問題の本質を見極めることができたデカルト『方法序説』

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今回の書評は『方法序説 (岩波文庫)』です。

方法序説成分

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数学の業績もあるデカルト

ルネ・デカルト(1596–1650)は私の好きな哲学者のひとりです。

彼は理屈だけの哲学ではなく、現実の問題に目を向けていました。そのためデカルトには数学や自然科学の業績もあります。

例えば為替相場や統計資料などで目にする折れ線グラフ。折れ線グラフは2つの数字(例えば横軸に日付、縦軸に価格)を持つ項目を点として表現し、複数の点を線でつなぐことで数字の変化を見える化したものです。

学校の数学の授業ではグラフを直交座標系という難しい名前で教わりました。このグラフの基本はデカルトが本書で最初に提案したというのが通説です。

外部リンク:直交座標系 – Wikipedia

※ただし、直交座標の説明が収録されているはずの幾何学部分は本書に含まれていない。理由は次節にて。

デカルト以前の幾何学では、点の定義は「位置はあるが長さや面積がないもの」でした。しかしデカルトによって「点は数字の組み合わせ」という風に再定義されました。

それまであいまいな定義だった点が、数字の組み合わせという形で具体的になった。見える化されたことで分析がしやすくなった。これがデカルト後の微分積分の発展に貢献しました。

本書は、問題や課題をどう扱うべきか?どのように向かい合うべきか?ということを教えてくれる本です。本書は哲学書として有名になってしまいましたが、問題解決の方法として後世に残された本です。詳細は次節で説明します。

哲学書はたいてい文章が難しく、初心者には読みにくいです。本書もそうです。なぜでしょうか?

本書に限って言えば、原文はフランス語です。本書だけでなく、アンリ・ポアンカレなどのフランス出身の科学者が書いた本は遠回しな表現がたくさんあります。フランス語特有の表現が読みにくくしているということは考えられます。

最近は名著をマンガで解説する本も増えています。エッセンスだけを知りたければ、原著ではなくマンガで読む方法もあるでしょう。

しかしここではデカルトの核心を解説したいため、マンガではなく原著に近い本書を採用しました。

問題は分割して1つずつ解決せよ

本書の有名な言葉、それは「我思う、ゆえに我あり(岩波文庫版p.46)」という命題です。

学問の進展のためには物事を疑ってかかる必要がある。しかし、疑っている自分という存在を疑うことはできない、という意味です。

哲学ではよく議論された命題ですが、技術者にとってこの部分は重要ではありません。

デカルトの本書のもう1つの功績、それは分割統治法の考え方を提案したことです(岩波文庫版pp.28–29)。大きな問題は小さな問題に分割して、できることから1つずつ解決する。そうすれば最初にあった問題も解決する、というものです。

外部リンク:分割統治法 – Wikipedia

方法序説で提案した分割統治法の考え方

この図に示す様に、問題はできるだけ小さくして解決せよ、というのがデカルトの提案でした。ただし原著では図による解説はなく、手順が箇条書きされているだけです。ソフトウェアでいうアルゴリズムのようなものです。

分割統治法は、システム工学やソフトウェアの世界においてよく使われる方法です。20世紀のアメリカではアポロ計画でこの方法を使い、不可能とされていた月への有人飛行を成功させたといわれています。

私たちは目の前の問題をとにかく解決しなければいけないと焦ります。しかし、そもそも何が問題なのか、きちんと見極めていないこともあります。デカルトは、どんな問題や課題でもきちんと順序を踏めば解決できると主張したのです。

まえがきだけを抜き出して1冊の哲学書にした

方法序説の正式なタイトルをご存知ですか?それは『理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法序説。加えて、その方法の試みである屈折光学、気象学、幾何学』です(岩波文庫版、巻末の解説より)。

本来は500ページ以上ある論文集だったのですが、その序文の部分だけを抜粋して別に出版したのが方法序説です。本編である屈折光学、気象学、幾何学の内容を始める前に、予備知識として知っておいて欲しいことを先に記しておいたのが方法序説です。

本書は哲学書ではなく、科学の本の序文だったのです。

そのため、「我思う…」のあとも論理学や人体、自然科学の話が続きます。私は初めて読んだとき「なんか変だな?」と思いました。それもそのはずです。続くべき本編に入る前に本書が終わってしまったからです。

このように、本書は哲学的というよりも、理系的な目で読んでいただけると違った発見があるでしょう。

読書で考える力をつけるには工夫が必要

最後に、本書でデカルトが残した読書についてのメッセージです。

私は読書好きですが、中には「本を読むのは人の意見を借りることで悪」という人もいます。実際に、私が大学院生の頃にそう言う先生がいました。

哲学の世界でも読書について論じた人がいます。例えばショーペンハウエル(1788–1860)の『読書について』では「読書により自分で考える力を失う」とまで言いました。

しかしデカルトは違います。本書の最初にこう残しました。引用させていただきます。

すべて良書を読むことは、著者である過去の世紀の一流の人びとと親しく語り合うようなもので、しかもその会話は、かれらの思想の最上のものだけを見せてくれる、入念な準備のなされたものだ。

デカルト(著)、谷川 多佳子(訳) 『方法序説』 岩波文庫 (1997) p.13より引用

私個人の意見は、本はたくさん読むべきです。読書と「考える力を身につけること」に直接関係はありません。

本を読むだけはダメです。本を読んでその内容を検証しなければ、考える力は身につきません。

本は著者の言葉を収録したものです。その中には自分がすでに知っていることも、知らないこともあります。デカルトの言う「親しく語り合う」というのは、著者の書いたことが正しいかどうか自分の頭で検証するプロセスです。

少なくとも私は読書を通じて考える力を身につけたと思えます。

読書をするにあたって、1つだけアドバイスがあります。簡単な本だけでなく難しい本にもチャレンジしてみてください。

簡単な本はすんなり頭に入りますが、読み終わった後、頭に残らない可能性もあります。その一方で難しい本を読もうとすると「何が言いたいのか?」と頭を使います。そうすることで脳に刺激がかかります。

その時はわからなくても、あとでわかるようになることがあります。

「あっ!そういうことだったのか!」という体験ができるのが読書の楽しみのひとつです。

デカルトが言うように、過去の世紀の一流の人々が残した古典にもチャレンジしてみてください。実は私たちと同じ悩みを持ち、生きていたことがわかります。

今回紹介した本

デカルト, 岩波書店, 1997
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