個人も企業もユーザー目線でサイト運営『クックパッドというビジネス』

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今回の書評は『600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス (角川SSC新書)』です。

クックパッドというビジネス成分

ブックセイブンってなに?(別ウィンドウで開きます)

食×ITという原体験から生まれたクックパッド

ユーザーにどのような付加価値を提供できるか?使って良かったと言ってもらえるか?

クックパッドは多くの女性に支持されているレシピ共有サイトです。本書のタイトルは600万人と書かれていますが、2016年には月間利用者数が6000万人を超えた超大手ウェブサービスです。

外部リンク:クックパッド、月間利用者数が6,000万人を突破! | クックパッド株式会社

本書はクックパッドの使い方ではなく、開発の話です。

このようなお化けサイトはどのようにしてできたのか?創業者の佐野陽光氏や、上場に至るまで支えてくれた幹部社員へのインタビューを通じて明らかにしていくのが本書です。

ウェブサービスはかつてないほどの力を持つようになりました。佐藤氏はそういう未来が来ることを予測した上で、大学卒業後は就職せず起業します。

クックパッドの誕生の裏には、佐藤氏が経験したシンガポールとアメリカでの食生活、そして日本で在学していた慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの環境があります。決して都会ではない藤沢(私も車でよく近くを通った)には農家もあり、佐藤氏は食材に触れる機会がありました。そんな佐藤氏の原体験が第1章では詳しく書かれています。

そして起業し、クックパッドというサービスを展開していく上で大変だった資金繰りや開発のジレンマについても隠すことなく話しています。技術的な話については次節で説明しましょう。

サイトのブランドから生まれる付加価値についても、とても勉強になります。

食品会社とのコラボによるレシピコンテストや広告、ニッチな調理器具の紹介による販売貢献、クッキングシートなどの調理用品の新しい使い方の誕生など、本書にはクックパッドが生み出した数々の相乗効果についても書かれています。

クックパッドは東証一部に上場し、大手企業に仲間入りしました。大手企業の宿命というのでしょうか、近年は経営方針の問題やレシピの信頼性問題でピンチを迎えています。

会社は大きくなりすぎると、創業時の理念が伝わりにくくなります。このシリーズでも大手メーカーの衰退を取り上げていますが、創業を経験していないメンバーが経営をするとどうしても同じようなことになってしまうのでしょうか。

個人ブログ運営にも通じるサイト設計ノウハウ

確固たる理念はあるか?

ブログやウェブサイトを運営する目的はなんでしょうか?アクセスしてくれた人に「価値」を提供することです。クックパッドではレシピを提供することですし、当サイトでは私の情報、知識、ノウハウを提供することです。

どんな目的であれ、その目的を達成するために何をしても良いわけではありません。ユーザーや読者に価値を提供し続けるためのブレない軸が必要です。企業活動ではそれを企業理念とか、経営哲学といいます。個人運営でもそういった信念が必要でしょう。

クックパッドの企業理念は「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす(kindle版位置No.286付近)」です。

本書の出版は2009年。2019年現在でも「毎日の料理を楽しくする」という理念はブレていないことをサイト上で確認できます。

外部リンク:企業理念 | クックパッド株式会社

シンプルだけれども、確固たる信念。

この一言を実現するために創業時からクックパッドの作りこみが徹底しています。サイト設計のノウハウをただ教えてくれるだけでなく、なぜその考えにいたったかという根拠まで本書では教えてくれます。

例えば佐野氏は言います。検索窓をなんとなく設置していませんか?どこに置いても誰でも見つけられるとテストせずに決めていませんか?と(kindle版位置No.532付近)。

夕食のメニューを短い時間で決めるのに、検索窓が見つけられなかったり、広告が画面上にやたら表示されていたり、表示が遅かったり、求めている検索結果が得られなければユーザーはイライラします。

料理を楽しくするためのサイトなのに、信頼を失い二度と使ってもらえないかもしれません。

クックパッドのサイト設計
細部まで配慮して作られたクックパッドのサイト

さらに、投稿された料理画像の自動最適化(おいしく見えるようにする)、コメント機能やレシピ登録画面の作りこみ、サイトの開発言語まで厳しく決めています。

レシピ登録はイライラしないような画面構成にする。レシピを提供する側も、利用する側も料理を楽しめるように細部までこだわります。

料理は毎日することなので、いつクックパッドにアクセスしても飽きない配慮が必要なのです。

クックパッドでは機能やサービスもしぼりこんでいます。レシピを共有するのが目的なので、関係ない機能は思い切って削っています(kindle版位置No.554付近)。楽しく料理を作るという理念から外れてしまうサービスは、たとえ人気でもやめる。

こういう決断ができるのも、確固たる理念があるからこそです。

この理念に合ったサイトを作るだけでなく長く運営するため、ユーザーの感想やログ解析によるフィードバックも得る。そして改善を繰り返す。とにかく徹底しています。

個人ブログも目的が必要

本書で述べられているノウハウや考え方については、個人サイトやブログでも通用するでしょう。

個人ブログではサイトを華美にデコレーションしてしまいがちです。提供したいのはオシャレな空間ではなく、あくまでも情報です。

検索エンジンを経由して知りたいことや悩みを解決したくてアクセスしたのに、広告や装飾ばかりで肝心の情報が得られなければ、信頼が得られるかわかりません。

当サイトもできるだけ配慮した作りにしています。読者の方には何度も来ていただき、私の知識やノウハウを共有したいからです。

当サイトでは一例として以下の点に気をつけています。

  • 装飾は最小限でサイトカラーを統一(メインは青のグラデーション、重要な部分だけ赤)
  • どういうコンテンツがあるか隠さず、カテゴリと記事数を表示
  • ホーム画面やまとめページに行けば掲載記事の一覧が見られる
  • 画像のサイズは固定し、読み込み時間を短縮(運営初期は統一していなかったのでサイズはバラバラ)
  • 混乱を与える表現をできるだけ使わない(タイトルや本文だけでなく、関連ページや外部リンクもできるだけ内容がわかるように配慮)
  • 目次も隠さない(最悪、本文を読まなくても目次だけで内容を理解してもらうため)

これが正解かどうかはわかりません。しかし常にユーザーにとって価値を提供できるようにサイトを構成する。そういう意味でも本書に書かれているクックパッドの戦略は良い教材だといえるでしょう。

もしあなたが自分のサイトを運営しているのであれば、試行錯誤してより良いものにしてください。佐野氏も「一発当てるのではなく、たくさん試す(kindle版位置No.980付近)」と言っています。

社長の技術者としての信念が伝わる

では、なぜここまで作りにこだわるのでしょうか?

社長の佐野氏の言葉には、技術者のあるべき考え方がしっかり書かれています。私も同じ技術者としてその通りだと思います。引用させていただきます。

デザイナーとアーチストはまったく違うんです。ロジックがあるのがデザイナー。なぜこのドアはこっちに開くべきなのか。軸はどっちにあるべきか。動線の取り方や視線の取り方。それをプロのデザイナーはよくわかっています。ロジックのないアーチストには、僕は興味がありません。

上坂徹 『600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス』 角川SSC新書 (2009) kindle版位置No.1897付近より引用

設計とは意思決定です。

引用文で出てくる「ドアが開く方向」も設計です。かっこいい形やレイアウトを決めるだけがデザインではありません。「ドアが開けやすいか?」、「メンテナンスする人にとって作業しやすい作りか?」という使う人が普段気づかないところまで決めるのが設計です。

佐野氏の言うロジックとは根拠(理由)のことです。なぜそういうデザインにしたのか、設計した人が根拠を説明できなければいけません。

なんとなくではだめなんです。だからこそ、クックパッドは検索窓の置き方1つまでこだわるのです。技術者としてあるべき姿です。

特にトラブルが起きた際、なぜトラブルが起きたのか説明しなくてはいけません。「今日は機械の調子が悪かった」では済まされません。

ものが正しく動くのも、壊れるのも物理法則にしたがいます。人間のエゴでは壊れません。

しかし人はどうしても、作ったものやソフトがちゃんと動かないのを環境のせいにしてしまいがちです。何度も確認しているのに、視界に入っている不具合の原因に気づけないことがあります。

このサイトでも、コードの入力ミスで表示が崩れることがあります。そのためユーザー様にご迷惑もおかけしています。ただし気がついた時点ですぐ修正しています。

最初から完璧なサイトは作れません。時間がかかっても長く使ってもらえるサイトが提供できればと思います。

今回紹介した本

上阪 徹, 角川SSコミュニケーションズ, 2009
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