海外でも残業はあるけど日本と何が違う?3か国就労経験を比較
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日本の労働時間は世界的に長いと言われ、よくドイツと比較して議論されます。果たして本当でしょうか?
この記事では私が実際に現地採用として働いた 3 か国(日本・ベルギー・シンガポール)の労働条件を比較します。あくまでも私個人の経験をベースにした残業事情となっている点をご了承ください。
残業への対価という視点から比較してみましょう。私が実際に各国で残業した際に得られたものを図にしました。
日本の雇用制度をおさらい
比較のために、日本の法律(労働基準法)を簡単におさらいしましょう。
日本の労働時間は週 40 時間、 1 日 8 時間です。それ以上の労働には割り増し賃金(いわゆる残業代)を会社は支払う必要があります。比較をシンプルにするため、36協定については扱いません。
代休は会社の就業規則に沿って取得可能です。ただ代休をとっても会社は残業時間分の割増賃金を支払う必要があります。残業時間分を代休に当てる替わりに、割増賃金を支払わないのは違法です。
つまり、日本の残業への対価は「お金」です。
ところがこの残業代も、高度プロフェッショナル制度(高プロ)が成立・導入すれば支払われなくなる可能性があります。その危機感から様々な専門家が意見を交わしています。
有給休暇(以下、有休とする)は勤続年数に比例し、年10日から20日です。私も経験しましたが、日本では有休を使うと嫌味を言われるような労働環境でした。
ベルギーの残業の対価はお金か代休だが、実態としては代休
ローカル社員も必要なら積極的に残業する
ベルギーではローカル社員は残業をしないのでしょうか?
答えは NO です。
残業はします。ただし、残業時間分は後日代休や振り替え休日として取得します。
どうして代休を取得できるのでしょうか?ベルギーの法律では残業代を支払うか、代休を与えることになっています。実際には代休にするケースがほとんどです。
残業代を支払うのであれば、ベルギーの法律では残業時間に対して 50 % の割増賃金を支払う必要があります。休日出勤の場合、割増賃金は 100 % です。これは残業時の時間給が平日は 1.5 倍、休日は 2 倍になるということです。
しかし、ベルギーは税金が高いです。所得税と社会保障で給与額の40%近くが源泉徴収されます。このような制度で、進んで割増料金を支払いたい会社はどれくらいあるのでしょうか?
関連記事:ベルギーで就労した際の給料明細の見方と税金・社会保障
会社も従業員も、残業代にメリットを感じません。残業代も税金で持っていかれるくらいなら、代休をもらって自由時間をもらったほうが良いと考えます。
もちろん従業員全員が残業をするわけではありません。終業時刻になったらすぐ帰宅する人がいる一方、誰かに言われなくても自ら残業をしている社員もいます。夜 10 時以降もオフィスに残っている人を見たこともあります。
つまり、ベルギーの平社員でも必要ならば責任感を持って残業するのです。ましてや管理職クラスの人は就業時間を無視してバリバリ働いています。ベルギー人が電車の中でノート PC を広げて書類を作成している光景は何度も見ています。
その代わりに、スケジュールを調整して上司の同意があれば、みんな堂々と代休を取得できます。私の会社のメールボックスには、このようなメッセージが届きます。イメージとして紹介します。
Dear,
I will need to use 3h of flextime tomorrow afternoon to take my car to the periodic inspection.
I will leave the office around 14h30.
【和訳例】
皆様
明日の午後、車を定期点検に出すため 3 時間の代休を取得します。
明日は 14:30 ごろに職場を出ます。
このメッセージでは、車の点検で明日の午後半休を取得するということを同僚に事前に伝えています。このほかにも、引越し先の住居を下見する、ガレージの修理をするなどの理由で代休(上記のメールにある flextime )を取得します。
このように、制度上は残業代を支払うこともできますが、実際には会社は残業代を支払わずに代休として処理します。
ヨーロッパで働けば毎日残業時間ゼロというのは幻想です。
ただし、残業時間分代休を取るので、トータルでは残業は無かったとみなせます。
少なくとも私が働いているベルギーの会社はメーカーなので、開発や設計・テストなどに締め切りがあります。その締め切りを守ろうと残業して頑張っている人たちが一定数いるのです。
ヨーロッパのライフワークバランスとは「働くときは働く、休むときは休む」といったメリハリのある柔軟な労働環境なのです。
就業時間も変則的
ベルギーの労働時間は週 38 時間、 1 日 8 時間です。月曜日から金曜日まで 1 日 8 時間・週 5 日勤務をすると週 40 時間。あれ? 2 時間オーバーで計算が合いませんね。
これはどういうことかというと、会社によって労働時間が異なります。実はベルギーの法律では週 40 時間となっていますが、政府は週 38 時間に減らすよう勧告しています。
外部リンク: Working hours and rest periods – FPS ELSD (英語によるベルギーの雇用制度解説) http://www.employment.belgium.be/defaultTab.aspx?id=38255リンク切れ
実例として、私が勤務しているベルギーの会社の就業時間はこのようになっています。
- 月曜日、火曜日、木曜日 → 8 時間
- 水曜日 → 7.5 時間
- 金曜日 → 7 時間
- 週合計 → 38.5 時間
フレックスタイム制なので出勤と退勤の時間帯には幅があり、その範囲内であれば自由に出勤できます。ただ海外との打ち合わせも多く、時差の関係で必ずしもその通りに就業できるとは限りません。
早朝や夜間の労働も法律上では規制されていますが、実際には残業をしていることはここまで説明したとおりです。
ちなみに私は外部社員(常駐)なので労働時間は異なります。
- 就業時間は 9:30 – 18:00 の 8.5 時間
- 昼食休憩 1 時間を引いて 1 日 7.5 時間労働
- 週 5 日勤務なので週 37.5 時間労働(土日休み)
実際にはタイムカードが無いので、 1 日 7.5 時間勤務を自己申告で守れば出勤/退勤時間を変更することもできます。また他のローカル社員と同じく、残業すれば代休を取れます。
私が就労した 3 か国の中で一番就業規則がゆるいです。
有給休暇はすぐにはもらえない
有休は 20 日付与されますが、すぐもえらえず 1 年間勤め上げる必要があります。試用期間は法律上最大 12 ヶ月で会社により異なり、私自身の雇用契約も同じく 12 ヶ月です。この試用期間をきちんと勤め続けてやっともらえます。
ただ日本のように勤続年数に比例しません。誰でも 20 日です。
※先ほどのリンクでは、 12 ヶ月勤続後に最小 24 日の有休を付与するか、最大4週間の休みを与えるとあります。具体的な日数は会社により異なるかもしれません。
有休の有効期間は 1 月 1 日から 12 月 31 日で日本と同じです。 1 月 1 日入社はほぼありえないので、ほとんどの人は試用期間直後の有休は日割り計算で付与されます。試用期間が終わった次の年から 20 日フルでもらえます。
ただこのルールには不満もあるのでしょう。試用期間中でも数日の有休を特別に付与する会社はあります。またベルギー国内での転職の場合、前に勤務していた会社の有休残数を引き継げるルールもあります。私はシンガポールからの転職なので、もちろんありませんでした。
病気の場合は医師の証明書があれば有休と別に休める
病欠の場合は、医師の証明書(何日間休むべきという医師のサインつきの診断書)をもらえば有休を使わずに休むことができます。私は先日 1 週間休んでしまいましたが、医師の証明書を提出して休ませてもらいました。
医師の証明書があれば病欠で休んでも給料は下がりません。
ただし、病欠になるケースは日本と比較して少ないでしょう。ベルギーは「夏カラカラ、冬は湿度がある」という気候で、日本のように風邪やインフルエンザが猛威を振るう確率は低いです。
ベルギーは有休の取得を義務付けられていますし、前日の就労から 11 時間空けないと次の業務はできないルールもあります。
このように、ベルギーでは労働した後はしっかり休む、という考えが浸透しています。ヨーロッパスタイルにあこがれるのも無理はありません。
シンガポールでは残業代も代休もなかった
残業代は一定給与を超えると出ない
シンガポールで働いていた頃は残業代も代休もありませんでした。
雇用契約についてシンガポールの法律はどうなのか、順にお話しましょう。
シンガポールの法律 (Employment Act) では就業時間はこのように定められています。
- 週 44 時間、 1 日 9 時間(週 5 日勤務以下の場合)
- 週 44 時間、 1 日 8 時間(週 6 日以上勤務の場合)
外部リンク:Employment practices | Ministry of Manpower Singapore(英語によるシンガポール人の雇用制度の解説)
この時間を超えると残業になります。残業代については、給与月額がある金額を超える場合は法律による残業代の支払い義務はありません。この基準はホワイトカラーとブルーカラーで分かれます。
- ホワイトカラー (non-workmen): S$2,500 (約 20 万円)
- ブルーカラー (workmen): S$4,500 (約 36 万円)
上記の金額を超える月給をもらっている場合、会社は残業代を払う義務はありません。
このルールは日本の高プロやホワイトカラーエグゼンプション(頭脳労働者脱時間給制度)、裁量労働制、残業代ゼロ法に相当します。
シンガポールは実力・経験・成果主義的な労働文化ですので、早くからこの制度が導入されているのでしょう。制度や法律の成立背景は私の専門ではないため、これ以上詳しいことはわかりません。
私はホワイトカラーでかつ上記の月給額を超えていました(逆に S$2,500 の月給では就労ビザは出ない)。そのため法律上の残業代の支払いはなく、かつ会社との契約でも支払いはありませんでした。
ただし、 Management Allowance という手当ては毎月ありました。この手当ての金額の範囲内で残業をうまく管理しなさい、という意味だったと考えています。
ブルーカラー(肉体労働者)の上限は S$4,500 と高いですが、そもそもこんな高給はもらえないはずです。私の経験談をひとつ紹介します。
あるバングラディッシュ人の男性は、建設現場の労働者で月給 S$750 と私に教えてくれました。この給与では家賃すら払えないはずなので、社宅を他の社員とシェアしているのでしょう。
それでも彼は目を輝かせて熱く語りました「この給料から両親に仕送りをしている。両親には感謝している。君は両親を尊敬しているか?」。
代休はもらえなくても有休は使えた
今回この記事の執筆にあたり法律の原文を読んでみたところ、パート IV, 第 37 条 (4) に代休を取得できる記述を見つけました。ただし、これらは政府関係の仕事に従事している人を対象としているようです。
外部リンク:Employment Act – Singapore Statutes Online(シンガポール雇用法の原文、第37条の部分へのリンク)
法律だけでなく当時の雇用契約はどうだったのか、改めて雇用契約書を見直しました。しかしやはり代休については書かれていませんでした。雇用契約書に書かれていたことは、就業時間をずらしたければ交渉可能、という記述でした。
このように残業代無し、代休無しのシンガポール就労でした。
しかしそれでも、有休を全て使い切ることはできました。そもそも日本のように有休を使って文句を言われるような雰囲気はありませんでした(当然の権利です)。
年次有休は 16 日、病欠は 14 日(ベルギーと同じで医師の証明書があれば有給で休める)、実質的に日本よりも多く休むことができました。有休の付与日数もベルギーと同じで、一定期間働けば勤続年数に関係なく 16 日です。
私の就労体験
私が当時入社したメーカーの製品は不具合とクレームが頻発し、入社間もない時期から残業で対応に追われました。1年半にわたり設計改善の提案、部品の選び直し、図面修正と承認、改善策に問題ないことを確認するためのテスト、国際規格に適合しているか交渉、各部署への根回しなどを行った結果、残業をしなくても業務ができる状態になりました。
しかしその直後、会社のアナウンスで「業績が悪くボーナスが払えない」と言われました。残業代なし、代休なし、ボーナスまでカット、つまり「がんばって成果を出しても見返りは少ない」という結果になりました。
私がシンガポールで働いていた会社の勤務条件はこのようになっていました。
- 週 5 日勤務(土日休み)
- 就業時間 8:00 – 17:30 固定( 9 時間 30 分、休憩時間含む)
- 昼食休憩は 45 分、午前と午後にそれぞれ 20 分の休憩あり
私の勤務していた開発センターは工場を併設していたため、工場で働く人に合わせた勤務体系でした。私自身は昼食時以外休憩しなかったため 1 日約 9 時間、さらに残業をしたので一日の勤務時間は長く感じていました。
シンガポールという異国の地で技術者として働くことに最初は大きな喜びを感じました。ただ理想と現実のギャップに悩み、頑張っても報われない気持ちから次第にモチベーションは下がりました。考えた末、他の地域でもチャレンジしようとベルギーの会社に転職しました。
シンガポールは失業率が 2 % 台なので仕事はあります。いやなら辞めてもっと条件の良い会社に転職すればよいのです。
実際、先輩エンジニアは次々と辞めていき、 1 年後に私は先輩格のチームリーダーになりました。私はシンガポールにある外資系企業に転職しようと応募してみましたが、まったくダメでした。
日本は祝日が多く一斉に休み、外国は祝日が少なく個別に休む
日本の休みは分散・一斉型、ベルギーやシンガポールの休みは集中・個別型といえます。
なぜでしょうか?
有休以外の休みとしては祝日があります。次の表は 2018 年の祝日の日数を日本、ベルギー、シンガポールで比較しました。
【注意】
- 各国とも 2018 年のカレンダーに基づく
- ハッピーマンデーなどの振り替え休日を除く
- ベルギーはブリュッセル首都圏地域の祝日を採用する(連邦制で地域別に独自の祝日があるため)
日本は年 16 日あるのに対して、ベルギーとシンガポールはともに年 11 日しかありません。
シンガポールは祝日の無い月が 4 つ、ベルギーは 5 つ(年の半分近く)あります。一方日本は 6 月を除いて祝日はほぼ毎月あります。
日本は本当に休みが少ないのでしょうか?
ヨーロッパで夏休みに3週間休めるのは、日本のように祝日が少なく、かつ大型連休がないので有休を自分の意思でまとめて取得するからです。
ベルギーの一般家庭では、子供の夏休みに合わせて長期休暇を取ってバカンスに行きます。外国人労働者はクリスマスと年末年始の休みに有休を足して、少しでも長く帰省します。シンガポールでは旧正月が連休になるので、それに有休を足して長めに帰省します。
少ない祝日と有休(+代休)を組み合わせて長期の休みをまとめて取得するのです。それ以外はきちんと出勤します。
日本はどうでしょうか?ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始、最近は秋のシルバーウィークなど大型連休が年に何度もあります。日本は他国よりも多めの祝日を各月に均等割り付けしており、その間に一斉に休むスタイルになっています。
以上、日本の休みは分散型、ベルギーやシンガポールの休みは集中型、と言えるでしょう。
まとめ
ここまで解説した各国の雇用制度を整理すると下表のようになります。
この記事をまとめましょう。
- ベルギーでも残業はある、ただし残業代よりも代休でバランスをとる。
- シンガポールでは残業代も代休もなく、完全に裁量制となっている。
- 日本の祝日は多いが分散しており一斉に休む、ベルギーやシンガポールは祝日が少ないため個別に有休を使ってまとまった休みをとる
参考文献
※この記事は 2018 年 6 月 1 日時点の情報を基に作成しました。
※この記事は正規雇用従業員のケースで比較しました。非正規社員やパートタイム、自営業者のケースはこの記事には含まれていません。