睡眠はどうやって計測されるの?トラッカータイプ別にしくみを解説
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睡眠状態を正確に測るには専門的な装置と知識が求められます。上図に示す「睡眠ポリグラフィ検査(装置)」とよばれるものです。
医療機器であるため一般の人は使うことができないものでした。
しかしテクノロジーの進歩によってより小型で安価な機器が販売され、入手できるようになりました。
わたしたちが購入できる機器ではどのように睡眠を計測しているのでしょうか?
簡単に言うと「睡眠ポリグラフィ装置で計測する方法のいくつかを選んで、タイプによって使い分けている」です。
この記事では睡眠計の計測方法をタイプ別に解説します。理系の博士号持ちで電気系エンジニアの私が専門的な内容をできるだけ使わずに説明しましょう。
上図に示す 5 タイプに分けて解説します。
外部リンク:睡眠ポリグラフ検査 – Wikipedia
ヘッドバンド型(脳波)
脳波を測れば睡眠状態を知ることができます。脳波と睡眠の関係については古くから研究が進んでいる分野です。
ヘッドバンド型では電極(金属でできたセンサーの先端部分)を頭につけて脳波(脳が出す電気信号)を測ります。
計測した電気信号にはたくさんの「波」があります。この波のパターンによって睡眠の深さを分析しています。
例えば α 波(アルファ波)をご存知でしょうか?リラックスしている状態ででる脳波のことで、リラクゼーションで良く出てきます。
実際には α 波以外にも β 波(ベータ波)や δ 波(デルタ波)など「何種類もの波」があり、浅い睡眠と深い睡眠では脳波のパターンが違うのです。
外部リンク:睡眠時脳波 – Wikipedia
脳波はものすごい微弱な電気信号です。そのため脳波の測定には高度な技術が求められました。一般の人が気軽に計測することはできませんでした。
しかし技術の向上により上図に示すようなヘッドバンド型が比較的入手しやすくなりました。
ヘッドバンド型睡眠計もポリグラフィ装置と同じで脳波を測定します。測定したデータはスマートフォンに送ってデータを解析し、結果を表示します。
上図の上部に示す「覚醒、REM、浅い睡眠、深い睡眠」という睡眠の状態変化を表示したグラフのことを睡眠図(睡眠サイクル)といいます。
この睡眠サイクルから「よく眠れたかどうか?」といった睡眠の質を判断することができます。
関連記事:Philips SmartSleep vs Fitbit 「睡眠の質」表示比較レビュー
リストバンド型(心拍数、体動)
スマートウォッチ、活動量計(アクティビティトラッカー)、睡眠トラッカーなど様々な呼び方があります。いずれも手首に装着する「リストバンド型」です。
上の写真をご覧ください。リストバンド型は緑のライト (LED) を放射し、手首が跳ね返した光の量で心拍数を計測しています。このしくみを脈波センサといいます。
睡眠中もこの緑色の光を手首に当てて心拍数を計測します。
外部リンク:脈波センサとは? | エレクトロニクス豆知識 | ローム株式会社
そして計測した心拍数の変化から睡眠の状態「覚醒、レム睡眠 (REM)、ノンレム睡眠」を分析することができます。
この「心拍数→睡眠状態」の変換方法については専門的な方法が発表されています。
実際のところ、この変換方法には解釈の問題があります。そのためメーカーによって睡眠状態の分析精度にばらつきがあります。
私は各メーカーのガジェットを購入して実際にレビューしています。そしてメーカーによる分析精度の差がハッキリあることがわかっています。
私の記憶では Fitbit Alta HR が出始めた 2017 年ごろから、スマートウォッチによる睡眠計測が本格化したと考えています。 Fitbit 以前にも睡眠計測機能を搭載したウォッチはありましたが、精度は良くありませんでした。
少しでも良い製品を紹介し、あなたの睡眠の質(そして生活の質)の向上をサポートできれば嬉しいです。
心拍数以外にも、リストバンド型は寝返りをうった際の身体の動きも検出しています(体動)。
深い睡眠ほど身体の動きが少ないといわれています。本体の中には動きを検出するセンサー(加速度センサー)が搭載され、体の動きも常時計測しているのです。
指輪型(心拍数、体動など)
指輪型(リング型)はリストバンド型をさらに小型化したものとお考えください。腕時計のように画面が無い分小さくできるのです。
指輪型もリストバンド型としくみは同じです。心拍数の計測と加速度センサー(体動)で睡眠中の状態を計測しています。
上図は Oura Ring という製品の例です。実機を購入してレビューしたところ、精度に改善の余地はあるものの日常使いで問題ないレベルでした。
Oura Ring では心拍数と体動以外にも体温を計測します。技術の進歩によって小さいデバイスでも多くの生体情報がモニタリングできるようになってきています。
今後はスマートリングで体調管理、というのも選択肢になるでしょう。
マット型、パッド型(呼吸、体動、心拍数)
マット型は布団やマットレスの下にセンサーを入れます。
リストバンド型や指輪型が 24 時間データをとることに対して、マット型は睡眠中だけ身体のデータを計測します。
必要なデータはリストバンド型や指輪型と同じで、主に心拍数と睡眠中の寝返りです。
寝返りの検出だけマット型は他のタイプと異なります。
マットを布団の下に入れることで、睡眠中の自分の体重が圧力としてマットにかかります。そして寝返りするとマットにかかる圧力が変わります。この圧力の変化を電気信号に変えて、最終的に睡眠状態の変化をつかまえます。
マットに圧力をかけて電気信号に変換する物(しくみ)を圧電センサーといいます。
外部リンク:第89回 力で電気を生み出す仕掛け −身の周りにある圧電効果−|テクの雑学|TDK Techno Magazine
マット型でも製品によっては睡眠中の呼吸も計測します。睡眠中の呼吸が乱れると質に影響を及ぼすからです。
下記の関連記事にて Withings Sleep Analizer という製品をレビューしました。結果、睡眠の質はかなり細かく計測できました。
関連記事:Withings Sleep Analyzer vs Fitbit「睡眠の質」表示比較レビュー
ただ正直に言うと、このマット型の計測方法は次に紹介するスマートフォンでもできます。マット型を選ぶにはスマホで計測したくない、といった理由が必要でしょう。
マット型の欠点として例えば、 Withings Sleep Analyzer をマットレスに入れたところ、普段よりもマットレスが盛り上がり寝る時の姿勢に違和感がありました。
これらの睡眠計測機能をうまく組み合わせて、睡眠の質を解析してくれるカプセルホテルのサービスもあります。機器の購入に抵抗のある人はこのようなサービスで自分の睡眠状態を知ることもできます。
スマホアプリ(呼吸、体動)
最後にスマートフォンです。スマートフォンにはマイクと加速度センサーが内蔵しています。
呼吸を録音してリズムや音の高さを測ることで睡眠の状態を分析することができます。
例えば「スヤスヤ」といった呼吸では深く眠れている、「ガーガー」という呼吸では睡眠が浅い、などの判断基準があります。
また「いびき」を録音すれば睡眠時無呼吸症候群の疑いもチェックすることができます。
タレントの渡辺直美さんは睡眠時無呼吸症候群だったことをアプリが教えてくれた、とテレビ番組で話されていました。
外部リンク:いびきとアプリ 東京ロンフェルメ耳鼻いんこう科
アプリによっては呼吸だけでなく睡眠中の身体の動き(体動)も計測しています。スマホを枕元に置くことで寝返りを検出できます。
どうしてスマホで寝返りを検出できるのでしょうか?加速度センサーのしくみを説明する必要があります。
例えば、スマホ本体をハンドルにするレースゲームがありますね。これはハンドルの動きをスマホの加速度センサーが検出しているのです。
また Apple ヘルスケアや Google Fit といったアプリが歩数や運動を検出するのも同じ原理です。スマホを身につけて身体を動かすと、その動きをスマホが検出するのです。
スマートフォンの Google Map アプリをカーナビゲーションとして使った際、なぜか車の速度が表示されませんでしたか?これはスマホが車と一緒に動くことで、スマホ内の加速度センサーが動きを検出し車の速度を計算しているのです。
同じように、寝返りをうった際の布団の浮き沈みをスマホが検出するのです。
まとめ
ひと口に睡眠計といっても様々なタイプがありますね。
この記事で紹介した内容を元に、あなたのライフスタイルに合った睡眠計を選んでみてくださいね。
この記事をまとめましょう。
- 専門的には睡眠ポリグラフィ装置を使って睡眠状態を計測する。市販されている各睡眠計はポリグラフィ装置の機能の一部を使って睡眠を簡易的に計測している。
- ヘッドバンド型は脳波を使って睡眠を計測する。技術の進歩により一般でも使える製品が出てきている。
- リストバンド型や指輪型は心拍数と身体の動き(体動)から睡眠状態を分析している。
- マット型は睡眠中の体の動き、心拍数、呼吸を計測している。ただしスマホアプリでも同じような計測ができる。
- スマートフォンアプリは主に睡眠中の呼吸を計測している。アプリによっては睡眠中の身体の動きも検出している。