留学を考えている人へ:英語習得なら正規?語学留学?誤解を検証

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留学の種類と違い

英語を習得するならアメリカなどのネイティブの国に住むのが効率良い。そう考えるのが自然でしょう。私の持論は、英語は日本で学習する方がコスパが良いとすでに解説しています。しかしそれでも留学に対するあこがれを捨てきれない人も多いはずです。

この記事では留学についての知識をまとめたいと思います。そもそも留学にも正規留学と語学留学の 2 種類があることをきちんと整理しましょう。そうしないとせっかくの貴重なお金や時間を無駄にしてしまうかもしれません。決断するならきちんと知識を得た上でして欲しいからです。

ちなみにこの記事では英語に特化して説明します。他の言語(フランス語やイタリア語)でも言葉を置き換えれば考え方は同じです。

正規留学と語学留学の違いを正しく認識しよう

もう一度、まずは留学に種類があることを整理しましょう。

  • 正規留学:アメリカやカナダなど、その国の高校や大学に入学して専門科目を勉強すること。ゴールは卒業。
  • 語学留学:英語力の向上を目的として外国にある語学学校に通うこと。ゴールは卒業ではなく、英検などの語学系資格の取得や TOEIC/TOEFL スコアアップ

このように上のふたつは違います。はっきりさせましょう。

語学留学は基本的に「言語」だけを勉強します。私はフィリピン・セブ島に 1 か月語学留学をした際、ビジネス英会話コースを選択しました。そのため MBA でやるような学習をしたと思われるかもしれません。

しかしビジネス英会話は専門教育ではありません。ビジネスで使いそうな英語表現を学ぶのです。あくまでも英語を学ぶのが語学留学です。結果的に英語力が上がれば、語学学校の卒業証書は重要ではありません。

一方、正規留学は「専門科目」を学ぶのです。技術、法律、経済、会計、医学などの専門教育を「英語またはその国の言葉」で受けるのが正規留学です。英語はできる前提ですし、卒業するまで頑張るべきです。海外の大学卒業がキャリアにプラスになる(自信になる)のは事実です。

したがって、英語を学びたければ正規留学をする必要はありません。語学留学で十分です。

関連記事:第12話:~そしてフィリピン・セブ島留学へ~(私が語学留学したときの話、良いことも悪いことも全部書きました)

正規留学して英語を学ぶべき?留学エージェントの誘惑に注意

日本には留学エージェントがたくさんあり、留学についての質問や相談が多数寄せられているでしょう。ここでは私がフィリピンに語学留学した経験や、海外で働いた経験から留学へのアドバイスをさせていただきます。

英語で何かを学びたい→日本語の方が効率的

私も実際に相談を受けたことがある内容です。「英語で何かを学びたい」という相談内容でした。

私の答えはシンプルです。「日本語で学べるものは日本語で学んだ方が速い」です。

正規留学で「専門も英語も習得したい」と一石二鳥にしたい気持ちはわかります。しかし残念ながら一定レベル以上の英語力がない人には授業についていくのは大変でしょう。挫折の原因になります。

ましてやアメリカの大学は成績が悪いと卒業できません。日本のように代返して授業をさぼり、最後にレポートを提出して単位をもらえるような世界ではないはずです。

私は正規留学を経験していないので推測も入ります。「いい加減なことを言うな」というご指摘もあるでしょう。しかし私自身は英語で仕事を始めた当初、やはり同僚の言うことを理解するのが大変でした。慣れるまで最低半年はかかります。

ある本から引用させていただきます。 15 年以上前に読んだときはそうでもありませんでしたが、海外で働いき始めてからはよくわかります。

いくら若かったとはいえ、この考えがあまりにも甘かったことはすぐに身をもって思い知らされました。(中略)授業に出れば、宿題の内容はおろか、宿題が出ていることさえも分からない始末。毎日泣きながら必死に勉強しましたが、英語はなぜか上達しませんでした。

向山淳子 『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』 幻冬舎 (2001) p.4 より引用

結婚を口実にアメリカに正規留学した著者の言葉です。専門と英語を両方得ようとして、結局どっちつかずになるリスクがあることをご承知ください。

関連記事:RYU×RYUフェスタ2018で沖縄の学生さんに海外就職のアドバイス(留学の相談を受けたときの話)

異文化に触れたい→旅行やネットじゃダメ?

もうひとつ「異文化に触れたい」という相談もあります。

日本を出て異国の地でしか経験できないことは確かにあります。しかしそのために留学という手段は必要でしょうか?旅行でもいいと思うのですが。

例えばヨーロッパにあこがれる人は多いですが、実に不便です。鉄道は時間通りに来ない、レストランでは注文をなかなか取りに来ない、スーパーマーケットは日曜日に閉まっている、歩きたばこが多くて煙を吸ってしまう、歩道に犬のふんがある、などなど。留学しなくても旅行で経験できますね。

語学留学で友達を作ろうという人もいます。友達を作ることは決して悪くありません。しかし私が実際に見てきた人は、言葉がうまくならず交流だけしていました。人によっては現地で知り合った人に会うためもう同じ語学学校に再入学しました。もはや何が目的がわかりません。

いくらフィリピン留学が他国より安いからといって、人と交流する目的ならコスパが悪いはずです。それだったら facebook や meetup というアプリで外国人のいるコミュニティに飛び込むことをおすすめします。

meetup アプリは日本だけでなく世界中のコミュニティを検索できます。日本国内で外国人と交流することもできますし、旅行先でタイミングが合えばそういう集まりに飛び入りしてもいいでしょう。

Meetup
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関連記事:海外就職したら気になる給料と現地の休日生活のこと(海外生活で meetup を使って交流する方法があるという話)

就職に有利だから留学したい→英語以外の特技や専門が必要

他にも「将来的に就職活動を有利にしたい」を留学の目的にする人もいます。

ここでいう就職活動とはいわゆる「新卒で良い会社(上場企業)に入るための活動」と思われます。一生に一度しかない新卒の就活のために高いお金と貴重な時間を使って留学する必要はありますか?これもコスパが悪すぎます。

そもそも新卒というブランドは日本特有のものです。私の知る限り、新卒/既卒という概念は他国にはありません。あるのは「大学で何を学んだか、即戦力として働けるかどうか」です。日本の新卒とはその会社の色に染めるため(社風に慣らせるため)に純白でいてほしいという意図な気がします。

だからアメリカの学生は即戦力を会社にアピールするために必死に勉強して専門知識を習得したり、インターンシップで経験値を増やしているのです。日本の大学がただの遊び場になっていることの方が世界と違うのです。

私はいわゆる新卒の権利で働くことはできませんでした。しかし転職時に海外で大手メーカーの仕事で働くことができました。日本国内でも上場企業に転職は可能でしょう。なぜなら仕事で培ったスキルが即戦力としてアピールできるたからです。

英語力より大切なのは「専門」です。英語が話せる人は世界中にたくさんいます。私は電気系の技術者としての基礎を最初の日本の会社で徹底的に習得しました。そして学生時代から勉強していた英語力を組み合わせて海外で転職したのです。

英語が先ではありません。専門能力(知識)が先なのです。アスリートもトップクラスの選手は語学力もあることを別記事で解説しました。併せてご覧いただければ幸いです。

関連記事:アスリートに英語力は必要?フェンシングの代表選考はやさしさ

若者が留学しないから日本は危機なのか?

日本人留学生数の推移

外部リンク:「外国人留学生在籍状況調査」及び「日本人の海外留学者数」等について:文部科学省

留学エージェントの主張で「留学する若者が減り日本がピンチ」というものがあります。果たして本当でしょうか?

上のグラフは文部科学省公表の日本人留学生数のデータです。この資料には「 OECD, ユネスコなどの公表データの合算(赤とオレンジの折れ線グラフ)」と「日本学生支援機構(青い棒グラフ)」のふたつのデータがあります。

そして留学エージェントが「日本人留学生が減っている」と主張する根拠は OECD 側のデータです。確かに 2004 年をピークに減少していることが折れ線グラフからわかります。

しかしこの折れ線グラフは 2013 年より色が変わっています。理由は明確です。文部科学省は「データの集計方法が変わり比較ができない」と資料に明記しています。

そして日本学生支援機構の棒グラフを同じ軸で並べてみると、 2013 年以降の留学生の数はむしろ増加傾向にあることがわかります。

日本学生支援機構のデータには「 1 年以上の正規留学」と「 1 年未満の短期交換留学生」の両方が含まれます。つまり、正規留学にこだわらなければ「海外に何らかの形で出ている日本人留学生は増えている」のです。

留学エージェントの主張はウソだと言わざるをえません。少なくとも「留学生が減っている」という現象は一時的なもので「正規留学」にこだわらなければ海外に出ている学生は増えている、とグラフから解釈できます。ましてや「日本が危機」かどうかは別の話で、煽りと受け止めざるをえません。

アメリカに正規留学すれば数百万円のお金がかかります。貴重な若い人生の 4 年間を正規留学にこだわる必要はありますでしょうか?今は気軽に海外に行ける時代です。私は就労で海外に出ましたが、海外在留日本人も毎年増えています。

このような留学エージェントの主張にはご注意ください。

関連記事:海外就職とは何か?働き方の種類と外国で日本人が必要な理由(海外在留日本人は毎年過去最高を記録している話)

どうしても正規留学するなら3つ:最先端技術、アート、政治経済(外交)

正規留学すべき3つの理由(最先端技術、アート、政治経済や外交)

それでもどうしても正規留学したいのであれば、この 3 つのどちらかが当てはまりそうか考えてみてください。どれも私が考える「正規留学すべき理由」です。

  • 最先端のテクノロジーや知識を学びたい
  • 音楽や芸術を本場で学びたい
  • 将来、政治家か外交官になるため人脈を作りたい

最先端の技術を学びたいのであれば MIT や他のアメリカの大学に行くべきです。また芸術系であればアメリカだけでなくヨーロッパに行くのもありでしょう。

日本にも落合陽一氏やノーベル賞級の先生はいるので、アメリカでないといけないということではありません。また MOOC (Massive Open Online Courses) というネット映像配信でも有名な先生から学べる時代です。

それでも世界の最先端を学びたいのであればアメリカに行って有名な先生の下で学ぶという選択肢はありでしょう。チャレンジする人は素敵です。

高橋洋一氏のプリンストン大学時代の先生のツイート

例として、経済学者の高橋洋一氏は財務省(旧大蔵省)時代にプリンストン大学に留学しました。その時の先生がベン・バーナンキ元 FRB 議長(日本でいう日本銀行総裁に相当)だったとツイートしています。

現在も交流があるかどうかはわかりませんが、このように最先端の経済理論を習得して日本の行政改革に活かす。これこそ留学の効果といえるでしょう(年金制度については議論がありますが、少なくとも現在の方法は高橋氏が関わっており、以前より公平な制度になっています)。

もうひとつの留学すべき理由です。政治の世界に将来的に行きたいのであれば、若いうちから海外で人脈を作っておいた方がいいでしょう。同じ大学の先輩や後輩、同期が将来的に外交をする立場になるかもしれません。

その最も好例なのが雅子皇后陛下です。ハーバード大学をご卒業された時には皇室に入られることを想定されていなかったでしょう。父の背中を見て外交官になりました。そして長い時を経て陛下になられ他国の王室を中心に交流をされています。

外交官でもできないポジションで公務をお勤めになります。これからの日本にとってプラスになるとしか思えません。

この記事の目的は政治の議論ではなく、あくまでも正規留学のメリットの話です。

まとめ

このように、専門性や目的を明確にして正規留学されることをおすすめします。東南アジアであれば比較的英語ができなくても海外就労できます。時代は変わりました。自分が何をしたいのか、明確にして適切な選択をしてくださいね。

この記事をまとめましょう。

  • 留学には「正規留学」と「語学留学」の 2 種類がある。言葉だけを習得したいなら語学留学で十分。正規留学で「語学」と「専門」の両方を得ようとすると、どちらも身につかずに挫折するリスクあり。海外の大学を卒業するのはそれくらい大変。
  • 正規留学するのであれば「最先端技術、本場のアート、政治経済(外交人脈づくり)」のどれかを選択すべき。日本で学べる知識はネイティブである日本語で勉強した方が効率的。
  • 留学エージェントは「海外に出る日本人留学生が減り日本の危機」と主張する。しかし短期交換留学の学生を含めれば日本人留学生の数は増加傾向にある。本当に正規留学にこだわるべきか?冷静になった方がよい。

参考文献

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このブログを書いている人

ダイブツ
twitter: @habatakurikei
元々IT系だけど電気系技術者。20代で博士号を取得するも、全然社会の役に立てないのが不満でブログによる情報発信を開始。あなたに有益な知識やノウハウを理系目線かつ図解でわかりやすく解説するのがモットー。2018年心臓発作であわや過労死寸前。そこからガジェットレビューを通じた体調管理の情報発信も開始。ベルギー在住でシンガポール就労経験もあり、海外転職や海外生活のノウハウも公開中。

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