 kg のダンベルからスタート。 2 か月後には 20 kg の可変ダンベルを買いました。トレーニング内容については省略します。

順調に重量が伸びてきた 2023 年 12 月、左肩のショルダープレスの挙上回数(レップ数)が伸びるどころか減ってきました。右肩は回数が伸びていたので最初は「変だな?」という感じでした。

しかし翌週、左肩の回数がさらに減ったため「絶対に何かがおかしい」と思って筋トレを中止しました。

その翌日から異変がさらに出ました。筋肉が痙攣したり、外出から帰宅するとソファから一歩も動けない、目を開けない、瞑想中に目がぐりぐり動く。

「これはかつての心臓発作の前兆と同じだ」と久しぶりに死の恐怖を感じました。

関連記事:心臓発作で倒れたけど心臓は悪くなかったおはなし

振り返ると 11 月中旬にヘルペスによる舌のデコボコ・ザラザラが出ていました。

この症状がすでに生理的疲労のサイン、つまり「筋トレを中止しろ」というアラームでした。ただ自分はそのアラームに気が付かず「お湯を飲んで舌が火傷していた」と勘違いしていました。

その状態でさらに筋トレを続けたので症状が悪化したのです。

アップルウォッチが兆候を示していた

チェックすべきは心拍数ではなく最大酸素摂取量(VO2 Max)だった

アップルウォッチで計測した最大酸素摂取量の履歴グラフ

ヘルペス以外にも実は兆候を示していました。それが上図に示すアップルウォッチの VO2 Max (最大酸素摂取量)でした。

筋トレを始めてから数か月は VO2 Max の値は上昇、つまり全身の持久力や心肺機能が改善していました。

しかし上図のグラフを示すように 11 月中旬の値 (38.4 mL/kg/min) の次、月末に値が一気に下がっています (36.6 mL/kg/min).

値が下がっていることに気がついていましたが、それと自分の症状がリンクしていることがわかりませんでした。

VO2 Max と自分の自律神経状態に関連があると確信したのはベータアラニンで体調が回復していることを実感できるようになってからです。

ヘルストラッカーのレビューを始めて 5 年以上経過し、幸か不幸か今回の症状再発によってついに兆候を見つける機能を見つけることができました。レビューの目的は達成です。

ここまで細かく VO2 Max を計測できるのはアップルウォッチだけです。

このような症状再発を防ぐためには心拍数を常時計測でできないか?と考えて 2018 年に Fitbit Alta HR を最初に購入しました。これがヘルストラッカーレビュー記事を書くことになったきっかけです。

Fitbit や Garmin のスマートウォッチでも最大酸素摂取量の計測機能はあります。もちろんレビューしましたがあくまでも推定値です。アップルウォッチのように細かい違いを示すことはできません。

また心拍数では自律神経失調症の兆候を見つけることはできない。これが私個人のケースでの結論です。

なぜ症状が再発したか生理学的根拠もわかってきた

自律神経失調症はその名の通り自律神経が本来の働きをしない状態を指します。

自律神経の中枢は脳の視床下部というところです。視床下部は呼吸、体温調整、胃や心臓の動きをコントロールします。

私のケースでは心臓が止まったのだから、心臓の動き(心拍数)を測れば脳の状態が間接的にわかるのではないか?という仮説から Fitbit の装着と心拍数のモニタリングを始めました。

しかし違いました。自律神経機能の低下や疲労を教えてくれたのは「呼吸」でした。 VO2 Max は酸素摂取量の計測なので呼吸の状態もわかります。

心拍数をコントロールする心臓はある種の筋肉ですが不随意筋です。一方、呼吸をするために肺を動かすのは横隔膜という随意筋です。

不随意筋は自分の意志で動かせない筋肉、随意筋は自分の意志で動かせる筋肉。自律神経はどちらにも関与していたのです。

肩の筋トレパフォーマンスの低下、歩くスピードの低下(脚の筋肉が動かせない)、目が開けない(まぶたの筋肉が動かせない)、呼吸回数(横隔膜動作)の低下による VO2 Max 値の低下。どれも随意筋が無意識に動かせなくなってきている。これが自分の自律神経失調の前兆をとらえるポイントでした。

この時点では不随意筋に影響はないですが、前兆をとらえずに放置しているとさらに疲労とストレスが蓄積して不随意筋もコントロールできなくなる。 2018 年の心臓発作はまさに過労死のシグナルだったのです。

ウェイトトレーニングは筋肉の疲労ばかりが注目されます。しかし筋肉を動かすように指令を出すのは脳です。重い重量を無理やり動かすことで恐ろしいほどの負荷が脳にもかかっていたのです。目には見えませんが確実に自分の体を蝕んでいました。

筋肉だけでなく脳も回復させないとうつの症状がでます。この状態を「オーバートレーニング症候群」と定義して各所が注意喚起しています。

外部リンク:オーバートレーニング症候群とは | 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット

プロ野球の川崎宗則氏やダルビッシュ有氏が、ある日体が動かなくなったことを証言しています。ダルビッシュ氏は「おそらく有明で始めた筋トレが原因ではないか」と動画で言及しています。

Youtube の一部筋トレ界隈ではオーバーワークといってもてはやされています。しかしオーバートレーニングはとても危険なことなのです。

回復するためのポイント

自律神経失調の兆候を見つけることはできました。しかし放置せずに手を打って回復しないといけません。

前回の発作から数年経過しており、その間にも多くの研究者の皆様が新しい知見を示してくれました。自分が実践したことをまとめます。

栄養は鶏むね肉+ベータアラニン

ベータアラニンサプリメント

鶏むね肉に含まれるイミダペプチド(カルノシン)に疲労回復効果があり、私自身 2018 年の心臓発作直後に鶏むね肉を一か月間食べまくって体調を回復させました。

今回症状が出る前は毎日 100 g の鶏むね肉を食べていました。しかし筋トレの疲労蓄積スピードが速すぎて鶏むね肉を食べているだけでは回復が追いつきませんでした。

幸い今回は年末休暇で 2 週間仕事を休めたので筋トレを中止。毎食 100g の鶏むね肉を食べて外出もせず回復に専念、 2 週間で改善はみられました。

さらに偶然にも、近藤一博先生が『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』という本が出版されて読んだところ「ベータアラニンが疲労回復に根拠がある」と解説されていました。

ベータアラニンはイミダペプチドの構成物質です。必須アミノ酸のヒスチジンとベータアラニンが結合することでカルノシンになります。

つまりイミダペプチドでとらずヒスチジンとベータアラニンを別々に量を多くとった方が回復が速いのでは?という仮説が生まれました。

しかもベータアラニンは運動パフォーマンスを上げるエビデンスがあるサプリである、と国際スポーツ栄養学会のお墨付きを得ています。そのため上の写真に示すベータアラニンのサプリを購入して試してみました。

摂取量は 2.5 g を朝と夕方に 2 回、計 5 g を水に溶かして飲みます。研究論文では 12 g/day を摂取させていることもあるので 5 g であれば副作用のリスクは低いと判断しました。

体感的には仮説が当たりました。同じ 2 週間でも鶏むね肉 300 g/day よりも回復が速いと実感しました。

さらに前掲のアップルウォッチで計測した VO2 Max のグラフを見ると、回復が著しく速いことがわかります。鶏むね肉でも回復は実感しましたがこれほど速くは回復しませんでした。

一か月ベータアラニン 5 g/day を継続したところ VO2 Max の値が 40 を超えました。アップルウォッチで VO2 Max の計測で初めて最高値を更新しました。

個人の感想ですが、脳の認知機能も改善している実感があります。ここ数年良くなかった睡眠の質も改善し 30 代のころのような深い睡眠も出るようになってきています。

多くの研究者の方々の日々のたゆまぬ活動には感謝してもしきれません。また近藤先生には一生足を向けて眠れません。

関連記事:イノチメシ:脳疲労と向き合い命をつなぐ男のズボラ鶏胸肉料理

寝る・動かない・歩かない

現在は日常生活を送るのに問題ないレベルにまで回復し、筋トレも頻度と種目を減らして再開することができました。

しかし油断しているとすぐに疲労の兆候がでます。眼精疲労、口の端が切れる(口角炎)、疲労感など、身体は素直にシグナルを出してくれます。

そういう時はもう休むしかありません。休日ならソファでごろごろする、少しでも目を閉じる時間を増やして音楽を聴く、外出しないなど対策が必要です。

特に歩くという行為は筋トレ後の疲労蓄積に追い打ちをかけます。トレーニングの脳疲労はその日だけでなく翌日にどっと出るので次の日の休息がむしろ重要なほどです。

歩くことは負荷の小さい筋トレであり、脳が随意筋を動かす活動という点では共通しています。歩くのは一般的に健康に良いとされていますが、筋トレをしている場合はむしろ逆効果でストレスを増やします。

トレーニング翌日に買い出しなどで歩いて VO2 Max を計測すると、必ずしも高い値が出ない時があります。

アップルウォッチはわずかな疲労感すら計測していて驚くばかりです。アップルの本気を感じます。

休日にゴロゴロするのは良くないのかもしれませんが、トレーニングしている人はむしろ積極的に休むべきです。

幸いにも今はリモートワークもあります。トレーニング翌日はリモートワークにして家から出ないようにすることで少しでも回復を速めることが期待できます。

脳が疲れる以上リモートワークでも疲労を感じますが、歩く負担よりは軽いようです。

日常の兆候管理で注意すること

最大酸素摂取量は常時計測しない

アップルウォッチの VO2 Max 測定機能がもう手放せません。しかしアップルウォッチにはまだ改善点もあります。

VO2 Max は心拍数のように常時計測しません。最低 20 分以上のワークアウトをセットしないと計測してくれません。

以前は 5 分程度のワークアウトでも推定値を出してくれました。最新版のソフトでは変わってしまったようです。

そのため VO2 Max の計測は週一回の買い出し時のみとなっています。それ以外で 20 分以上歩くことは日常生活でないからです。

また筋トレとは別に有酸素運動で 20 分以上歩いても自分にとっては疲労を増やすのでエクササイズ効果を期待できません。

もっと手軽に計測できるようになってほしい。切に願います。

回復に時間をかける/時間がかかる

疲労は蓄積されると一晩で回復しません。自律神経失調の症状が出た場合は最低一週間、できれば二週間、場合によっては一か月以上の休息が必要です。

仕方ありませんが自分自身体験したことです。二週間休むと明らかに回復していることを実感します。

これはおそらく脳細胞の生まれ変わり(ターンオーバー)が関係していると思われます。

かつては脳細胞は生まれ変わらないと言われていました。しかし最新研究によれば一部を除いて脳細胞も生まれ変わることがわかってきています。

脳全体の生まれ変わりでなくても、一部の細胞、特に重量 4 g と言われている視床下部の脳細胞のターンオーバー目安が二週間であれば体感と一致します。

この生まれ変わりで出てくる新しい脳細胞にカルノシンを投入することで、疲労回復や認知機能改善が行われると推測しています。

現代人は原始人と比べて肉体も脳も酷使しすぎなのでしょう。体の回復機能が進化できてないと思われます。

再発予防のため「足るを知る」

症状が消えて回復したとしてもまた同じことをしていたら再発します。

筋トレもダイエットも生活習慣そのものです。継続することで効果がでます。そのためには生活習慣を見直す必要があります。

今回オーバートレーニング症候群を自覚した以上、筋トレのボリュームを減らし、試行錯誤により週 2 回、一回 30 分以内で終わらせるようにしました。

また歩くことも負担になるので外出や旅行の計画も見直しています。旅行をすると一日 2 万歩は普通でした。

そこまで制限すると人生つまらなくなるのでは?と言われるかもしれません。

しかし筋トレで自分の見た目が筋肉質に変わっていき、食事が普通に食べられるようになり筋トレのモチベーションの方が高い状態です。

それより無駄と思える活動を減らしてその時間を家でできること(読書や調べものなど)に費やしても特にストレスにはなっていません。

まとめ

自分の体に当時何が起きたのかようやく原因がわかってきました。また対策もすぐにうてて被害を最小限に抑えることができました。

すべては日々研究されている先生たちのおかげです。気を引き締めて今後はさらに良い健康状態になれるように食事も筋トレも休息もやっていきたいと思います。

この記事をまとめましょう。

  • 筋トレ(ウェイトトレーニング)は筋肉だけでなく脳への負担も大きい。回復を待たずにトレーニングを続けるとオーバートレーニング症候群というある種のうつ/自律神経失調になる。
  • 自律神経失調の兆候はアップルウォッチの最大酸素摂取量 (VO2 Max) で見つけることができる。心拍数計測では前兆を見つけることはできない。私のケースは自律神経がかかわる随意筋(呼吸、歩くなど)のパフォーマンス低下が兆候管理のポイントだった。
  • 疲労回復には鶏むね肉だけでなくベータアラニンが医学的根拠として示されている。試してみたところ確かにベータアラニンは鶏むね肉単体よりも回復が速い実感があった。
  • アップルウォッチの VO2 Max 測定には 20 分以上のワークアウトを設定が必要。常時計測しないので注意。
  • 回復には時間がかかる。栄養をしっかりとり、かつ外出しないなど家でゴロゴロして回復に専念させることも重要。

※この記事のデータ測定結果は診断結果ではありません。データを過信せず不調を感じた際にはかかりつけ医に相談してください。