Philips SmartSleep vs Fitbit 「睡眠の質」表示比較レビュー

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SmartSleepのパッケージ

睡眠トラッカー、アクティビティトラッカー、スマートウォッチなど、睡眠を計測できるデバイスが増えています。主流なのはリストバンド型ですが、指輪型、マット型、スマホアプリ単体計測など種類も様々です。

ただ睡眠状態の計測の王道は「脳波」です。睡眠機能のレビューとしてずっとヘッドバンド型のデバイスを使いたかったのですが、入手することができませんでした。

今回、 Philips SmartSleep を購入することができました。この記事では SmartSleep と Fitbit を比較レビューします。

結論は、残念ながら SmartSleep で睡眠の改善はできませんでした。ヘッドバンドをつけて寝るという習慣が最後まで合いませんでした。

しかし睡眠計測の精度は良さそうで、 Fitbit が検出する短時間の深い睡眠は誤検知である可能性が高いことがわかりました。

本製品の購入は決して無駄ではありませんでした。睡眠障害等を抱えている人におすすめかもしれません。

徹底的にレビューしたので結果をできるだけ詳しく解説します。

Philips SmartSleep でできること

SmartSleep は他のアクティビティトラッカーのように心拍数や血中酸素濃度 (SpO2) は計測せず、脳波の計測に特化しています。そのためアプリの画面や操作もシンプルです。簡単に紹介します。

シンプルな睡眠結果確認画面

SleepMapperアプリメイン画面

上図は睡眠計測結果の画面です。

起床後、スマホでヘッドバンドのデータを収集すると睡眠データの解析が始まります。

そして上図左にあるようにまずは睡眠スコアが大きく表示されます。この日は 73 点でした。 100 点満点なのは他社製睡眠トラッカーと同じです。

このメイン画面を上にスワイプ(下にスクロール)すると詳細データが表示されます。

主にこのような項目があります。

  1. 睡眠時間
  2. 減点
  3. 睡眠ブースト
  4. 睡眠ルーティン(就寝時刻/起床時刻)
  5. 睡眠段階(深い睡眠)

他社製品とは異なり、スコアの減点と加点が書かれています。

減点となるのは就寝時刻と起床時刻が予定時刻からずれていたり、睡眠途中覚醒時間が長かったりした場合などです。上図の例では -28 点です。

「睡眠ブースト」は Philips SmartSleep 独自の機能です。深い睡眠時間を延ばすために、利用者に気づかない心地よいオーディオを流す機能です。この機能で深い睡眠時間が延びたと考えられると加点されます。上図の例では +22 点です。

このレビューでは睡眠スコアは使用しません。あくまでも参考程度です。

画面上部のタブを「睡眠スコア」から「睡眠グラフ」に切り替えることができます。

睡眠グラフ(睡眠図)はこのレビューで使う睡眠サイクルです。夜間の睡眠状態の遷移を表しています。

睡眠ステージは「覚醒」、「レム睡眠」、「浅いノンレム睡眠」、「深いノンレム睡眠」の 4 つで標準的です。

カレンダーから過去のデータを参照できる

SleepMapperアプリカレンダー機能

メイン画面の左上にあるカレンダーをタップすると過去の計測記録の一覧が表示されます。

過去のデータを振り返るときに比較的簡単に画面を移動できます。

週平均や月平均データを分析できる

SleepMapperアプリ過去の睡眠傾向分析画面

睡眠の傾向を分析することができます。

メイン画面の右上にある「日」を「週」や「月」に切り替えることができます。

「週」にすると各曜日の平均睡眠時間、睡眠ブースト、ベッドにいた時間、睡眠ステージの割合が表示されます。

「月」を選択すると同じ項目が各週で集計された結果が表示されます。

外部データと連携できる

スマホアプリと睡眠データの連携

上図に示すように、スマホの標準健康管理アプリと連携することもできます。

iPhone であればヘルスケア、 Android であれば Google Fit と連携できます。

今回のレビューではこの機能は利用していません。

「ヒント」から睡眠の知識を得られる

SleepMapper睡眠ヒントと知識

アプリ内に「ヒント」という項目があります。タップすると睡眠に関するコンテンツの一覧が表示されます。

これらのコンテンツから睡眠に関する知識を学ぶこともできます。

レビュー方法

レビューをするにあたり、下記に示す方法でデータ収集と分析をしました。結果だけ知りたい人はここは飛ばしてください。

データの取り方

SmartSleepとFitbitをそれぞれつけて睡眠データを計測

睡眠の質を比較するための判断基準は Fitbit のデータです。過去の経験上、起床後の身体の感覚(すっきりしているか、眠気が残っているか)と睡眠図に最も関連性を見いだせているのが Fitbit だからです。

頭に SmartSleep, 左腕に Fitbit (Charge 4) を装着していつも通り就寝しました。右腕/左腕の装着設定は確認済みです。

起床後アプリでデータを収集し、両デバイスの波形を比較しました。その結果を解説します。

データは約 3 週間分 (20 日分)収集しました。

睡眠の質を評価するポイント

医師が書いた睡眠に関する本や私が Fitbit で計測した睡眠データから、睡眠の質をチェックするポイントは以下の 3 つに整理しました。

  1. 「覚醒」から「最初の深い睡眠」に入るまでの時間は短いほど良い (30 分以内が目安)
  2. 最初の深い睡眠は 20 分間以上あることが望ましい
  3. 睡眠中の途中覚醒回数は少ない方が良い

1 番が最も重要で、番号順に優先順位は下がります。各項目の詳細と根拠については下記の補足説明をご覧ください。

関連記事:補足:睡眠の質をチェックする3つのポイント(各社の活動量計の睡眠管理機能を徹底レビュー)

睡眠サイクルの比較結果:精度は良さそうだが、良質な睡眠がとれなかった

代表波形:深い睡眠が出ない

代表的な睡眠サイクル

上図は代表的な睡眠波形です。 SmartSleep の睡眠図をグレースケールにして、 Fitbit のサイクルを上に重ねています。就寝時刻と起床時刻はできるだけ合わせています。

欲しいのは、入眠後 30 分以内の深い睡眠です。今回 SmartSleep を使った計測では「睡眠初期の深い睡眠」がほぼ出ませんでした。

上図の睡眠サイクルを、 3 つポイントを使って分析してみましょう。 SmartSleep の白い線の波形を分析します。

  1. 最初の深い睡眠まで 90 分以上 (30 分以内が良い) → ×
  2. 最初の深い睡眠が数分間 (20 分間以上が良い) → △
  3. 中途覚醒 3 回 → × (判定の優先順位は低い)
  4. 睡眠の質の総合評価 → ×

睡眠中盤から後半にかけて深い睡眠が 2 度出ています。悪くないのですが、疲れが取れるような快眠を得るためには睡眠の初期に深い睡眠が必要です。

そのため起床後もあくびをしたり、はっきりとよく眠れた感覚はありませんでした。

ただし睡眠サイクルの計測自体は精度がよさそうです。上図の比較でも、大まかな睡眠ステージの傾向は SmartSleep が正しそうです。

Fitbit は SmartSleep より深い睡眠が多くでています。後述しますが、これは Fitbit の計測誤差と考えられます。

つまり、睡眠の計測自体は精度が良さそうだが、そもそもちゃんと寝れていないというのがこのレビューの結論です。

実際にベルト調節金具が後頭部に当たって眠れなかったり、バンドを頭に装着して寝るという違和感を最後までとることができませんでした。

入眠直後に深い睡眠が出た唯一の例

深い睡眠が唯一出た睡眠図

20 日間の計測で唯一、睡眠冒頭で深い睡眠が出た例です。 SmartSleep の睡眠サイクルをもう一度分析してみましょう。

  1. 最初の深い睡眠まで 10 分 (30 分以内が良い) → 〇
  2. 最初の深い睡眠が数分間 (20 分間以上が良い) → △
  3. 中途覚醒 3 回以上 → × (判定の優先順位は低い)
  4. 睡眠の質の総合評価 → △

この日も起床後によく眠れた感覚はありませんでした。実際に SmartSleep の波形には睡眠中の覚醒(白い凸)が 10 回以上ぴょこぴょこあります。

脳波を計測して睡眠の状態を精読よく測りたい。しかしヘッドバンドの違和感で深い睡眠がとれない。というジレンマに陥ってしまいました。

Fitbitの深い睡眠に誤検知がある?

深い睡眠の出方の比較

今回レビューして再確認できました。 Fitbit の短時間の深い睡眠は「誤検知」の可能性が高いです。

睡眠の質を評価するポイント 2 「最初の深い睡眠は 20 分間以上あることが望ましい」を定義したのは私の実体験ベースです。この体験を裏付けるデータの一例が上図になります。

上図の Fitbit の波形では 4 回深い睡眠が検出されています。それぞれ 8 分間, 15 分間, 4 分間, 24 分間でした。

そのうち SmartSleep でも深い睡眠と判断したのは最後の 24 分間の深い睡眠部分だけでした。残りの 8 分間, 15 分間, 4 分間について SmartSleep は「深い睡眠ではない」と判定しています。

20 分間未満の深い睡眠を Fitbit が示していても、 SmartSleep の脳波を使った計測では深い睡眠には該当しない可能性が高い。

言い換えると、 20 分間以上の深い睡眠が冒頭で出ないと疲れがとれないのでは?という実体験は正しかったといえます。

もちろん SmartSleep でも 20 分未満の深い睡眠を検出していますので 100 % の再現率ではありません。ただ今回レビューして上記の傾向ははっきりと確認することができました。

Fitbit が検知した 20 分間未満の深い睡眠については注意が必要です。

利用する際の注意点

睡眠図の機能に制限がある

この記事の最初に睡眠計測結果の画面を解説しました。

SmartSleep では以下の機能がありませんでした。他社製品にはある機能です。

  1. 各睡眠ステージの実際の占有時間を調べることができない
  2. 睡眠図の共有機能がない

今回はそもそも睡眠初期に深い睡眠が検出されなかったため、詳しい睡眠ステージチェックはしていません。

睡眠図の共有は今後搭載すべき機能です。医師の指導の下に睡眠障害を改善するのであれば共有機能は必須です。

毎回睡眠グラフのスクリーンショットをとってメールで送るのは手間ですよね。

ベルト調整金具が後頭部に当たって眠れない

ベルト調整金具

Philips SmartSleep の一番の問題点です。上の写真をご覧ください。

寝る際にベルト調節金具が枕と頭部に当たり邪魔です。使用開始当初はこの金具の違和感で眠れませんでした。

2 個のベルト調節器は金属です。グレーなのでプラスチックだと思いますよね。塗装されているだけです。

私は技術者の立場としてあえて厳しく指摘します。誰がこんな設計したのでしょうか?最悪です。

ユーザーの使いやすさ・眠りやすさを考えれば、こんな設計はありえません。

設計者も、この設計で良しとしたメーカーの管理職もこの製品を自分で使っていないのではないでしょうか。

ヘッドバンドを改造

文句を言うだけならだれでもできます。私は技術者なので自分で工夫しました。

上の写真にあるように、ハサミでベルトをカットして調整金具を外し、接着剤で固定しました。接着剤が髪の毛につかないようにベルトの外側にだけ接着剤を塗りました。

このようにゆるめのゴムベルトにすれば圧迫感はなくなるはずです。こういう設計案は出なかったのでしょうか?

この改造で寝る際の後頭部の違和感はだいぶ楽になりました。それでもすでに紹介した睡眠計測の結果となりました。

実際には改造後も無意識に夜中にヘッドバンドを脱いでいた日が何度かありました。

ヘッドバンドを装着して寝るのは、リストバンド型睡眠トラッカーを装着して寝るよりはるかに負担が大きいです。私はリストバンド型や指輪型に慣れてしまったのかもしれません。

寝る前にボタンを押し忘れる

ヘッドバンド前面の電源ボタン

リストバンド型の睡眠トラッカーは自動で睡眠を検出します。 Philips SmartSleep は上の写真に示す「電源ボタン」を押さないと計測が始まりません。

本当に眠い日はこの電源ボタンを押し忘れてしまい、睡眠の計測ができませんでした。しかもそういう日に限って Fitbit は寝落ち後に深い睡眠を計測しました。

ヘッドバンドを一日中装着しているわけにはいかないので、電源ボタンを押して睡眠中だけ計測するという考え方は理解できます。

だからこそむしろ、常時装着してかつ睡眠も計測できるリストバンド型のメリットは特筆すべきなのでしょう。

3時間以上寝ないと睡眠サイクルは分析されない

睡眠が分析されない例

SmartSleep で睡眠が計測できなかったときのアプリ画面を上図に示します。以下の 2 つのケースで発生しました。

  1. 睡眠時間が 3 時間未満の場合
  2. 睡眠途中でヘッドバンドの装着を外した場合

睡眠時間が 3 時間未満の場合は分析が全くありません。睡眠時間が 3 時間以上あり、かつ起床前にヘッドバンドを外した場合は睡眠図は分析されますがスコアは出ません。

このレビューではスコアは使わないので大きな影響はありません。それでもこのレビューはどうしてもネガティブな考察ばかり出てしまいます。

リストバンド型を超えるメリットがどうしても見当たりませんでした。

提案:睡眠障害がすでにある人向けにおすすめ

メーカー公式サイトによる評価

上図はメーカー公式サイトの情報です。

72 % のユーザーが 2 週間までに効果を実感、とあります。

この記述自体は決して間違っていないでしょう。なぜなら自分も使い始めの頃よりも 2 週間後のほうがデバイスに馴染んできました。

しかし、上記の記述には「どういった人のうちの 72 % に効果があったのか?」がわかりません。

全員健常者(睡眠に障害がない人)だったのでしょうか?それとも睡眠障害を抱えている人だったのでしょうか?わかりません。

提案します。「すでに医師から睡眠障害を診断されている人」に Philips SmartSleep をおすすめします。

睡眠障害を抱えている人であれば、先に紹介したベルト調節金具の干渉も気にならないのかもしれません。

すでに睡眠障害を抱えている人のうち 72 % が効果を実感した、のであれば私も納得します。

私は少なくとも 20 日間使いましたが、これ以上使っても効果は実感できないでしょう。

まとめ

まだまだ伸びしろはあると思います。もっと改善して良い製品にして欲しいです。

この記事をまとめましょう。

  • 脳波を使った睡眠計測が本筋。実際睡眠計測自体の精度は良かったと思われる。
  • しかしヘッドバンドのベルト調整金具が後頭部に当たってきちんと寝ることができなかった。またヘッドバンドを装着して寝るという習慣が自分には合わずよく眠れなかった。
  • この製品をお勧めするのであれば、すでに医師から睡眠障害を診断されて改善したい人たちに提案したい。

外部リンク:スマートスリープ ディープスリープ ヘッドバンド HH1610/02 | Philips

SleepMapper
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※この記事は 2021 年 8 月から 9 月にかけてレビューした内容を基に制作しました。

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このブログを書いている人

ダイブツ
twitter: @habatakurikei
元々IT系だけど電気系技術者。20代で博士号を取得するも、全然社会の役に立てないのが不満でブログによる情報発信を開始。あなたに有益な知識やノウハウを理系目線かつ図解でわかりやすく解説するのがモットー。2018年心臓発作であわや過労死寸前。そこからガジェットレビューを通じた体調管理の情報発信も開始。ベルギー在住でシンガポール就労経験もあり、海外転職や海外生活のノウハウも公開中。

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