事例から楽しく学ぶ特許権と実用新案権『知られざる特殊特許の世界』

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今回の書評は『知られざる特殊特許の世界』です。

特殊特許の世界成分

ブックセイブンってなに?(別ウィンドウで開きます)

トンデモ発明の紹介本ではなく法律事例の解説書

突然ですがクイズです。この中で特許になるのはどれでしょうか?

  1. どんな病気でも治す薬の製造方法
  2. 馬券を当てる方法
  3. 格闘技のリング

答えは3番です。

厳密には3番を特許権ではなく実用新案権として取得したプロレスラーがいます(kindle版位置No.473付近)。1番と2番は特許にはならなかったものの、実際に出願のあったものです。

このような、私たちにもわかる例から特許権と実用新案権について解説したのが本書です。私が大学院生時代に読んだ知的財産権の本の中で、圧倒的に面白かった本です。

本書はただ特許情報を紹介しているのではありません。取材を通じて発明者になぜ特許を出願したのか、発明を通じてどう社会貢献したいのかなどを聞き出しています。

発明者の中には音楽プロデューサー、美容研究家、元オリンピックメダリスト、某宗教家(ヤバくてここでは書けません)など、出版時にメディアに出ていた有名人の事例も取り上げています。もちろん取材もしています。

冒頭で取り上げたようなトンデモ発明についても著者は発明者に取材しています。特殊特許という言葉は著者の造語で、「普通ではない面白特許」という意味です。

各事例は以下に示すような質問に、特許法などの法律原文に基づいてしっかり解説しています。

  • この発明は特許がとれるのか?
  • もし特許になるならなぜか?
  • 特許にならないとしたらどうしてか?

そのため本書はトンデモ科学をただ面白おかしく紹介する本ではありません。

法律が苦手な人にも読んでもらうための工夫が随所にあります。出版から15年以上経っても人気の本です。

周辺知識や深掘りもありコスパが良い

特許権のことを知的財産権ともいいます。知的財産権と一口に言っても、これだけの種類があります。

  • 特許権(発明の保護)
  • 実用新案権(発明の簡易保護)
  • 商標権(ブランドの保護)
  • 意匠権(形状デザインの保護)
  • 著作権(文章、絵、音楽、などのアート作品の保護)

上のリストのうち2つしか本書ではカバーしていません。だとすると内容が薄いのでは?という意見もありそうです。

しかし、出願したものが特許権に該当するか、それとも著作権の方があっているか、事例を丁寧に解説しながら他の権利との関係についても教えてくれます。

一例として、故人をしのぶための人形は特許か?それとも意匠か?(kindle版位置No.2155付近)については法律の持つ独特のあいまいさを学ぶ良い事例でしょう。

法律は覚えることがたくさんあり、また専門用語は素人には敷居が高いです。このような実例から入るのは法律の教材としてもいいでしょう。

本書は私が大学院生の頃、知的財産権の勉強をしたくて購入しました。他の本とは違い、おもしろ発明を実際に出願された資料で解説した本書は強烈に記憶に残りました。

この辺はまさに著者の狙い通りなのでしょう。

本書にはコラムもたくさんあります。特許の基本的な知識、特許資料の見方、特許の歴史、出願の流れ、お金はいくらかかるか、近年流行った特許(ビジネスモデル特許、ソフトウェア特許、サブマリン特許、遺伝子特許)の解説、特許権の侵害とは何か、弁理士の仕事など、かなり広範囲をカバーしています。

例えば、Amazonの「ワンクリック注文」はビジネスモデル特許です。また同社から「ウィンクで注文」できる特許を出願したというニュースもありました。ビジネスモデル特許はどのようにして特許になるのか、そのしくみも本書で解説されています(kindle版位置No.2324付近)。

外部リンク:1-Click – Wikipedia(ワンクリック特許について解説)

これだけの情報量を1冊にまとめた本は類がありません。タイトルと表示の絵からはイメージしいくい、きちんとした本です(褒めてます)。

本書はノンフィクションですが、小説かと思ってしまうくらいグイグイ著者の世界に引き込まれてしまいます。

2000年に出版されたため古い情報もあります。しかし電子書籍として今でも入手できるのは、時代が変わっても通用する特許の本質を解説しているからでしょう。

発明界にもクレーマーがいる

ツイッターの普及で炎上や理不尽なクレーム、アンチなどを目にする機会が増えました。

本書では発明界のクレーマーについても取り上げています。それは永久機関に関する発明についての内容です(kindle版位置No.1154付近)。

永久機関とは以下の2種類の発明のことをいいます。

  • 燃料なしでエネルギーを出力し続けるしくみ(第1種永久機関)
  • 燃料の持つエネルギーを100%別のエネルギーに変換できるしくみ(第2種永久機関)

外部リンク:永久機関 – Wikipedia

永久機関が特許にならない理由

図の説明もご覧ください。この世には熱力学の法則があり、永久機関は作れないことになっています。そのため永久機関は特許にはなりません。

しかし、それでも懲りずに永久機関の特許申請が後を絶えないようです。これが特許になれば、世界中のエネルギーを自分の権利として莫大な利益が得られるためです。

一例として、燃料を必要としないエンジンを発明したと豪語する発明家と著者のやりとりがあります。その発明家はこのようなメッセージを特許申請資料で書いたそうです。引用させていただきます。

地球の温暖化や大気汚染や酸性雨放射能汚染など様々な公害をなくし、又これから益々殖えるエネルギーを化石燃料だけでまかないきれないのである。それを解決するのは唯ひとつ燃料無しで回る機械が是非必要なのである。

稲森謙太郎 『知られざる特殊特許の世界』 太田出版 (2000) kindle版位置No.1256付近より引用

これはもしかして、反原発派の主張と同じではないでしょうか?化石燃料や原発といったこれまでの燃料ではなく、環境にやさしい再生可能エネルギー(風力、太陽光など)を使うべきという人達なのでしょうか?

再生可能エネルギーも永久機関ではありません。風の力や太陽光を電気というエネルギーに変換しているのです。

発電は英語でジェネレーション(generation)とは言いますが、無から有を作るのではありません。ある別のエネルギー(熱、風、運動)を電気エネルギーに変換(conversion)するのが発電です。

発電用の風車が回転している映像は「大気を汚さずに電気を作っている」と視覚的にもアピールは絶大です。しかし風力発電にも問題点はありますし、永久に電気を生み出し続けるわけではありません。

例えば、風の強すぎる日は風車を動かせませんし、風力発電設備を作るための材料(資源)の問題もあります。

外部リンク:風力発電 – Wikipedia

このような発明者に対しても、著者は勇気を持って取材をします。ひどい仕打ちも受けるようですが、この辺のやりとりもかなり生々しく書かれています。スマートフォンがない時代、手紙と電話で取材をした著者の行動力には敬服します。

特許庁には毎年数万件の特許申請があり、特許審査官の人手不足の話もあります。こういうことで審査官の手をわずらわせるのもどうでしょうか。

昨今の製品開発のサイクルを考えると、審査を待っていられないという実態もあります。特許は申請してから取得するまで数か月から1年以上の時間がかかるからです。

近年は早期審査という制度もありスピードアップは図られているようですが、やはり時代は権利の保護よりもオープンイノベーション(コラボ)でしょう。オープンイノベーションの方が時代に合っている気がします。

特許をとって利益を独占したいのは企業も個人発明家も同じです。しかし良い発明であれば権利を開放して社会にもっと還元してほしいですね。

今回紹介した本