ブラック企業から身を守る具体策『わかる!使える!労働基準法』

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今回の書評は『わかる!使える!労働基準法』です。

わかる労働基準法成分

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働くということを法律ベースで解説している本

「働くってどういうこと?」と聞かれると「お金(給料)をもらうために労働力を提供している」と答える人は多いでしょう。経済的な話をすればそうですが、それ以外に「自己の成長のため」や「趣味」と答える人もいます。

様々な意見があるのはいいですが、どうしても哲学的になってしまいます。では「法律」という視点で仕事とはなんでしょうか?この質問に答えてくれるのが本書です。

本書では具体的にこういったことに答えてくれます。

  • そもそも労働基準法とはなにか
  • 雇用契約は何をチェックすべきか、内定取り消しにはどう対処すべきか
  • 未払い賃金が起きた場合に対処は可能か
  • 育児や介護をしている人が仕事を探すのは不利なのか
  • 各種トラブルが起きた際の法律的な対処(セクハラ、配置転換、過労死、労災、解雇など)
  • 派遣、パート、障害者など多様な働き方についての法律的な扱い

このように取り扱い範囲は大きいため、想定している読者の範囲も広いです。現在すでに働いている人、新卒としてこれから働く学生から主婦、健康的な問題で正社員としての就労が厳しい人など、日本で働く人であればだれでも該当します。

また良心的な経営者であれば「従業員をどのように扱うと法律に抵触するのか」ということを学ぶことができるでしょう。

法律の解説だから内容も難しいのでは?と思うかもしれませんね。本書では法律の原文は最小限の引用にとどめ、できるだけ具体的な事例から「このケースは法律的に OK/NG 」という説明がされています。図表もあるため情報はコンパクトに要点が整理されています。

本書を読めばただ法律の文を読むのではなく「自分の場合はどうなんだろう?」と関連づけて理解することができます。実際に私が本書をどのように活用したのか、次のセクション以降で紹介します。

自宅待機でも会社は給料を出さないといけない

自宅待機でも会社は給与を出さなければいけない

本書を読んで一番有益だったのは「もし自宅待機になった場合の給料はどうなるのか?」という部分です。東日本大震災のときに自宅待機が命じられそうだったからです。

そもそも「勤務中とはどういう状態か?」という疑問が出てきます。答えられますか?

タイムカードに記録した出社/帰社の時間が勤務中なのでしょうか?アルバイトやパートはそうですが、もっと本質に踏み込まないといけません。

勤務中とは「上司や経営者の指揮管理下にある状態」です。

普段の勤務ではタイムカードがあるので勤務時間は明確ですが、出張中はタイムカードに打刻できませんね。つまり勤務時間があいまいになります。しかし上司から指示(命令)を受けられる状態であれば自宅待機だろうと出張中だろうと勤務中なのです。

東日本大震災直後、どの業界も仕事に大幅な遅れが発生ました。特に製造業は工場の稼働が止まり部品の供給が大変でした。

私が当時働いていた会社も工場がありました。そのため社長は全社員にメールを送りました。「状況によっては自宅待機を命じるかもしれない。待機になった場合は仕事をしていないので給料は出さない」

しかし本書を読むと、この社長の指示は間違っていることになります。引用させていただきます。

景気が悪く仕事がない場合に、製造業などでは工場を止めて従業員に自宅待機してもらうことがあります。この場合、休んでいるからといって、「仕事をしていないのだから、給料もなし」というのは違法です。

布施直春 『[改訂新版]わかる! 使える! 労働基準法』 PHP ビジネス新書 (2011) p.90 より引用

まさに私が働いている製造業での例で解説してくれていますね。

本書の記述通り、待機中の場合は会社が手当てを出す必要があり、無給はダメです。なぜなら仕事をしていなくても「自宅待機」という命令を経営者が出しています。そしてその命令に従っている以上、会社の指示を受けて待機しているという「業務」なのです。

私はこの社長のメールに対して違法だと反論すべきでした。しかし当時の私はまだブラック体質に染まっており、おかしいと思っていても口には出せませんでした。

このように、従業員は上司や経営者から指示を受けている場合は勤務をしていることになるのです。出張中だろうと待機中だろうと関係ありません。

私の知り合いのシンガポール人パイロットはもっと大変です。別のパイロットによる飛行に万が一トラブルがあった場合に備えて自宅待機を命じられるそうです。そのため土日も朝夜も関係なく自由に外出できなくて大変とのことです。この場合の自宅待機にも会社は当然手当を支給しているはずです。

従業員側が正しい知識を身につけないと、会社にいいように使われてしまします。ブラック労働を改善するにはまず我々が正しい知識を身につけないといけません。

本書は具体的に事例を紹介しているので自分のケースはどうなるのか参考になります。

36(サブロク)協定があっても無限に残業はできない

もう 1 つ、私が気にしていたのは残業時間です。

正直に書きます。私は仕事に対して達成感やキャリア向上、やりがいを求めていました。しかし実際はやってもやっても虚しさしか残らない。仕事はできて当たり前、少しでもミスをすると個室によばれて説教。達成感がありませんでした。

日本で働いていたころには月の残業時間が 100 時間を超えたこともありました。そのため残業についての正当な扱いをされているのか?本書で調べました。

残業についてチェックすべき項目は労働基準法 36 条、いわゆるサブロク協定です(同書 p.112 )。

会社が従業員に残業や休日出勤をやらせる場合、あらかじめ労使協定を結んで労働基準監督署に届けないといけません。その具体的な方法について、本書から引用させていただきます。

この協定は、事業場ごとに、使用者と労働組合、組合がなければ従業員の過半数の代表者と締結しなければなりません。

布施直春 『[改訂新版]わかる! 使える! 労働基準法』 PHP ビジネス新書 (2011) p.112 より引用

この記載を根拠に、私は気になって当時働いていた会社の就業規則を読みました。確かに「代表者が三六協定を締結する」という記載はありました。

しかし本書は続きます。 36 協定に基づく残業時間(時間外勤務)の上限は月 45 時間までです。

36協定を締結しているからといって無限に残業いいわけではありません。ここが重要なポイントです。

私は何度も月 45 時間以上の残業をしていました。もっと上司や会社についておかしいと言うべきでした。しかし仕方ありません。当時の私は残業が当たり前の生活習慣になっており、またその会社を辞めた次のアクションが見えずに一歩が踏み出せませんでした。

今の私であれば「実際に締結した 36 協定の書類の原本を見せてほしい」と要求したでしょう。私が勤めていた会社は 100 人規模の中小企業だったので、そもそも労働組合があったかどうかも疑わしかったので。

本書ではこれ以外にも「特別条項、残業の限度時間のない職種」として、 36 協定が適用されないケースについても解説しています。例えば研究開発に従事している職種は対象外になります。しかし私は製造業とはいえ研究開発ではないためこの例外には当てはまりません。

会社は従業員の安全確保をする義務があるはずですが(本書 p.186 )、現実はそうではありません。自分の身を守るのは自分しかいません。

サラリーマンとしてサバイバルされるのであれば、本書は手元に置いておきましょう。労働環境を改善するには従業員が意識を変えて行動するしかありません。

今回紹介した本

布施 直春, PHPビジネス新書, 2015
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私が読んだのは 2011 年に出版された第2版です。現在の最新版は第 3 版となっています。

法律はその時代に合わせて変化していきます。古い情報でアドバイスされても自分のケースに当てはまらないと困りますね。最新の法律や事例に合わせて内容がきちんと更新されるのは信頼できます。

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