英語習得物語 第2話:英語洋書多読との出会い
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この本なくして私の英語学習なし
私が英語を学習するうえで、避けて通れない運命の出会い?というか、大いに助けられた本を紹介しつつ、私の英語学習記録を振り返りましょう。
私が 20 歳で TOEIC を初受験したちょうどそのころ、この本を手にしました。向山淳子、向山貴彦著 『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』 幻冬舎 (2001) でした。
この本は当時ブームになり、テレビでも取り上げられた記憶があります。
著者の向山淳子先生自身も英語でご苦労されたというお話し、そして必要最小限の文法を絵で解説されてたのが印象に残っています。その中で特に忘れられない部分を同書から引用させていただきます。
私の周りにいる英語が「できる」人というのは、例外なく英語の文章をたくさん読んでいる人です。そして、ある程度文法も知っている人です。
たくさんの英文を読むことが英語力の土台になる、というのが向山先生のお話です。同書には書きおろしの簡単な英語のストーリーがあり、それは当時の私の英語力でも楽しく読めるものでした。
巻末にはさらに読みたい人向けの洋書リストがありました。しかし、どれも当時の自分にはレベルが高すぎて、手が出ませんでした。そのため、英語とは再び距離を置きました。
洋書を楽しく読めた「プチ成功体験」
次は大学院生時代になります。博士課程の大学院生だった私は英語が苦手なままでした。しかし、めちゃくちゃながらも英語で書いた論文(第3話)はアメリカのある国際会議(学会)の審査に通ったのです。審査が通った論文は現地でプレゼンしないと採用取り消しやブラックリスト入り(追放)となります。
なんとかそれまでに少しでも英語力を身につけたい、という思いで何かいい勉強法はないかと書店をめぐりました。そこで偶然なのか、この本を見つけました。酒井邦秀著 『快読 100 万語!ペーパーバックへの道 (ちくま学芸文庫)』 筑摩書房 (2002) でした。
その場でこの本を購入して、家に帰ってからこの本を一気に読みました。そして「これだ!」と確信しました。
学生たちに簡単な本でもいいからたくさん読ませることで、読書の楽しさを体感しつつ英語を学習し、学生たちの語学力アップに貢献できたことが同書には書かれていました。レベル別の洋書がシリーズで紹介され、解説もとても丁寧でした。
さらに、多読を始めようというタイミングでこの本も出版されました。
このガイドに掲載されている洋書の数は 1 万冊と圧倒的なのが特長です。ただし、各タイトルの解説や書評はそれほど詳しくはありません。それでも私にとっては貴重なデータベースで、この本を羅針盤として洋書を入手して読むことにしました。
これは「辞書を引かない、わからない個所は飛ばす、つまらなければ読むのをやめる」という原則にしたがってたくさんの洋書を読む英語学習法 (SSS) です。洋書を楽しく読みながら英語を勉強するというのがポイントです。
私は手始めに簡単な洋書のセットを通販で購入しました。中に入っていたのは、絵本や 200 語(日本語で言う文字数に相当)で構成された薄い本でした。
このセットに入っていた、今でも忘れられない洋書があります。それは Roderick W. Smith 著 “The Long Road” Penguin Readers Pearson ESL (2003) でした。
実話がベースのストーリーです。がんで片足を失ってしまった 18 歳の少年テリーは、がん研究のチャリティー企画を提案し、カナダ横断マラソンを義足で走るという話です。この本を読んで衝撃を受けました。中学レベルの単語だけでこんなに感動するストーリーが読める(書ける)という体験でした。
この洋書は GR (Graded Readers) と呼ばれる、英語学習者向けに用意された読み物シリーズの一冊です。使用する単語が制限されている中で著者はストーリーを書かないといけません。例えば Level 0 のシリーズでは 200 単語(ここでは文字数の意味ではない)、 Level 6 で 3000 単語という制限により、読む側の負担をできるだけ少なくしてます。このような洋書シリーズの詳細は先に紹介した二冊の本に詳しいので、本書での紹介はここまでとさせていただきます。
たとえ薄い本でも一冊は一冊です。自分の持つ少ないボキャブラリーでも英語で書かれたストーリーが読めたという「プチ成功体験」。これがもっと洋書を読みたいというモチベーションになりました。
どうやって洋書を入手するか?
先ほどの洋書セットが全て読み終わったら、次の洋書を読まないと多読にはなりません。多読でネックになるのはこういった本の入手です。
私が実際に入手した方法を以下に紹介します。
1. 本を購入する
どうしてもお金はかかりますし、紙の本であれば読了後の本の扱い(本棚にしまうか、処分するか)の問題があります。ただ 2005 年当時の私が一番利用した方法です。本書の執筆時点では下記の手段で入手できます。
- 大型書店の洋書コーナーを利用する。
- 通販を利用する。
- 洋書を扱っている古本屋を利用する。
- kindleなどの電子書籍サービスを利用する。
2. 図書館や貸本サービスを利用する
無料もしくは低価格で本を読んで、かつ読了後は返却するので本の扱いに困りません。ただし利用できる場所は限られるので、自宅や職場の近くでそういった場所を探す大変さがあります。
3. 無料サービスを利用する
青空文庫のような無料で読めるコンテンツの英語版サービスを利用するのも1つの方法です。私が大学院生の頃はまだスマートフォンが無かったので、インターネットで無料コンテンツにアクセスする環境は限られていました。しかし、今後はこれが主流になってほしいというのが私の本音です。
- Project Gutenberg http://www.gutenberg.org/
- The Free Library http://www.thefreelibrary.com/
- Many Books http://manybooks.net/
- Free Kids Books http://freekidsbooks.org/
- Loyal Books http://loyalbooks.com/(アプリあり)
- Freechildrenstories.com https://www.freechildrenstories.com/
関連記事:Free Kids Booksの無料英語絵本で洋書多読に慣れよう【初心者入門】
大学院生の時に多読を始めたのは本当に幸運でした。当時大学図書館では本を最大 30 冊まで、 2 週間借りることができました。しかも時期は夏休みでしたので、研究する時間だけでなく、本を読む時間も十分ありました。借りられる 30 冊の内、 10 冊は研究に必要な本、残りの 20 冊で洋書を借りました。
先述したブックガイドにあるリストの本を片っ端から借りて読みました。ある日、私が図書館のカウンターで山積みの洋書を借りているところを他の学生が見て「すげ~…(小声)」と言っていたのが聞こえたこともあります。
夏休み中に洋書100冊読破!
結局その年の夏休みで 100 冊(約 30 万語)の洋書を読むことができました。これが私の英語学習において大きな第一歩になったのは間違いありません。
夏休み後に 20 歳以来初めて (4 年ぶりに) TOEIC を受験しました。その時多読は約 43 万語に到達していました。 TOEIC の結果は 385 点 (L235/R150) でした。この頃もまだ TOEIC 対策はやってませんし、まだまだ低いスコアとはいっても初受験の 245 点に比べたら天と地の差です。その後も定期的に TOEIC を受験しますが、それはあくまでも自分の英語力を確認するためでした。
多読の一番の効果は直接の英語力向上よりも、英語に対する苦手意識の改善です。それまでは英文に対する拒絶反応があったのに、それが無くなりました。食べ物の食わず嫌いや偏食が改善されるように、英語に対する食わず嫌いがなくなるのが何よりの効果です。
何冊読めば多読は卒業か?
先に述べたように、私にとっての「多読プチ成功体験」はその後の英語学習のモチベーション維持にとても役立ちました。その反面、この成功体験から抜け出すことができなくなってしまいました。
酒井先生の著書にあるように、私もまずは 100 万語を多読学習の目標としました。たとえ本業の研究をしながらとはいえ、 100 万語達成に 1 年半費やしました。当時を振り返ればもっと効率的にできたと思います。最終的にこの多読記録は約 9 年続け、トータル 500 冊、 500 万語となりました。
これは単に記録のための多読学習の「止め時」がわからなかったのです。 500 万語も記録をつけて読む必要はありません。これだけ読書する時間と本を入手するお金があるなら、他の学習法(音読など)をやった方がよっぽど効率的です。多読は基礎学習としてはおすすめですが、これだけで英語学習は完結しません。
私が最初に読んだ、英語学習者向けの洋書は多読学習としては最適です。それらの本は簡単な単語で構成されているだけでなく、文法にも忠実です。むしろそれが原因で、ネイティブが実際に読むレベルの文章に対する免疫がなかったのです。ペーパーバックはおろか児童書(チャーリーとチョコレート工場の原作など)を読むのにも時間がかかってしまいました。
多読学習の止め時は、初級のペーパーバックが読めるようになった頃です。複数の作家のペーパーバックが何冊か読めるようになれば十分卒業です。その多読学習の土台から実際に英語を使いたい分野(技術、会計、法律、それとも小説?)の実践に移られた方が良いでしょう。どのみち英語に触れるうちは読むという行為が発生します。
私がお勧めの児童書とペーパーバックの作家は Roald Dahl, Sidney Sheldon, Louis Sachar です。これらの著者の代表作を数冊読んで合計10冊ほど読めればもう多読は卒業です!そこから本格的なペーパーバックを読みたい方は、記録をとる/とらないにかかわらず続けても問題ありません。
興味のある英文に触れることがモチベーションの維持になり、英語力向上の近道です。私は元々そこまで小説に興味が無かったので時間がかかったのだと思います。自粛する必要はありません。興味のある内容が実用的な英語であれば、無理にペーパーバックをこれ以上読む必要はありません。
※多読の効果的な学習方法について、さらに詳しく解説した記事を公開しました。こちらも併せてご覧ください。