ブリュッセルについにオープンした横浜家系「こくラーメン」
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横浜出身の私にとって、横浜家系ラーメンは日本で働いていた時など週 1 回は食べていたほどのソウルフードです。
ただご当地ラーメンとして全国的な知名度があるわけではありませんし、海外の人にとってなじみのあるラーメンではありません。
この記事ではブリュッセルにオープンした横浜家系ラーメン「こくラーメン (Koku Ramen) 」を紹介します。このラーメンの魅力についてたっぷりお伝えします。
2021-08-21 追記:内容を大幅更新しました。今だから言える改良秘話もお楽しみください。
横浜家系ラーメンとは何か?
トラック運転手が開発した醤油とんこつラーメン
横浜家系ラーメンとは簡単に言うとこういうラーメンです。
- 豚骨醤油スープ
- 短く太めのストレート麺
- トッピングにチャーシュー、海苔、茹でたほうれん草
上の写真はこくラーメンで提供される標準的な(追加トッピングがない)豚骨醤油ラーメンです。上記の 3 つの要素を満たしています。
味玉(味付け煮卵)はこくラーメンでは標準ですが、日本国内の横浜家系ラーメン店ではどちらかというとトッピングアイテムです。
また茹でたほうれん草は横浜家系ラーメンでは必須です。ほうれん草もお店によって個性が出ます。
クタクタに茹でてあるお店とシャキシャキ感の残るお店で分かれます。こくラーメンで出されているほうれん草の茹で加減はクタクタ具合がちょうどよくて絶品ですね。お店によってはトロトロになるまで茹でられたものもあります。
歴史的には、横浜家系ラーメンはトラックの運転手だった吉村実氏が開発したラーメンです。元祖は「吉村家(よしむらや)」で現在も横浜駅西口で営業しています。
外部リンク:家系ラーメン – Wikipedia
外部リンク:吉村家 – Wikipedia
カスタマイズして自分の味をつくれる
家系ラーメンの特長のひとつはカスタマイズが可能なことです。
トッピングによるカスタマイズもできますが、日本ではラーメン本体をこのように選択できます。
- スープの濃さ:薄め、普通、濃いめ
- 麺の硬さ:軟らかめ、普通、固め
- 油の量:少なめ、普通、多め
こくラーメンでも麺の硬さは変更できますので是非いろいろ試してみてください。
スープの濃さと油量についてはできるだけ普通で食べてみることをおすすめします。
後述しますが、このラーメンは試行錯誤を経てかなり改良されています。上の写真は 2019 年当時のものです。
こくラーメンはヨーロッパ向けに洗練された家系
初めて食べた時から「おすすめできる横浜家系ラーメン」だった
こくラーメンは 2019 年 3 月にオープン。私はどうやらオープン間もないころに来店していたようです。
以下はオープン当初提供されていたラーメンを食べた感想です。
写真で見ると、横浜家系ラーメンといっても日本の本場の物よりも相当洗練されています。麺は日本で食べる方がもう少し太いです。
日本ではもっと男の料理感が前面に出ていますが、ヨーロッパという風土なのか見た目にもこだわっているのかもしれません。
チャーシューは脂身がちゃんと乗っていておいしいです。形状にこだわるなら、日本ではもっと丸い形です。こくラーメンで提供されているチャーシューはパッと見スペアリブっぽいところはあります(食べ応えは十分あります)。
私が日本で食べるときはすべて麺やスープはすべて普通で指定し、そのお店の標準テイストを味わいます。しかしここで初めて食べたとき「スープは薄いかな?」と感じました。ヨーロッパでは豚骨系はまだまだ浸透していないので、濃いと敬遠されるかもしれません。
ただ日本人スタッフさんとお話ししたところ「スープの濃さは調整できる」とのことでした。
かつて千葉県内で食べた家系ラーメンが似ても似つかない全くの別物だったことにがっかりしたことがあります。それと比べると、こくラーメンははるかに横浜家系ラーメンと呼べるものです。
横浜出身として「ベルギーで家系ラーメン食べられるよ!」と胸を張って紹介できるものでした。
外国に出店となるとどうしてもローカルのお客様の舌に味を寄せる必要があります。まずはお客様に認知してもらい、少しずつ本場の形に修正していけばよいでしょう。
人気のトッピングトップ3
日本では先に食券を購入するお店が多いので、自分のお気に入りのトッピングもラーメンの食券と別に購入します。
こくラーメンには食券はありませんのでメニューを見て注文してください。
店主にお伺いした人気のトッピングベスト 3 を発表します。
- 味玉
- から揚げ
- チャーシュー
味玉は標準でラーメンについてくるのですが、追加したいほどの人気トッピングのようです。
味玉もから揚げもチャーシューも自家製です。
こくラーメンはできるだけ既製食品ではなく自家製にこだわっています。
私個人のおすすめトッピングはネギです。なぜなら日本で食べる家系ラーメンでよくあるトッピングだからです。
日本では辛く味付けされているネギであることが多いのですが、当店で提供されるのは普通の刻みネギです。しかしネギ本来の辛さはしっかりあるので、スープの脂をいい感じで中和してくれます。
また麺と一緒に食べると麺の歯ごたえとネギのシャキシャキ感のハーモニーが絶妙です。
私は実際に日本でもネギをよくトッピングします。野菜不足解消という意味もありますが、豚骨醤油ラーメンにネギは合うのです。
ランキング上位には入りませんでしたが、海苔を 2 枚追加すると日本で食べる横浜家系ラーメンがほぼ完成です。
もちろんこれは私の好みなので、カスタマイズして自分の一品を作ってみましょう。
人気のサイドメニュートップ3
サイドメニューも充実しています。
ローカルのお客様はサイドメニューとお酒でまずトークを楽しみ、最後にラーメンを注文します。
店主にお伺いした人気サイドメニューベスト 3 の発表です。
- から揚げ
- 羽根つき餃子
- キムチ(自家製、売り切れ御免)
から揚げはサイドメニューとしても大人気です。鶏肉のこういう料理はベルギーでもなかなかみませんからね。ジューシーな鶏肉に感動するのかもしれません。
また羽根つき餃子は羽のビジュアルが目を引くのだと考えられます。日本人からすると標準的な焼き餃子です。
意外だったのはキムチでした。店主によると「つけるのが間に合わず提供できない日もある」とのこと。それくらい人気とのことです。
日本人の私からすると「家系ラーメンにキムチ?」と思うのは自然なことでしょう。しかしローカルのお客様にとってはなかなか体験できないアジア料理の一品なのかもしれません。
欧州の人は日本人よりもはるかに辛いものが苦手です。それでも最近はチャレンジする人も多くなっているようです。
こくラーメンで提供している赤玉(辛味噌)も好評のようです。ただしローカルのお客様は「タイ料理ほど辛くないか?」と事前に確認するようです。タイ料理の辛さは耐えられないようです。
麺やスープの売り切れにご注意
売り切れ御免なのはサイドメニューだけではありません。
麺やスープも売り切れになったらその日の提供は終了になります。
から揚げ、チャーシュー、キムチだけでなく、麺も自家製で製麵機を使っています。スープにいたっては 2 日かけて作り込みます。
こくラーメンの facebook ページの投稿で「スープが売り切れですみません!」という謝罪を見かけることがあります。
金曜日や土曜日にラーメンの注文が多いと売り切れになることがあるようです。
そのため確実にラーメンを食べたければ事前に電話で確認した方が良いかもしれません。
ある日本人のお客様は麺が売り切れでもスープだけ頼み、他のサイドメニューと一緒に味わったとのことです。
スープだけでも注文したくなる。それだけこくラーメンの豚骨醬油は「本物」なのです。
店主に伺う家系ラーメン改良秘話
店主とベルギーのつながりは古く 2000 年代からです。しかし長い間日本で経営者としてずっと仕事をしてきました。
そんな店主が飲食業の経験がないのにもかかわらず「家系ラーメンで日本とベルギーのかけ橋になりたい」という想いでこくラーメンを開業しました。
「自信をもって提供できる味でないとお客様には出さない」という信念がありつつも、その裏では苦労を重ねて試行錯誤してきて今があります。
具体的にどのような試行錯誤があったのでしょうか?深く掘り下げていきましょう。
店主の熱い想いは、私がかつて「日本と台湾の交流を深めることをやりたい」と思って断念したことと重なり共感しかありませんでした。
試行錯誤で変わったものとなぜ
チャーシューはバーベキューのように炙った
上の写真はオープン当初のラーメンと 2021 年 8 月時点のラーメンを比較したものです。どちらも追加トッピングなしです。
オープン当初、ローカルのお客様はチャーシューを残す割合が高かったそうです。
不思議に思ってスタッフがなぜ残したのかお客様に尋ねたところ「脂身が無理」という結論になったのでした。
どうしたら良いか悩んだ末、ヒントになったのはバーベキューでした。
確かにバーベキューは家族だけでなく、親しい人を招待してホームパーティーなどでよくやります。
日本のカルビのような柔らかくて脂ののった肉は欧州ではなかなかみません。そのため硬い肉をカリカリに焼くスタイルのほうがローカルには自然です。
この「バーベキューでしっかり焼いた肉」にすることで完食率が上がりました。また追加トッピングしてくれるお客様も増えました。
炙ったチャーシューは歯ごたえはあるものの硬すぎず、しっかり食べることができます。
麺は少し太くなっている
麺は少し太くなっています。
現在の太さのほうが本場に近く「しっかりスープが麺にからむ」のです。
麺の太さも日々調整しながら変更していきました。
このような試行錯誤ができるのも、製麵機を自前で所有しているからです。
製麺業者とやり取りしていたら時間もお金もかかるし、ローカル業者は面倒なことは嫌がると考えられます。
猫舌は昔の話、スープも日本式に変更
最初にこくラーメンを食べた時の感想として「スープが薄いかな?」というのがありました。
このスープも変更しており、現在は日本と同じ濃さでかつ熱いスープが提供されています。
私もかつてニュースで聞いたことがあります。「ドイツ人は猫舌なので熱いスープのラーメンは敬遠される…」
しかしこれも昔の話。お客様にヒアリングを重ねた結果、無理して猫舌に合わせなくても大丈夫という結論をだしました。
現在は日本と同じでどんぶりも温めて提供しているとのことです。
スープは材料の比率を変えたり、ひと手間加えたりといった改良をしたとのことです。
ニンニクもソースタイプに変更
ニンニクも「つぶしにんにく」だったトッピングを「ガーリックソース」に変更しました。
ローカルのお客様は固形のにんにくよりもソースにした方が食べやすいから、という経緯がありました。
このガーリックソースも自家製です。白いスープにワンポイントとなる黒いソースです。
もし「なんつっ亭」をご存じであれば「黒マー油」を想像していただければわかりやすいでしょう。
にんにくを低温で揚げて香味野菜を入れた香油です。
ローカルや欧州在住日本人から必要とされる店に
オープン当初は「周りのお店はにぎわっているのにどうしてうちだけ人が少ないの?」というくらい客が入らなかった、と店主は語ってくれました。
そこでスタッフと議論を重ね、お客様にヒアリングをして 2 年、上述する形のラーメンに改良してきました。
平日はローカル客が 7 – 8 割、残りが日本人。休日は半々とのこと。
欧州では酒を飲みながらおしゃべりし、ゆっくり食事をするのが文化です。
ラーメンのような「のびておいしくなくなる」はずの料理であるにもかかわらず、日本酒やビールを飲みながらも最後までしっかりラーメンを食べて帰られるようになったとか。
ローカル常連客も増え「こくラーメンの味」を求める人も増えてきたと伺いました。
ローカルのお客様のエピソードを少しだけ紹介します。
こくラーメンで横浜家系ラーメンを知り、日本に行ってわざわざ本場の味を食べた人もいるようです。しかも「こくラーメンの味が良い」と言って戻ってきたとか。
同じ感想を言ってくれたのがひとりではなく何組もいるそうです。
このラーメンのために国境をまたいで食べに来てくれるお客様もいます。出張で EU 他国からベルギーに来た人がわざわざこくラーメンを勧められて食べて帰ることも何度もあるようです。
ここまで愛されるラーメン店を見たことがありません。
私はベルギー以外にシンガポールでも働いており、日本のラーメンを食べてきました。しかし超激戦でおいしいのが当たり前。シンガポールではこんなストーリーは語れません。
欧州全体でも横浜家系ラーメンといえば「こくラーメン」。今後、欧州の家系テイストの基準となるかもしれません。
ブリュッセルのショッピング通りから一本外れた隠れ家的なお店
お店への行き方です。私は車を持っていないので公共交通機関でのルートです。
※お店の近くにオードリー・ヘプバーンの生家があります。ついでに立ち寄られてみてはいかがでしょうか。
地下鉄の 2 番または 6 番で Porte de Namur 駅で降ります。
駅からは徒歩です。この辺りはショッピングストリートなのでにぎわっています。道なりにしばらく歩くと右手にバーガーキングが見えます。そこから少し歩いて左側に入ればお店です。
お店は教会の前にあります。ショッピングストリートから一本脇に入った隠れ家的なお店と言ってもいいでしょう。
【住所】
Rue Saint-Boniface 11, 1050 Ixelles (Google Map)
【営業時間】
月曜日—土曜日:12:00–14:00, 19:00–22:00
日曜日:定休日
横浜のソウルフードである横浜家系ラーメン(崎陽軒のシュウマイもあるけど)、ぜひブリュッセルでもお楽しみください!
外部リンク:KOKU Ramen (facebook page)
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※この記事で掲載されている各内容の詳細は店舗にて直接ご確認ください。