【検証】Fitbitの睡眠データは利き手と非利き手で違うのか?

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Fitbit Versa 2 と Charge 4
Fitbit Charge 4 と Versa 2 (Apple Watch ではないので注意)

スマートウォッチ、アクティビティトラッカーの睡眠計測機能が普及してきました。どの機種も独自の方法で睡眠データを分析しており、安定して計測できる製品とそうでない製品があります。

このような睡眠分析機能の比較基準に Fitbit を使用しています。 Fitbit 製品を右腕(利き手)、比較したい製品を左腕(非利き手)に装着して比較評価しています。

本当に両腕に装着してきちんと評価できるのでしょうか?

この記事では Fitbit の製品 2 個を右腕と左腕にそれぞれ装着して、睡眠データのとれ方を比較します。果たして同じようにデータがとれるのでしょうか?

結論は、利き腕の設定をアプリでやれば左右で同じような睡眠データ(睡眠サイクル)がとれます。誤差もありますが評価するには問題ないレベルだと結論しました。

検証方法

まずどうやってデータをとり評価したのか解説します。結果だけ知りたい人はここを飛ばしてください。

データの取り方

睡眠データの取り方

上図に示す方法でデータをとりました。

装着する腕(手首)の違いを検証するだけであれば以下の 2 パターンでデータをとれば十分です。

  1. 左腕: Charge 4
    右腕: Versa 2
  2. 右腕: Versa 2
    左腕: Charge 4

しかし図中の表には「アプリ腕設定」という項目があります。これはなんでしょうか?

Fitbit では「利き手/非利き手」どちらに装着しているかを設定する項目があります。この設定が睡眠データ(睡眠サイクル)に違いを出すかもしれません。

利き手と非利き手では無意識ながら違う動作をします(箸の使い方や髪をいじるなど)。このような差が睡眠結果に反映される可能性があります。

アプリ腕設定を考慮すると実験パターンは全部で 4 種類になります。上図に示す表のように、腕の違い(左/右)とアプリ設定(利き手/非利き手)で 2 × 2 = 4 です。

本来はすべてのパターンでデータをとって検証すべきです。しかし手間と時間がかかりすぎます。そのためこのレビューでは最小限の組み合わせで判断します。

  • 実際に装着する腕とアプリの設定を同じにする(パターン 1 ) → 7 日分データをとる
  • 左右の装着を逆にしてアプリの設定は変えない、つまり装着する腕とアプリの設定が違う(パターン 3 ) → 7 日分データをとる
  • 被験者(私)は右利きとする。

上述の 2 パターンで一応「アプリ設定も睡眠データの計測に影響あるか?」を検証することができます。

そもそも本来の使い方として、利き腕の設定も正しくセットすべきです。そのためパターン 1 (または 4) で同じ睡眠波形がとれれば、他のパターンをやる必要もなく「どちらの腕に装着しても睡眠データはとれる」といってもいいはずです。

しかし今回は実験なのでパターン 3 でもデータをとってみます。パターン 3 で両者の波形に違いが出れば「アプリの設定も重要かも」といえます。

本来は左右の腕に同じ製品を装着すべきです。このレビューでは Charge 4 と Versa 2 のデータ計測精度は同じと仮定します。 Fitbit 社製品はすべてハードウェア的には同じようにデータがとれると仮定します。

睡眠の質を評価するポイント

医師が書いた睡眠に関する本や私が Fitbit で計測した睡眠データから、睡眠の質をチェックするポイントは以下の 3 つに整理しました。

  1. 「覚醒」から「最初の深い睡眠」に入るまでの時間は短いほど良い( 30 分以内が目安)
  2. 最初の深い睡眠は 20 分間以上あることが望ましい
  3. 睡眠中の途中覚醒回数は少ない方が良い

1 番が最も重要で、番号順に優先順位は下がります。各項目の詳細と根拠については下記の補足説明をご覧ください。

関連記事:補足:睡眠の質をチェックする3つのポイント(各社の活動量計の睡眠管理機能を徹底レビュー)

パターン1の実験結果:左右で違いなし

質の良い睡眠だった例

実験パターン1質が良い睡眠の波形

上図はよく眠れた(質が良い)と思える日の睡眠サイクルです。

ぱっと見た感じ、どちらの睡眠サイクルも同じような形ではないでしょうか?もちろん細かい部分では違いはありますが「全然違う!」とはいえないでしょう。

先に紹介した 3 つのチェックポイントから睡眠の質を分析しましょう。

  1. 覚醒から最初の深い睡眠まで 30 分以内 → 〇
  2. 最初の深い睡眠が 20 分間以上 → 〇
  3. 睡眠中の途中覚醒回数は少ない方が良い → ?
  4. 総合評価 → 〇

3 番目のポイント「睡眠中の途中覚醒回数は少ない方が良い」だけがひっかかりますね。

右腕の Versa 2 では覚醒の赤い線がぴょんぴょんでています。しかし左腕の Charge 4 では途中 1 回だけです。最後の赤い線はもう起床しているためカウントしません。

評価ポイントには優先順位があります。 1 と 2 が重要で、 3 番目の途中覚醒は優先順位が最も低いです。先の 2 つを満たしていればそれほど重要ではありません。

そのため左右の腕で睡眠分析の結果に違いはない(同じ)とみなしてもいいでしょう。

質の悪い睡眠だった例

実験パターン1質が悪い睡眠の波形

上図は同じくパターン 1 ですが、眠りが良くなかった(質の悪い)日の波形です。

もう 1 度、チェックポイントを使って分析してみましょう。

  1. 覚醒から最初の深い睡眠まで 30 分以上 → ×
  2. 最初の深い睡眠が 20 分間以上 → 〇
  3. 睡眠中の途中覚醒回数は少ない方が良い → △ (2 回以上)
  4. 総合評価 → ×

チェックポイント②「最初の深い睡眠が 20 分間以上」は基準を満たしています。しかしどうして総合評価は × なのでしょうか?

もう一度優先順位を説明します。チェックポイント①「覚醒から最初の深い睡眠まで 30 分以内」が最重要です。

入眠後は深い睡眠までスムーズに落ちる必要があります。睡眠中盤や後半で深い睡眠がとれても疲れは残るのです。

実際上図の睡眠初期は「覚醒」と「浅い(ノンレム)睡眠」で 90 分以上を占めています。

専門家も浅い睡眠では疲れがとれないと指摘しています。引用させていただきます。

睡眠にはいくつもの役割がありますが、ノンレム睡眠の浅い状態のみでは、脳と体をある程度休ませることはできても、それ以外の、グロースホルモンを分泌したり、副交感神経を優位にしたり、脳の老廃物を除去したり、免疫力を活性化したりといった働きはスムーズにいかなくなります。

西野精治 『睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する』 角川新書 (2020) kindle 版位置 No. 1744 付近より引用

実際、私の経験上でもこのような睡眠サイクルの場合は起床後もあくびをしたり、目がショボショボしたり(眼精疲労)、すっきりしていません。

この例でも、パッと見て睡眠データに左右の腕の違いはないといえそうです。中盤にある覚醒は評価には使用しないため問題ありません。

最も不一致だった例

実験パターンパターン1で最も不一致だった睡眠波形

上図は 7 日間のデータ計測で最も違いがあったと思える睡眠サイクルです。 1 回だけ出ました。

Charge 4 では最初の深い睡眠が 40 分間一気にとれているのに対して、 Versa 2 は 2 回に分かれています。

チェックポイント②は「最初の深い睡眠が 20 分間以上」なので、 Versa 2 の 17 分間では基準を満たしていないことになります。

しかし補足させていただきます。

20 分間以上という基準は私の経験で導かれたものです。膨大な統計データから導かれた数字ではありません。

たとえチェックポイント②が 17 分間であっても、総合評価としては「どちらかというと質は良い」といえます。この例ではチェックポイント①「覚醒から最初の深い睡眠まで 30 分以内」も満たしているからです (6 分) 。

以上、睡眠データは左右どちらも同じようにとれます。装着する腕の設定をきちんとやれば睡眠データに明らかな誤差はないといえるでしょう。

パターン3の結果:パターン1よりも不安定だがとれる

波形が不一致だった例

実験パターン3で不一致だった睡眠波形の例

上図は実験パターン 3 の睡眠サイクルの例です。この例では評価が割れてしまいます。

  • Charge 4: 睡眠初期に深い睡眠が出ていて質は良い方
  • Versa 2: 睡眠初期に深い睡眠が出ていないので質は悪い

したがって左右の腕で睡眠データに違いが出ているといえます。

中盤以降は同じような波形のため本当にわずかなグラフの違いです。しかし入眠直後のデータが最も重要なため厳しく評価しないといけません。

計 7 日間の計測で、評価が割れそうな睡眠データが 3 日分ありました。

波形が一致した例

実験パターン3できれいに波形が一致した例

上図は実験パターン 3 ですが先ほどと違って左右の睡眠サイクルがかなりきれいに一致しています。

これだけきれいに波形がとれるということは、トラッカー本体の性能に差はないはずです。

やはりアプリの設定違いが睡眠サイクルの違いを生み出している可能性が考えられます。心拍数ではなく腕の動き(加速度センサー)の違いが結果の差を生み出しているのでしょう。

例えば疲れた状態ですぐベッドに入れば両腕とも動かないまま寝るはずです。腕が動かなければ心拍数だけで睡眠ステージを分析するでしょう。

またはベルトの装着が甘く本体がぶれた可能性もあります。今回のレビューについては、ベルトの固定は毎晩きちんと確認したのでこの可能性は否定したいです。

利き手/非利き手の設定は必要?→必要

iPhone/Androidアプリ内の利き手設定画面

ここまでの検証で「利き手/非利き手の設定は必要」という結論になります。

上図は iPhone/Android アプリの腕の設定画面です。 Charge 4 と Versa 2 ともにきちんと設定しました。

そもそも Fitbit 社は「左右の違いで睡眠データの測定にばらつきは出る」ことを認識しているのでしょうか?

公式サポートページでは睡眠の計測精度については書かれていません。書かれていたのは「歩数の検出」に差が出るということだけです。

外部リンク:Fitbit デバイスの精度はどの程度ですか? – Fitbit ヘルプ

ペンを持った時の腕の動きなど、利き手と非利き手では動きが異なります。その違いも考慮した精度の高い歩数計算をしているようです。

しかし上のリンクでは睡眠データの精度まで指摘されていませんでした。

少なくとも今回のレビューの結果、睡眠中の腕の動きの違いが睡眠サイクルの違いを生み出すだろうということが波形で示せました。

アプリ内の左右の手首の設定もちゃんとやることで、より安定した睡眠データがとれることがわかりました。

推定酸素変動量のグラフは不一致

推定酸素変動量のグラフの不一致

今回は睡眠サイクルを比較しました。推定酸素変動量は評価対象外ですが、参考まで結果を紹介します。

上図に示す通り、片方は「激しい変化」があり、もう片方にはむしろ極端に低い部分があります。同じ日の睡眠にもかかわらず、です。

これでは睡眠時無呼吸症候群の検出に使うには難しいかもしれません。推定酸素変動量のグラフは参考程度に使うのがいいでしょう。

これだけの違いが出た理由についてはさらなる検証が必要です。今回は左右で機種が違うので、計測誤差がそもそもあるかもしれません。

まとめ

実はこの検証をやる前から他社製の睡眠データを評価していました。そのため今回の結果が違った場合どうしようと不安でした。

これからもリストバンド型のトラッカーについては Fitbit が基準になります。あとは脳波を使った評価でも睡眠データを検証したいです。

この記事をまとめましょう。

  • 左右どちらの腕に Fitbit 製トラッカーを装着しても睡眠データは安定して計測できそう。ただし「利き手/非利き手」の設定は必要。事前に確認しよう。
  • Fitbit 公式サポートでは左右の装着の違いは歩数検出に影響する。しかし今回のレビュー結果では睡眠データにも差はありそう。トラッカー本体の計測精度に誤差は少ないといえる。
  • 推定酸素変動量のグラフは左右の腕で計測結果が違った。そのため睡眠時無呼吸症候群の検出に使うには慎重になった方が良い。今後の改善が期待される。

※このレビューは 2020 年 5 月に行いました。最新ソフトではこの記事で書かれた内容と相違があるかもしれません。

※良い睡眠がとれたかどうかは必ずご自身の体調や起床後の気分などでご確認ください。アプリの表示は計測結果を保証するものではありません。