RingConn対アップルウォッチ生体計測データ比較レビュー
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このシリーズではスマートウォッチやスマートリングの健康管理・生体データ計測機能をレビューしています。
この記事では RingConn (リングコン)をレビューします。クラウドファンディングでかなり話題になった製品です。
結論をいうと RingConn の計測範囲が限定的である可能性が示されました。
歩数の計測は問題ありませんが、皮膚温については相関がみられませんでした。また RingConn の血中酸素の値は明らかに低めに出ました。安静時心拍数は RingConn の計測幅が広く、心拍変動は逆にアップルウォッチの方が計測幅が広いという結果になりました。
細かく分析した結果を公開します。結果だけ知りたい場合は「まとめ」だけお読みください。
レビュー方法
デバイスの装着と計測時間
上図に示すイメージでレビューを行いました。
左腕には Apple Watch (Series 8), 左手人差し指に RingConn を装着しました。
RingConn は非利き手に装着することが推奨されているためそれに従いました。
日中、夜間を通して装着しデータを取り続けました。例外としてシャワー中のバッテリー充電 (18:00 – 20:00), 毎朝の体重計測時など一部非計測の時間帯があります。
計 1 か月 (31 日間) データをとりました。
比較項目とデータ解析ツール
メーカーのアプリを使ってまずは基礎データを集計します。そして私の個人 PC にデータを手動でダウンロードしてさらに細かく分析します。
比較する項目は下記のとおりです。
- 歩数 (Steps)
- 安静時心拍数 (RHR: Resting Heart Rate)
- 心拍変動 (HRV: Heart Rate Variability)
呼吸数 (Respiratory Rate)- 血中酸素 (Oxygen Saturation, SpO2)
- 皮膚温 (Skin Temperature)
最大酸素摂取量 (VO2 Max)
外部リンク:ヘルスサイエンス | Garmin (各計測項目の正常範囲などを参考)
RingConn は最大酸素摂取量 (VO2 Max) と睡眠中の呼吸数を計測することができません。そのためこの記事ではレビューできません。
分析のメインは折れ線グラフによる日々の傾向比較です。両デバイスが同じ傾向で計測できているか確認します。
同じ傾向かどうか、統計的には正の相関があるかどうかで判断できそうです。そのため相関係数 R も計算します。
一部の項目は t 検定による平均値の比較も行います。
この記事は論文ではないので本格的な統計処理はやりません。しかし簡易分析でも「両デバイスに有意な(計測の)差があるか」、「日々の計測が安定しているかどうか」といったことが t 検定でわかります。
どちらの計測精度が良いか、といった評価ではなく製品ごとのクセを明確にしたいと思います。
計測精度の観点でいえば、アップルウォッチの精度は良いはずです。アップルウォッチは医療機器認証(心電図のみ)を取得しています。
データの扱い方や解析の補足説明についてはまとめページの項目を参照願います。
グラフによる傾向比較結果
歩数
上図は歩数の比較結果です。
アップルウォッチ、 RingConn ともに日々の歩数の値が相関しています。
相関係数 R = 0.996 も一般的には高い値であり(正の)相関の高さを裏付けています。
21 日目, 22 日目は旅行で 2 万歩以上歩きました。これらの歩数も似た値となりました。
歩数は一歩単位で正確に測るのは難しいです。そのため多少の値の差は問題ないと判断します。
安静時心拍数
上図は安静時心拍数の比較結果です。
安静時心拍数は次の心拍変動とともにストレスレベルの参考になる値です。値は低い方がストレスレベルが低いと考えられています。
アップルウォッチと比べると RingConn のほうが全体的に計測値は高いでしょうか?もしそうだとすると RingConn は私のストレスレベルが高めだと判断していることになります。
相関係数 R = 0.204 なので相関があるとはいえません。両デバイスが同じ傾向で計測しているとは言いにくい結果となっています。
この後の統計解析も含めて総合的に判断しましょう。
心拍変動
上図は心拍変動の比較結果です。
アップルウォッチの計測値は全体的に振れ幅が広く、 RingConn はその中間値を示している感じですね。
相関係数 R = 0.232 は相関があるとはいえない値でした。
心拍変動はストレス状態を表す重要な値です。一般的には値が高いほどストレスレベルが低く、値が低いほどストレスを受けている可能性があります。
アップルウォッチはストレスレベルの高い/低いがとはっきり出る、一方 RingConn はストレスレベルの変化がハッキリとは検知できないかもしれません。
血中酸素
上図は睡眠中の血中酸素の比較結果です。
RingConn はアップルウォッチよりも計測値が明らかに低い結果となりました。
相関係数 R = -0.043 は相関がほぼありません。
両デバイスが同じように計測しているとはいえません。
しいて違いを指摘するなら、夜間の血中酸素の計測回数やタイミングがアップルウォッチと RingConn で違います。
計測したタイミングによって結果が変わる可能性については否定できません。難しいですね。
皮膚温
上図は皮膚温の比較結果です。
ところどころプラスマイナスが逆になっている日があります。
相関係数 R = 0.202 は相関があるとはいえません。
つまり両デバイスで同じように計測できているか疑問に残る結果となりました。
アップルウォッチと RingConn どちらもベースラインの皮膚温がわかるためこちらも比較してみました。
相関係数 R = 0.040 で無相関でした。比較の結果、同じような傾向で皮膚温を計測していません。
計測期間の前半は割と似た傾向の計測値を示しているのですが、後半はバラバラです。この違いがなぜ起きたのかはわかりません。
少なくとも計測箇所が手首と指で違うので違う結果になったと考えるのが自然でしょうか。
統計処理の結果
難しい話になるので結果だけ知りたい人はここを飛ばして最後の「まとめ」をお読みください。
歩数
上図は歩数の t 検定の結果です。上図は箱ひげ図と呼ばれています。
結論だけ言うと、平均値に統計的な差はみられませんでした。
黒いダイアモンド形の点は「外れ値」と呼ばれます。平均に対して著しく離れている値です。
旅行でたくさん歩いた日の値が外れ値判定されました。いつもよりもたくさん歩いたのであって健康上の問題があるわけではありません。
以上、両デバイスに大きな相違はなく同じように歩数は計測できる、といえるでしょう。
安静時心拍数
上図は安静時心拍数の t 検定の結果です。
平均値に統計的な有意差が認められました。 p < 0.05 は乱暴に言えば「この差が偶然起きた確率は 5 % 未満」です。
平均値に違いがあるとはいうものの、 RingConn の計測値の範囲が広く、アップルウォッチの計測値をカバーしています。
また両デバイスとも上側に外れ値があります。極端にストレスフリーな日があったのでしょう。そうであれば嬉しいのですが記憶にありません。
どちらの計測結果が良いか判断はできません。ただし RingConn の方がアップルウォッチよりも幅広く計測しているといえます。
この傾向はこれまでレビューしてきたデバイスにはありませんでした。
心拍変動
上図は心拍変動の t 検定の結果です。
平均値に統計的な有意差が認められました。 p < 0.01 は乱暴に言えば「この差が偶然起きた確率は 1 % 未満」です。
安静時心拍数とは逆で、心拍変動はアップルウォッチの計測値が RingConn の計測値をカバーしている結果となりました。
RingConn は幅が狭くかつ外れ値が下にでる結果となりました。心拍変動だけで考えると RingConn はストレスレベルを高めに検出する可能性があります。
他のデバイスをレビューしても今回と似たような傾向にあります。この結果は心拍センサーの違いでしょうか?
心拍変動は数十ミリ秒の違いを計測しています。アップルウォッチの方が高価なセンサーを使っている可能性が考えられます。
血中酸素
上図は血中酸素の t 検定の結果です。
この結果も平均値に統計的な有意差が認められました。 p < 0.001 は乱暴に言えば「この差が偶然起きた確率は 0.1 % 未満」です。
傾向分析で示したように、 RingConn の夜間の血中酸素の平均値はアップルウォッチよりも明らかに低く計測することが統計的にもわかりました。
皮膚温
上図は皮膚温の t 検定の結果です。
通常、皮膚温に対して統計分析はできません。しかし今回は特別にベースラインの値を使って比較してみました。
この結果も平均値に統計的な有意差が認められました。 p < 0.001 は乱暴に言えば「この差が偶然起きた確率は 0.1 % 未満」です。
どちらもベースラインは 35 度台です。わずかな差ですが、統計的には計測結果に違いがあるとはっきり出ました。
RingConn は外れ値が上下にありかつ幅が狭いです。つまり皮膚温の計測範囲が限定的といえるかもしれません。
手首と指で計測している違いがはっきり出ているといえるでしょう。ただどちらの計測結果が正しいかはわかりません。
皮膚と密着している指輪型の方が原理的には細かい皮膚温計測ができているはずです。
まとめ
RingConn で健康管理できそうな決定的なメリットを見つけることはできませんでした。細かい計測を求めるのであればアップルウォッチをおすすめします。
一方、 Oura Ring と RingConn を比較した場合は RingConn もありです。睡眠はどちらも正確に計測できていませんが、心拍数や血中酸素の測定については RingConn でも良さそうです。
そうはいっても RingConn は現時点で呼吸数を計測できません。スタートアップによる開発は大変でしょうが今後の改善を期待したいです。
この記事をまとめましょう。
- 歩数:日々の傾向の比較では高い相関係数 R = 0.996 で相関しており、 21 日目、 22 日目の特別なケースも似た値であった。 t 検定による平均値の比較では統計的な差は見られず、両デバイス間で歩数の計測に大きな相違はなかった。
- 安静時心拍数:日々の傾向の比較で相関係数 R = 0.204 と相関が認められず、同じ傾向で計測しているとは言えなかった。 t 検定による平均値の比較では統計的な有意差が認められ、 RingConn の方が幅広く計測していた。
- 心拍変動:日々の傾向では相関係数 R = 0.232 で相関は認められなかった。 t 検定による平均値の比較で有意差が確認され、アップルウォッチの計測値が幅広く RingConn の計測値をカバーする結果だった。 RingConn のストレスレベル検出は高めな可能性が示された。
- 血中酸素:日々の傾向の比較で RingConn の計測値が明らかに低く、相関係数 R = -0.043 で相関は認められなかった。 t 検定による平均値の比較でも RingConn がアップルウォッチよりも低く計測する結果であり、統計的に有意な差が確認された。
- 皮膚温:日々の傾向の比較では、温度差について相関係数 R = 0.202 とほぼ相関がなく、ベースラインの皮膚温も無相関であった。 t 検定の結果、平均値に統計的な有意差が認められ、計測結果の違いが明確であった。 RingConn は計測範囲が限定的である可能性があり、また計測箇所の違い(手首と指)が結果に影響した可能性もある。
関連記事:RingConn vs Fitbit 「睡眠の質」表示比較レビュー
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※このレビューは 2023 年 7 月に行いました。最新ソフトではこの記事で書かれた内容と相違があるかもしれません。
※このレビューではアプリは iPhone 版を主に使用しました。 Android 版でも大きな違いはないと想定してレビューしました。
※レビュー時点での RingConn Firmware Version: FR01.039
※この記事のデータ測定結果は診断結果ではありません。データを過信せず不調を感じた際にはかかりつけ医に相談してください。