絵本も絵画も映画もガジェットも分業制作『ルーベンス回想』

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今回の書評は『ルーベンス回想 (ちくま学芸文庫)』です。

ルーベンス回想成分

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芸術家視点によるルーベンス作品の技術解説本

キリストの昇架
フランダースの犬でおなじみルーベンスの大作『キリストの昇架』(アントワープの大聖堂にて、2017年10月撮影)

私は美術館や博物館めぐりが好きです。

そのためベルギーに引っ越してからルーベンスの作品に興味を持ちました。ルーベンスの生涯を知りたくて本書を購入しました。

著者のブルクハルト氏によると、原著出版時(19世紀)ルーベンスの評価は決して高くなかったとのことです。しかしシェイクスピアと同時代を生きたルーベンスの絵には躍動感があり、一つ一つの作品の研究が楽しくて仕方なかったと回想しています(訳者あとがきより)。

本書は全20章からなる大作です。ルーベンスは生涯にわたり2000点以上の作品を残し、そのうち320点を本書で解説しています。

ルーベンスといえば宗教画のイメージですが、そうではないようです。銅版画や風景画、動物画など多岐にわたります。各章では構図、人の姿勢、裸体から衣装の表現方法までとても細かく説明しています。

そのため、絵画の技法を学びたい人や美大生などにとっては貴重な資料であり教材としてもすばらしいものでしょう。

ただし、伝記としては最初の3章までです。それ以降は作品の解説がメインなので、伝記として読むには難解です。本書は歴史的な説明も細かく、ルーベンスと同時代に活躍した他の画家や貴族の名前も知っている必要があります。

ルーベンスの生涯を知りたければWikipediaの解説で十分かもしれません。

外部リンク:ピーテル・パウル・ルーベンス – Wikipedia

ルーベンスの絵はどれも力強くストーリー性があります。本書では口絵と本文で合計70点の絵も収録されています。そのため作品を見るだけでも十分に楽しめます。

ルーベンスの絵も分業で描かかれていた

ルーベンスの絵は分業で描かれていたのです。これには驚きました。

キングコング・西野亮廣氏が絵本『えんとつ町のプペル』の制作で炎上しました。理由は「西野氏本人が描いてない」という点です。クリエイターを集めて映画の様に制作したかった、というのが西野氏の主張です。

もし本人が描いたもの以外認められないのであれば、同じことをルーベンスにも言えるのでしょうか?絵画はOKで絵本はNGなのでしょうか?それはおかしいでしょう。

ルーベンスの絵が分業だとわかる部分について、本書から引用させていただきます。アントワープのイエズス会教団と祭壇画の制作を契約したシーンに出てきます。

さてつぎに彼は、穹窿〔きゅうりゅう:弓形に構成した曲面天井〕の三十九枚の下絵を描いて、弟子たちに仕上げをさせるに当たってその指揮をするという契約をした。

ヤーコプ・ブルクハルト (著)、新井靖一 (翻訳)『ルーベンス回想』 ちくま学芸文庫 (2012) Kindle版位置No.453付近より引用
〔〕内は筆者注

ヨーロッパの教会では天井にも絵が描かれています。その下絵部分はルーベンスが描き、仕上げまでは弟子に描かせていたことが伺えます。

画家、プロデューサー、外交官でもあった

アントワープ王立美術館
アントワープ王立美術館にはルーベンスの作品が多数ある(2018年9月撮影時は改装工事中だった、2020年再オープン予定)

ルーベンスは下絵のみ

なぜ弟子に描かせていたのでしょうか?後進を育てるという意味もあるでしょうが、一人で仕事を回せなかったのが主な理由のようです。

ルーベンスはドイツ生まれで幼少期はドイツで育ちます。またスペインやイタリアで絵の勉強をし、晩年はベルギー・アントワープにいました。語学力と絵画の才能が認められて外交官としての仕事もするようになります。

ルーベンスも多動力の持ち主だったわけです。17世紀の話です。

当時ルーベンスのブランドはベルギーの外にも届いており、注文が絶えなかったとか(例えば、kindle版位置No.486付近など)。多数の注文をさばくには一人ではできないので、アシスタントを雇うのは自然な流れでしょう。自分の工房を持つだけでなく拡大もしたので、大所帯だったようです。

時代は違えど、絵を描くのに一人でやらないといけない理由はないのです。ルーベンスはプロデューサーでもあったのです。

今の時代でも、マンガ・アニメ・イラストの世界ではアシスタントさんがいるはずです。

少なくともドラゴンボールの鳥山明氏は、アシスタントに建物の絵を描くのをお願いしていたのを覚えています。また私がハマったマンガ『勝負師伝説哲也』や『スーパードクターK』は絵とストーリー(原案や医学的アドバイス)の担当者が分かれています。

西野氏は下絵すら描いてないという批判もあるかもしれません。しかし彼には「こういうストーリーを作りたい」という作品のイメージがあった。西野氏はプロデューサー的な立場として絵本の制作を指揮した。

西野氏がクラウドファンディングで資金を集めたのも、ルーベンスの時代なら教会の寄付金で制作するようなものでしょう。

何もおかしくありませね。

お城は誰が作ったのか問題と同じ

結局、西野氏の問題は「大阪城を作ったのは豊臣秀吉か?それとも大工か?」という問題に通じるのではないでしょうか。

誰がお城を作ったか?というのは通常「誰が建城を指揮したか?」という意味です。大工さんが建設したのは確かですが、企画や発案に関わったのではありません。

私は技術者として、『えんとつ町のプペル』は西野氏の作品と言って問題ないです。製造業で言えば「開発・設計」が原作部分に相当し、生産・製造が大工さんの部分に相当します。

iPhoneは工場の人が作ったと言いますか?スティーブ・ジョブズ氏が作ったで通るでしょう。

西野氏はあくまでも原作者という根っこに携わっています。実際に製作に関わったクリエイターさんは、映画の様にクレジットに入っていれば問題ないでしょう。

ルーベンスも契約の段階から下絵まで携わっているので原作者であり監督です。本書にはそう書かれています。

以上をまとめると下の表のようになります。あくまでも発案した側が「◯◯を作った」と言えるのです。

発案実施
お城戦国武将大工
製造業開発・設計スタッフ製造・生産スタッフ
マンガ原作者・原案者原作者とアシスタントの共同制作
映画監督・脚本家カメラ・音声ほか制作スタッフ
農業農家がすべてやる

例外は農家でしょう。農家の場合は「どの品種を作り(企画/発案)・どう作るか(栽培/実施)」が一緒になっています。だから「◯◯さんが作った野菜」となるのです。

何かを作るにはプロデュース力がまず重要である、ということです。

本書で著者がルーベンスの構成力を称賛しているのも納得できます。

今回紹介した本