個人で活躍可能なランチェスター戦略『技術力で稼ぐ!日本のすごい町工場』

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今回の書評は『技術力で稼ぐ!日本のすごい町工場』です。

日本のすごい町工場成分

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中小企業(町工場)にスポットライトを当てた貴重な資料

就活で注目される企業やニュースで取り上げられる会社は基本的に大手です。一部のベンチャー企業を除けば、中小企業は名前どころか存在すら認知されていないことが多いです。

私自身は 27 歳で社会人になりました。入社したのは製造業の中小企業でした。もちろん応募するまで名前も存在も知りませんでした。

しかし入社後、下請けながら大手企業の事業を支えている協力会社であると胸を張っていたこともあります。

本書はこのような「日本の製造業を陰ながら支えている中小企業、町工場」にスポットライトを当てた本です。

新聞の連載記事を書籍化したものなので 1 章は短くて読みやすいです。全 73 社分の記事。北は北海道、南は九州まで全国にある町工場の情報が収録されています。

目次を見渡すだけでも、日本がものづくり大国であることの一辺が垣間見えます。

日本のものづくりは町工場が支えてきた、といわれます。しかし近年は元気がないともいわれます。一方で、テレビドラマにもなった小説『下町ロケット』が人気を博すなど、ものづくりのドラマに心打たれた人もいるでしょう。

本書はそんな下町ロケットにも負けないドラマを再現するようなノンフィクションです。製造業の実態を記録した貴重な資料ではないでしょうか。

個人・中小企業こそランチェスター戦略を学ぶべし

中小企業/個人の戦い方

本書を通じて、一見関係なさそうなフリーランスとして生きていくための戦略・戦術を学ぶことができました。なぜでしょうか?

私は幸いにも技術者として中小企業/大手企業のどちらの環境でも働く機会をいただきました。その実体験から、中小と大手では環境にかなり違うことを肌で感じました。

本書で紹介される中小企業(町工場)はほぼ下記の法則に当てはまっています。ランチェスター戦略(法則)を会社経営に応用した法則です。

  1. 差別化:他社と違うことをやる
  2. 小さな1位:部品レベルで世界1位になる
  3. 一点集中:あれこれ事業を広げない、1つの技術を極める
  4. 接近戦(この書評では補足とする)

出典:栢野克己, 竹田陽一, 豊倉義晴 (取材・執筆協力) 『小さな会社の稼ぐ技術』 日経BP (2016) kindle 版位置 No. 537 付近を参考

ランチェスター戦略とは戦争にて「少ない軍事力」対「大きな軍事力」での戦い方を研究したものです。この考え方をある種の経済戦争である企業活動に当てはめたものです。

上図をご覧ください。大手企業にはブランド力とお金、いい大学を卒業した人材がいます。そのため幅広く技術の表面部分をカバーして自社製品を展開することができます。

しかし 1 つの技術を深掘りしていくのはコストと時間がかかり、大手は嫌がります。そのため共同研究や共同開発を大学や他社に持ちかけます。

一方、中小企業には世間に認知されるブランド力も、資本もありません。

人材についてはどうでしょうか?人それぞれですが、大手にはできないことを知恵で形にしているのです。

本書から 2 例を紹介しましょう。

ある会社ではベアリング(軸受け)という部品しか製造・販売していません(本書 p.192) 。しかし用途やサイズに応じて約 2,000 種類の製品を製造しています。また世界シェアは 7 割 ~ 8 割です。

ベアリングという部品だけで「小さな 1 位」と「一点集中」の2つを実践していますね。大手ではリスクが大きすぎてできません。

必ずしも、車や携帯電話などみんなが知っているような製品で1位になる必要はありません。

「この部品がないと製品が完成しない、是非御社の物を使わせて欲しい」と周りが言わしめるくらいの小さな部品でいいのです。そのかわり世界に類のないレベルの完成度が求められるのです。

もう 1 例紹介します。ある農作業の機械を製造している北海道のメーカーです。

このメーカーは収穫が始まる 10 月までに業務のピークを終えるため、 10 月以降は工員が農家を訪問するのです。普通のものづくりの会社ではまずしません。

ピンとこないかもしれませんね。本書から引用させていただきます。

道内各地に散った工員たちは、収穫機を使う農家を一軒一軒訪ねて回る。故障や不具合があれば、その場で修理に応じる。工員自らがアフターサービス要員に “変身&” することで、収穫機の改良の種を自らの自と耳を通して地道に探していく。

日経産業新聞(編) 『技術力で稼ぐ!日本のすごい町工場』 日本経済新聞出版社 (2011) p.214 より引用

エンドユーザーのお宅に訪問するのはまさに接近戦であり、大手企業にはできないことです。

しかしもっと重要なことがあります。この引用文には「改良の種」というキーワードが入っています。

新しいビジネスの芽を見つけるのではなく、今ある製品をさらに良くするため(深くするため)のヒアリング。まさに 1 点集中なのです。大手がやるマーケティング調査よりも、足を使うことで現場の生きた声を聞くことができるのです。

つまり 1 つのことを極めていくには接近戦にならざるを得ないのです。そのため私にとって接近戦は補足なのです。

本来製造業とは汗や油にまみれる泥臭い仕事です。大手と対等に渡り合うと覚悟して行動した結果、そうなるのです。

この戦略 (4 つの戦術)は会社だけでなく、これからフリーランスや個人で起業する人にとってとしても当てはまるものです。 Youtuber やブロガー、プログラマーや通訳など他の仕事でも全く当てはまります。

大手にできないことを強みにすれば 1 人でも食べていける。読みながらそういう思考になりました。

そう思えるのも私自身が技術者として大手/中小企業のどちらも就労経験があるからでしょう。本書を読んでいて各社がどういうことをやっているのかイメージしやすかったのかもしれません。

外部リンク:ランチェスターの法則 – Wikipedia

継承者問題とブラック労働問題は深刻か?

中小企業の数の推移

後継者問題やブラック労働問題は今に始まったことではありません。しかし一向に改善されたといった良いニュースも見ません。

上図は中小企業の数の推移です。中小企業の場合「社内の誰か」の能力が会社全体を支えているということもあります。そのため後継者がいなければ技術伝承もできずになくなってしまう可能性はあります。

人口減少や、若い人たちがきつい仕事をやりたがらない事情を考えれば中小企業の数が減るのはやむを得ません。歯止めをかけるには経営者が労働環境や待遇を改善して魅力をアピールするしかありません。

しかし残念ながら、本書では各社の技術力はアピールしていますが、労働環境や就労規則は紹介されていません。もちろん新聞の取材記事なので変なことは書けないのでしょう。

私がかつて勤めていた中小企業もある日、読売新聞で紹介されていました。実家の母からその記事を見せてもらいました。私が働いていた当時の社長と、私も知っている従業員の女の子が談笑している写真がありました。

表面的には働き方改革をしても、中小企業が抜本改革をするような人もお金もない。私自身も中小企業で働いてみて理解できます。この読売新聞の記事もそういう部分は取り上げていません。

本書で紹介されている中小企業の利益率はどうなのでしょうか。ブランド化できている製品は値上げして、設備や従業員に還元することはできないのでしょうか?

私は海外生活が 5 年を超えました。日本に帰るたびに「日本の物は安くて良い」といつも感じています。

「良いものを安く提供する」はかつては素晴らしい考え方でした。パナソニックの創業者・松下幸之助は「水道哲学」を掲げて、良いものを多くの人にいきわたらせる持論を展開しました。

しかし今は時代が違います。物はあふれているので、いいものであれば安売りする必要はありません。その典型例が iPhone だったはずです。しかしその iPhone ですら値下げをするなど苦戦しています。

値下げをしたら従業員の給料が減ります。コスト削減で部品代を安くしたら、部品供給会社の従業員の給料が減ります。安い部品にしたら故障が増える可能性もでてきます。安くして良いことはなにもないのです。

「良いものを安く」ではなく、「良いものをちゃんとした価格」で提供する。そして技術者や職人さんはもっと報われてほしい。

これが本書を読み終えて出た心の声でした。

今回紹介した本

日経産業新聞 (編集), 日本経済新聞出版社, 2011
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